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第21話 北の流星
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「おや、片付いたようだね」
白馬に跨った貴公子。
こいつこそ、北の流星の二つ名を持つモドレドゥス・ド・バルザック辺境伯、その人だ。
その右手に握られているのは穂先に豪奢な装飾が施された伝説の魔槍アラドヴァル。
殺戮する者なんて物騒な名を持つこの槍に刺されると全身が焼かれて、死ぬらしい。
恥ずかしい二つ名だとか、馬鹿にすると真顔で刺してくるから、やめた方がいい。
冷血帝カルストフ。
現皇帝ゲッツ陛下からすると祖父にあたる先々代の皇帝だが、彼が成したもっとも大きな事業は方々に胤を蒔いただけ、と言われる好色な人物として有名だ。
正室であるモニカとの間に世継ぎのレオポルト陛下が生まれてから、義務が終わったとばかりに女遊びに拍車がかかったらしい。
分かっているだけの子供の数でも五十人を超えるというとんでもなさだから、冷血帝より好色帝の方が合っているんじゃないかね?
その数多いる子の一人に含まれるのがセレナ姫であり、このモドレドゥス皇子だ。
あのベーオウルフもカルストフ帝の落とし胤を自称しているがとりあえず、珍しい銀色の髪なだけでもそう名乗り出てくる輩が後を絶たなかったらしい。
酷い話もあるもんだ。
皇族のバーゲンセール状態とは何のジョークなんだか。
それだけ、たくさんいるんだから、玉石混淆なのは言うまでも無いんだが、共通して言えるのは皆、美形で生まれたってことは確かな話のようだ。
カルストフ帝っていうのは人としても最低で為政者としても最悪だが、その容姿だけは神が嫉妬する美貌というくらいの美男子だったらしい。
その遺伝子が強いのか、子供がすべからく、きれいな訳だ。
セレナ姫のかわいさを見れば、分かるだろう。
アイドルが腰を抜かすレベルのかわいさだぞ?
おまけにあの小動物みたいなおどおどしたところなん……いかん。
話が脱線したな。
つまり、モドレドゥス皇子ってのも貴公子なんて、生易しいくらいのイケメン様なのだ。
やや薄めの色素の金髪と空色の瞳は童話に出てくる王子様がそのまま、本から出てきたと錯覚するレベルだ。
線が細くて、黙っていたら、きれいな女性と見間違えるくらいだからなぁ。
「片付いたんですがどうするか、決めあぐねているところですよ」
「おや。非道なリンブルク将軍が随分、お優しいことで」
彫像のように美しい顔に薄っすらと底意地の悪い微笑みを浮かべ、嫌味を言ってくる。
こいつはそういう男だった。
正確には心を許した相手にはこういう面を見せる男だ。
「いえいえ、虐殺皇子こそ、今日は虐殺が足りなかったのでは?」
「ふふっ。半数は君と君の手勢の仕事だと思うけどね? 僕は無駄な虐殺はしないさ。使える物は使わないと勿体ないと思わないかい?」
「その勿体ない皇子さまはどう思いますかね? この人、使えますかね?」
泡を吹いて、大地にだらしなく、のびた姿を晒しているクシカを指し示すとモドレドゥスは両手を上げて、やれやれといった表情を見せる。
まあ、そういう反応になるでしょうね。
「フレデリクはどうしたいんだい?」
「ド・プロットがいなくなると西がどうなると思いますか?」
「ふむ、間違いなく荒れるだろうね。ああ、そういうことかい。なるほどね」
モドレドゥスはふんふんと一人頷いて、納得しているがこれもこいつの特徴だな。
一人で納得して、一人で完結してしまう。
そのせいで誤解されることも多いんだが、悪いやつではない。
少々、面倒なやつであることは確かだが、悪いやつではない。
大事なことなので二回言ってみたが悪いやつではないと俺が自分に言い聞かせたいだけなんだよね。
「ええ、この人よりも奥方の方が頼りになるのではないかと思いましてね」
「へえ、そうなのかい。ふむ、そうか。奥方ね。確か、ティボー家の末裔ではなかったかい?」
「ああ、そうなんですか。なるほど、それでですか」
ティボー家というのは英雄王スレイマンに仕え、功業の臣と歴史書に名が残るベルトラン・ティボーを始祖とする子爵家だ。
実際、気が遠くなるほど、昔の人物であるベルトランの血を本当に引いているのかは怪しいところなんだがまんざら嘘でもないのか、政と謀略に長けた人材を輩出するので有名な家らしい。
そこの御令嬢であり、クシカに嫁いだアデライド・ティボーは男に生れていればと父親が嘆く程に才能があって、当時、社交界でも有名な美少女だったそうだ。
そのアデライド嬢がなぜか、辺境の西において、一指揮官に過ぎなかったクシカに一目惚れして、家の力を使って、結婚した。
クシカは良くも悪くも武人であって、政治力なんて期待出来ないが、この奥方なら話は違ってくるだろう。
そんな期待を込めての先輩延命なのだ。
しかし、良く考えるとほとんど出てこないクシカの奥方にそんな裏設定をしているとか、恐ろしいゲームだな。
「まあ、これは俺から責任持って、先輩に話を付けておきますよ。殿下はどうされるんですか?」
「僕かい? 掃除は終わったようだし、軍をまとめて、北に戻るさ。今日はたまたま、体調が良かっただけで僕は体が弱いのでね。久しぶりに友が会いに来てくれたから、遠出をしたまでだよ」
「殿下、近いうちに俺が殿下のところに遊びに行きますよ。余計なのも付いてきそうですが構いませんかね?」
「妹を連れてきてくれるなら、僕も会ってみたいからね。彼女とは会ったことがないんだ。まあ、会ったことがない兄弟姉妹ばかりなんだけどね。ははっ。期待して、待つとしようか。また、会おう、友よ」
美男子は何をしても絵になるな。
白馬に跨って、マントを翻して去っていくなんて、どこの王子様だって話だ。
いや、実際、あいつは皇子ではあるんだが本人は皇帝の位とか、どうでもいいと思っているんだよなぁ。
外野が勝手に帝位を狙う野心家と騒いでいるだけなんだ。
あいつはそんなのに興味ない。
掃討戦を終えたド・バルザックの弓騎兵は整然と戦場を撤退していく。
見事な手際に賞賛の言葉しか、浮かんでこない。
掃討戦に至るまでの流れも見事だった。
兵数で劣っているにも関わらず、弓騎兵の機動性と攻撃性を存分に生かした戦術だ。
中軍が牽制しながら、敵わずと見せかけ、偽の撤退で餌をちらつかせ、弓を射ては逃げるを繰り返し、まるで蟻地獄のように引き寄せる。
中央に寄り気味になったところをわざと引いていた左右両翼が展開、中軍も逆襲の為に取って返し、逆に包囲されたド・プロット軍は殲滅されたという訳だ。
まあ、後方から、味方の後詰に攻撃されたというイレギュラーな要素はあったにせよ、モドレドゥス。
敵にはしたくない男だよ。
白馬に跨った貴公子。
こいつこそ、北の流星の二つ名を持つモドレドゥス・ド・バルザック辺境伯、その人だ。
その右手に握られているのは穂先に豪奢な装飾が施された伝説の魔槍アラドヴァル。
殺戮する者なんて物騒な名を持つこの槍に刺されると全身が焼かれて、死ぬらしい。
恥ずかしい二つ名だとか、馬鹿にすると真顔で刺してくるから、やめた方がいい。
冷血帝カルストフ。
現皇帝ゲッツ陛下からすると祖父にあたる先々代の皇帝だが、彼が成したもっとも大きな事業は方々に胤を蒔いただけ、と言われる好色な人物として有名だ。
正室であるモニカとの間に世継ぎのレオポルト陛下が生まれてから、義務が終わったとばかりに女遊びに拍車がかかったらしい。
分かっているだけの子供の数でも五十人を超えるというとんでもなさだから、冷血帝より好色帝の方が合っているんじゃないかね?
その数多いる子の一人に含まれるのがセレナ姫であり、このモドレドゥス皇子だ。
あのベーオウルフもカルストフ帝の落とし胤を自称しているがとりあえず、珍しい銀色の髪なだけでもそう名乗り出てくる輩が後を絶たなかったらしい。
酷い話もあるもんだ。
皇族のバーゲンセール状態とは何のジョークなんだか。
それだけ、たくさんいるんだから、玉石混淆なのは言うまでも無いんだが、共通して言えるのは皆、美形で生まれたってことは確かな話のようだ。
カルストフ帝っていうのは人としても最低で為政者としても最悪だが、その容姿だけは神が嫉妬する美貌というくらいの美男子だったらしい。
その遺伝子が強いのか、子供がすべからく、きれいな訳だ。
セレナ姫のかわいさを見れば、分かるだろう。
アイドルが腰を抜かすレベルのかわいさだぞ?
おまけにあの小動物みたいなおどおどしたところなん……いかん。
話が脱線したな。
つまり、モドレドゥス皇子ってのも貴公子なんて、生易しいくらいのイケメン様なのだ。
やや薄めの色素の金髪と空色の瞳は童話に出てくる王子様がそのまま、本から出てきたと錯覚するレベルだ。
線が細くて、黙っていたら、きれいな女性と見間違えるくらいだからなぁ。
「片付いたんですがどうするか、決めあぐねているところですよ」
「おや。非道なリンブルク将軍が随分、お優しいことで」
彫像のように美しい顔に薄っすらと底意地の悪い微笑みを浮かべ、嫌味を言ってくる。
こいつはそういう男だった。
正確には心を許した相手にはこういう面を見せる男だ。
「いえいえ、虐殺皇子こそ、今日は虐殺が足りなかったのでは?」
「ふふっ。半数は君と君の手勢の仕事だと思うけどね? 僕は無駄な虐殺はしないさ。使える物は使わないと勿体ないと思わないかい?」
「その勿体ない皇子さまはどう思いますかね? この人、使えますかね?」
泡を吹いて、大地にだらしなく、のびた姿を晒しているクシカを指し示すとモドレドゥスは両手を上げて、やれやれといった表情を見せる。
まあ、そういう反応になるでしょうね。
「フレデリクはどうしたいんだい?」
「ド・プロットがいなくなると西がどうなると思いますか?」
「ふむ、間違いなく荒れるだろうね。ああ、そういうことかい。なるほどね」
モドレドゥスはふんふんと一人頷いて、納得しているがこれもこいつの特徴だな。
一人で納得して、一人で完結してしまう。
そのせいで誤解されることも多いんだが、悪いやつではない。
少々、面倒なやつであることは確かだが、悪いやつではない。
大事なことなので二回言ってみたが悪いやつではないと俺が自分に言い聞かせたいだけなんだよね。
「ええ、この人よりも奥方の方が頼りになるのではないかと思いましてね」
「へえ、そうなのかい。ふむ、そうか。奥方ね。確か、ティボー家の末裔ではなかったかい?」
「ああ、そうなんですか。なるほど、それでですか」
ティボー家というのは英雄王スレイマンに仕え、功業の臣と歴史書に名が残るベルトラン・ティボーを始祖とする子爵家だ。
実際、気が遠くなるほど、昔の人物であるベルトランの血を本当に引いているのかは怪しいところなんだがまんざら嘘でもないのか、政と謀略に長けた人材を輩出するので有名な家らしい。
そこの御令嬢であり、クシカに嫁いだアデライド・ティボーは男に生れていればと父親が嘆く程に才能があって、当時、社交界でも有名な美少女だったそうだ。
そのアデライド嬢がなぜか、辺境の西において、一指揮官に過ぎなかったクシカに一目惚れして、家の力を使って、結婚した。
クシカは良くも悪くも武人であって、政治力なんて期待出来ないが、この奥方なら話は違ってくるだろう。
そんな期待を込めての先輩延命なのだ。
しかし、良く考えるとほとんど出てこないクシカの奥方にそんな裏設定をしているとか、恐ろしいゲームだな。
「まあ、これは俺から責任持って、先輩に話を付けておきますよ。殿下はどうされるんですか?」
「僕かい? 掃除は終わったようだし、軍をまとめて、北に戻るさ。今日はたまたま、体調が良かっただけで僕は体が弱いのでね。久しぶりに友が会いに来てくれたから、遠出をしたまでだよ」
「殿下、近いうちに俺が殿下のところに遊びに行きますよ。余計なのも付いてきそうですが構いませんかね?」
「妹を連れてきてくれるなら、僕も会ってみたいからね。彼女とは会ったことがないんだ。まあ、会ったことがない兄弟姉妹ばかりなんだけどね。ははっ。期待して、待つとしようか。また、会おう、友よ」
美男子は何をしても絵になるな。
白馬に跨って、マントを翻して去っていくなんて、どこの王子様だって話だ。
いや、実際、あいつは皇子ではあるんだが本人は皇帝の位とか、どうでもいいと思っているんだよなぁ。
外野が勝手に帝位を狙う野心家と騒いでいるだけなんだ。
あいつはそんなのに興味ない。
掃討戦を終えたド・バルザックの弓騎兵は整然と戦場を撤退していく。
見事な手際に賞賛の言葉しか、浮かんでこない。
掃討戦に至るまでの流れも見事だった。
兵数で劣っているにも関わらず、弓騎兵の機動性と攻撃性を存分に生かした戦術だ。
中軍が牽制しながら、敵わずと見せかけ、偽の撤退で餌をちらつかせ、弓を射ては逃げるを繰り返し、まるで蟻地獄のように引き寄せる。
中央に寄り気味になったところをわざと引いていた左右両翼が展開、中軍も逆襲の為に取って返し、逆に包囲されたド・プロット軍は殲滅されたという訳だ。
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