我欲するゆえに我あり

黒幸

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26 窓に

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 オルガはしつこいくらいに「本当にいいの?」と言ってきたが、漢に二言はない。
 俺は床で寝ると言ったら、寝ると言い張ったが、「ソファでいいでしょ」と言われたのでそこは譲歩した。
 臨機応変、実に便利な言葉だ。
 そして、俺の好きな言葉である。
 勿論、嘘だが。

 なんだかんだと言いながら、オルガはベッドの上ですやすやと熟睡している。
 大人しくしていれば、間違いなくお嬢様なんだけどなあ。

 俺は備え付けのソファと言うには随分と貧相な代物だが、そこに毛布を敷いて、休むことにした。

 しかし、どうにもいけない。
 眠ろうとすればするほど、目が冴えてくる。

 緊張して寝られない。
 興奮して寝られない。
 オルガと同じ部屋だから、意識して寝られないんだろうって?

 否!
 断じて否!
 そうではないんだ。

 窓から、差し込む月明りだけで部屋は薄暗い。
 不思議なほどに静かなのが気味が悪いくらいか。
 しかし、目を閉じると違和感を覚えるんだ。
 はっきりとは聞こえない何者かの息遣いが聞こえる。

 再び、目を開けて辺りを窺っても何も異変はない。
 オルガは何事もなかったように夢の世界の住人でいる。

「単なる気のせいか?」

 そう思って、再び横になり、目を閉じるとやっぱり、感じるのは息遣いだ。
 そして、今度は気のせいではなく、はっきりと感じた。
 何かに見られている!

「どこだ!?」

 飛び起きて、室内を探るが何もいない。
 そして、違和感の正体に気付いた。
 月が雲で隠れたんだろうか。
 薄暗かった部屋が今は闇に包まれていると言っていいだろう。
 暗いんだ。
 とにかく暗い。
 何でこんなに暗いんだと不審に思って、窓を見て愕然とした。

 こちらを見ている何かと目が合った。
 いや、目が合ったという言い方はおかしかったか。

 窓にソイツはいた。
 いや、待て。
 ソイツと言ったが何なのか分からない。
 得体の知れない何かだ。

 窓の外から、こちらを見ていた。
 巨大な目としか、言いようがない。
 それも人の目には思えなかった。
 爬虫類を思わせる瞳孔をした目だ。
 それが部屋の中をジッと見ている……。

 俺は金縛りにあったように指一つすら、動かすことができない。
 ただ、窓からこちらを見つめる不気味な目と睨み合うことしかできない。



「フリオ! 起きなさいよ、もう朝だってば」
「うわああああ」
「な、何よ!?」
「あ、ああ。オルガか」

 どうやら、知らないうちに俺は寝ていたらしい……。
 ソファの上でしっかりと毛布を被って、熟睡していたとオルガが半ギレしながら、教えてくれた。

 じゃあ、アレは全て、夢だったのか?
 それなら、よかった。
 まさかなあ。
 あんなのが本当にいる訳ないか。

「なあ。オルガ。あの窓ってさ」
「うん?」
「あんなに汚かったか?」
「さあ? 覚えている限りでは月明かりがしっかりと入っていたから、あんな汚れてなかったと思うけどぉ」
「だ、だよなあ」

 タール。
 ヘドロ。
 形容しがたいが黒くて澱んだものがべったりと付いていた。
 さらに気持ち悪いのはその黒いモノをなすりつけたような人の手形が無数に付いていることだ。
 何なんだよ、一体。

「オ、オルガ。さっさと出るとしようか」
「え? まぁ、それは構わないけど」

 訝しむオルガを急かし、早々にホテルを出ることにした。
 アレは夢じゃなかったってことだ……。
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