【完結】破滅確定だけど最強の将軍に転生したので推しの姫を全力で推していこうと思う

黒幸

文字の大きさ
34 / 46

第24話 孤狼VS女狐

しおりを挟む
「あなた、高名なリンブルク将軍までいらしたということは何か、大事なお話がありますのね?」

 これは一筋縄ではいかない相手だというのが第一印象で分かってしまう。
 フレデリクの記憶ではクシカ先輩との接点もあまりなかった。
 ましてや、その奥方には何の興味もなかっただろう。
 アデライド・ティボーという名前しか、記憶に残ってないから、これは想定外だぞ。

 応接室へと案内された俺をさらに戸惑わせたのはこの奥方の腹の底が全く、読めないことだ。
 応接室で腰を下ろした途端、この奥方、何と言ったと思う?

「はぁ。堅苦しいのは面倒だから、リンブルクさんももっと楽にしていいわ。私もそうさせてもらうから」
「あぁ、フレデリク。アディは元々、こういうとこがあってな。まぁ、気にすんな」
「は、はぁ」

 人目があるところでは完璧な淑女を演じているだけってことか。
 食えない人だな。

「それでフレデリクさんだっけ? あなた、うちの旦那に何をさせようっていうの? それとも私に何かをさせる気なの?」

 単刀直入に切り込んできたか。
 ますます、読めない人だな、これは!

「皇宮の方で何らかの動きがあったことは既に御存知でしょうか?」
「私、これでも社交界では知られた顔なの。表では話せないようなことでも私的なお茶会ではそういったお話が噂になるものなのよ? 知らなかった?」
「ほぉ、そうなのか」

 いや、クシカ先輩。
 あんたはもうちょい、政治的なものというか、学んだ方がいいと思うぞ、うん。
 しかし、この奥方がいるのなら、余程のへまをしない限り、平気そうだが。

「それなら、話が早いですね。ド・プロットという楔を失うと西はどうなるでしょうか?」
「ふぅ~ん。あなたって、聞いていた噂と大分、違うのね。思慮が足りない乱暴者で冷酷非情な男と聞いてたんだけど?」

 俺の心の中を探るように濃緑色の美しい瞳で射竦めてくる。
 しかし、この美しさだ。
 勘違いをする男がいてもおかしくないだろうな。
 勿論、俺は勘違いなどしない。
 これは戦いだからな。

「俺も奥方が聞いていた以上にお美しくて、しかも思った以上に賢いお方のようで驚いていますよ」
「へぇ、言うのね?」
「いやいや、あなたほどではありませんよ」

 二人とも表面は穏やかににこやかな笑みを浮かべながらなのに火花が飛び散るような妙に刺々しい空気なのは気のせいではない。
 その証拠にクシカ先輩は俺たちを見比べながら、おどおどしている。
 熊みたいな見た目の割にそれはかわいく見えるんじゃないかね。
 あぁ、奥方もそのギャップにやられた人か。

「まぁ、いいわ。楔がなくなった以上、西の諸国は動き出すでしょうね。鈴がなくなったのよ? 自由に動きたくなって、仕方がないことでしょうね」
「さすが、良く見ておられるようで。そうなると厄介ですよね」
「ええ、厄介でしょうね。一度ついた火種は決して、消えることなく、西の地を焼き尽くすでしょうね」
「俺には何のことだか、さっぱりだぜ」

 先輩はちょっと、黙っておこうか。
 借りてきた熊でいいと思うんだ、あなたは。

「まさか、あなた。うちの旦那にその楔になれって、言うんじゃないでしょうね?」
「そのまさかだったら、どうします?」
「無理よ。うちの旦那にそういう芸当が出来ると思うの? 腹芸なんて、器用なことが出来る人じゃないし、この人にそういう生き方をして欲しくないの」

 そう言って、先輩を見つめる瞳は慈愛に満ち溢れていた。
 少女のような見た目のこの奥方がどれだけ、先輩のことを愛しているのかが良く分かる。

「あなたがいれば、それが出来ると思うのですよ。ティボー家のあなたにはそれが出来るはずだ」
「言ってくれるわね。確かに私には出来るかもしれないわ。でも、私は気が進まないの。言ったでしょ? うちの旦那を矢面に立たせたくないのよ」

 狂おしいほどの愛情と強い意志を持った女性か。
 強敵どころか、難敵だぞ、これ。
 どうするかね?
 こういう人が相手だと下手にカードを隠しておくより、手の内を明かした方が得策かもしれんね。

「俺も覚悟を決めましてね。デルベルクの名を継ぐことに決めたんですよ」
「へぇ、あなたも? でも、それくらいで私たちが動くとでも?」

 先輩は相変わらず、何の話か分からないらしく、オロオロしているようだが……。

「陛下は東に都をうつされるでしょう」
「そうでしょうね。むしろ、こんな西に都をうつすなんて、無能にもほどがあるわ。下手したら、あっという間に都を包囲されかねないんだから、本当、無能よね」
「アディ。大将だって、無能じゃなかったんだ。故郷に近いから、それでなんだ」
「それを無能って言うのよ? じゃなきゃ、馬鹿なのよ」

 言いたいことを言い合える夫婦って、素敵だな。
 いや、この場合、年下の娘くらいの妻の尻に敷かれているだけとも言うか。

「そして、我々は有力な皇族お二方からの支持も取り付けているんですよ」
「北の流星と氷の姫君でしょ? あなたのような人が認めるまともな皇族は他にいないから、すぐに分かるわ。それで……あなたが主と仰いだのはどっちなの?」

 この人は間違いなくどちらを選んだのか、分かっていて聞いてるんだろうな。
 ティボー家に女として生まれたのを嘆かれたベルトランの再来という肩書は伊達じゃないようだ。

「ゾフィーア皇女ですよ。彼女が本拠とするオステン・ヘルツシュテレは東の要衝にして、発展著しい大都市です。それに彼女の下に集まった者は俊才・英傑ばかりだ。将来性を考えても彼女に賭けるのがいいと思いましてね」
「嘘ね。本当はモドレドゥス皇子に賭けたかったんでしょ? でも、それは出来なかった。違う?」

 鋭すぎて、もう怖いくらいだ。
 この人を敵に回したら、絶対やばいのではないかってくらいに怖いな。

「ご明察の通りですよ。俺はモドレドゥスとは古い仲ですし、良く分かっていますからね。ただ、あいつには野心がない。自分のことが分かっているから、望みなんて持たない。あいつはいいやつなんですよ」
「そう。そうするといずれ、北も不穏になる可能性があるわね。それはあなたがどうにかしてくれると思っていいのね? 私と旦那が西を守る、あなたは北を守る。片方が苦しい時は必ず、助ける。こんな感じなら、悪くないわ」
「それって、つまり、話を受けてくださる?」
「どういうことだ、アディ?」
「クーちゃんはちょっと黙っておいて?」
「お、おう」
「そういうことよ。よろしく、フレデリクさん」
「こちらこそ、よろしく。アデライドさん」

 先輩は分かってないんだから、黙っときなって。
 というか、あんた、その顔でクーちゃん呼ばわりか。

 いや、いいんだけどさ。
 いいんだけど、商談がまとまった途端にイチャイチャするのは俺が帰ってからにしてくれませんかね?
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...