我欲するゆえに我あり

黒幸

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8 戦士の証明

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 先人は言った。
 当たらなければ、どうということはないし、蝶のように舞い蜂のように刺せばいいのだ、と……。

「冗談きついだろ」

 エビ野郎……ブラックタイガーは丸腰の俺が一番、与しやすいと考えたんだろう。
 オルガとスリーパーを無視して、俺に襲い掛かってきた。
 速い。
 かなりの速さで動けるようだ。
 伊達に足がたくさんないってか?

 それでも避けられないほどの速さではない。
 じっちゃんとの特訓ではもっとスピードのある拳が飛んできた。
 それに比べたら、どうということはない。

「危ないな、おい」

 そうは言っても槍のような両腕でラッシュ攻撃をしてくるとさすがに面倒だ。
 数打てば当たるにしても正確な突きでスピードも乗っている。
 確実に急所を狙ってくるあたり、恐ろしいヤツだと思う。

 だが、避けられる。
 気を付けるのは腕よりも体液かもしれない。
 下手に攻撃して返り血が飛べば、それだけで傷を負いかねないだろう。
 だったら、どうするのか。

 幸いなことにヤツは重量もそこそこ、ありそうだ。
 これを利用しない手はないだろう。

「そこだっ!」

 わざと引きつけてから、エビ野郎の突きを紙一重で交わす。
 当たっていれば、お腹に大きな風穴が開いて、頭はパーンと弾けていた。
 だが、当たるようなへまはしない。

 微かに頬が傷つけられたのはしくじりだが、うまくいった。
 まんまと躱してヤツの懐へ飛び込むことに成功した。
 ヤツのたくさんある歩脚に渾身の足払いを仕掛けながら、その腕の根元に渾身の力を込めた指を入れる。

「よし。成功だ」

 賭けに近い作戦だったが、うまくいった。
 思った通り、ヤツの体はかなり重いようだ。
 俺を殺れると前のめりにきていたところを足払いで思い切り、すくわれた。
 自重を支えきれなくなり、つんのめったところで重い体であることが災いしたってことさ。

 それほど力を込める必要もなく、案外簡単にヤツの腕はもげた。
 返り血が危ないのでヤツのどてっぱらにミドルキックをぶち込み、その反動を利用して後ろに飛びすさって回避する。
 引きちぎった腕は意趣返しも含め、オルガの方に投げつけてやった。

「何すんのよ、このバカ! 危ないじゃない」

 金切り声でキーキーと騒いでいるが、喚きながらもエビ野郎の腕を利用した槍もどきを作ろうとしている。
 オルガも案外、悪いヤツではないのかもしれない。
 いや、そんなことを考えている場合じゃなかった。

 腕をもぎ取られたエビ野郎がキシャーキシャーとこちらも喚きながら、俺に突進してきたからだ。
 じっちゃんに修行させられていた経験上、知っている。
 手負いの獣ほど怖いものはない。
 それは例え、魔物であっても同じだ。

 しかもこのエビ野郎は知能も高いらしい。
 自身の体液が武器になることも計算してやがるときた。
 こういう時、迷いは命取りとなる。

 いくら子供の頃から、修行させられていたとはいえ、俺はまだ十五歳に過ぎないと思い知らされた。
 判断ミスだ。
 避けきれないと覚悟した。
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