45 / 46
第35話 エピローグ・勝ち取った平穏
しおりを挟む
「ふぅふぅ。はい、もう大丈夫ですわ。お口を開けてくだひゃい。あ~ん」
言われるがまま、俺は大きく口を開けると食べやすいように冷まされた粥が自動的に運ばれてくる。
至れり尽くせりというやつだろう。
彼女は未だにこの状況に慣れないのか、頬を桜色に染めながらも看護をしてくれる。
「すみませんね、姫。こんな有様で」
「し、しょんなことありまひぇんからぁ」
姫の噛み癖が悪化していないか。
だが、あわあわと慌てふためく姿すら、愛らしくてどこまでもかわいい。
さすがは世界のヒロイン!
俺の中という限定だが……。
俺はどうにか、生きている。
どうにかというには十分過ぎるほどに元気だ。
元気なんだが、両手足は見事なまでに折れている。
内臓もかなりのダメージを負ったらしく、医者が匙を投げたらしい。
無事なのは頭と顔だけといってもいい状態だったのだ。
いや、頭と顔が無事なら、どうにでもなるんじゃないか? と思ってしまうくらいこの世界は不思議なことが多いんだがね。
あの時、俺は確かに死んだ。
そう思った。
これで全てが終わりだと思ったその時、温かい光とともに手を差し伸ばしてくれたのは女神様だった。
いや、女神様でもなければ、天使でもなかった。
姫だったのだ。
あの時、確かにベーオウルフを倒すことが出来た。
だが、引き換えに全身が傷だらけの酷い状態で死を待つのみだったのだ。
その覚悟で俺は必殺の一撃を放った。
もう心残りはないはずだったんだが……心残りがあったんだよな。
それが姫のことだったんだが……。
まさかなんだよなぁ。
その姫が規格外の癒しの力を持っているとはね。
姫はゲームでも確かにヒーラーとしての適性が高かった。
だから、癒しの力を持っていること自体はおかしくない。
しかし、三途の川を渡りかけた魂を連れ戻すほどの力はないはずだ。
不思議なこともあるものだ。
おまけに俺を助けようとあの氷の皇女様が姫を伴ってやって来たと聞いた。
余計に信じられないだろ?
俺だって、信じられない。
しかもあの皇女様が大賢者に頭を下げたそうだ。
本当に信じられないよなぁ。
それで見舞いに来てくれた時が傑作だった。
あの氷の姫君がだよ。
『わ、私は心配していた訳ではないのだぞ。お前に今、死なれては契約で損するからであって』とちょっぴり赤くなった顔で目がキョドって泳いでいるんだぜ?
ツンデレなのか、彼女は。
そうそう、面倒なことにあいつも見舞いに来た。
シモンが仇敵だったサロモンと連れ立って、やって来たんだから、びっくりだ。
確かに政略的な事情もあるのだろう。
それだけではなく、争う原因が取り除かれたのが一番、大きかったらしい。
どちらもあまり、根に持たないタイプの漢だったってことか。
それにしても見ているこっちが気持ち悪くなるくらいに仲が良くなっているな。
笑えるくらいに仲が良い。
おまけに『君のような稀代の英雄を我々は失うところだった! ああ、しかし、君はまことに英雄であった!』とか、言ってくるもんだから、何だかむず痒くなってくる。
どちらにせよ、あれほどいがみ合っていた二人が歩み寄ったのは大きいだろう。
元凶になっていたベーオウルフがいなくなっても反りが合わないだろうと睨んでいたんだが、これは嬉しい誤算と言うべきだ。
そのベーオウルフと行動を共にしていた面々も神妙な面構えで見舞いというか、別れを告げに来たのだ。
ユーリウスは自慢の長く美しい髪をばっさりと切って、思い詰めながらも妙にさっぱりとした表情で『義兄上を探すつもりです』と言っていた。
彼にとって、ベーオウルフは愛すべき、敬うべき男であるのは変わりがないのだろう。
フェリックは意外なことにユーリウスと行動を共にしないらしい。
『今の俺じゃ、兄者に合わせる顔がねえんだ』と苦虫を噛み潰したような顔をしていたが多分、大丈夫だろう。
毒に侵された腕を治してくれたアーデルハイト嬢と世界を見聞する旅に出ると言った時の顔はとても晴れやかなものだった。
しかし、その隣で女一人と男二人の旅で何もなければ、いいんだがね。
最後に訪ねてきたのは恐らく、俺と同じ、竜の血を引く少年――ヴァシリーだ。
彼は自らの過ちを認めたうえで俺に自分を鍛えて欲しい、弟子にして欲しいと訴えてきた。
その目は真剣そのもので真っ直ぐな気持ちが良く表れていたから、俺は首を縦に振るしか、なかった訳だが……。
「あれ、姫?」
セレナ姫の声が聞こえなくなったと思ったら、俺の胸に顔を預け、すーすーと安らかな寝息を立てている。
まだ、あどけなさが残るその寝顔を見ているだけで癒されてくるなぁ。
その頭を撫でたい! 髪を触りたい! むしろ、それ以上……いや、もうやめよう。
腕が折れているから、無理だからな。
こんな平和な日々がずっと続けばいいんだがなぁ……。
言われるがまま、俺は大きく口を開けると食べやすいように冷まされた粥が自動的に運ばれてくる。
至れり尽くせりというやつだろう。
彼女は未だにこの状況に慣れないのか、頬を桜色に染めながらも看護をしてくれる。
「すみませんね、姫。こんな有様で」
「し、しょんなことありまひぇんからぁ」
姫の噛み癖が悪化していないか。
だが、あわあわと慌てふためく姿すら、愛らしくてどこまでもかわいい。
さすがは世界のヒロイン!
俺の中という限定だが……。
俺はどうにか、生きている。
どうにかというには十分過ぎるほどに元気だ。
元気なんだが、両手足は見事なまでに折れている。
内臓もかなりのダメージを負ったらしく、医者が匙を投げたらしい。
無事なのは頭と顔だけといってもいい状態だったのだ。
いや、頭と顔が無事なら、どうにでもなるんじゃないか? と思ってしまうくらいこの世界は不思議なことが多いんだがね。
あの時、俺は確かに死んだ。
そう思った。
これで全てが終わりだと思ったその時、温かい光とともに手を差し伸ばしてくれたのは女神様だった。
いや、女神様でもなければ、天使でもなかった。
姫だったのだ。
あの時、確かにベーオウルフを倒すことが出来た。
だが、引き換えに全身が傷だらけの酷い状態で死を待つのみだったのだ。
その覚悟で俺は必殺の一撃を放った。
もう心残りはないはずだったんだが……心残りがあったんだよな。
それが姫のことだったんだが……。
まさかなんだよなぁ。
その姫が規格外の癒しの力を持っているとはね。
姫はゲームでも確かにヒーラーとしての適性が高かった。
だから、癒しの力を持っていること自体はおかしくない。
しかし、三途の川を渡りかけた魂を連れ戻すほどの力はないはずだ。
不思議なこともあるものだ。
おまけに俺を助けようとあの氷の皇女様が姫を伴ってやって来たと聞いた。
余計に信じられないだろ?
俺だって、信じられない。
しかもあの皇女様が大賢者に頭を下げたそうだ。
本当に信じられないよなぁ。
それで見舞いに来てくれた時が傑作だった。
あの氷の姫君がだよ。
『わ、私は心配していた訳ではないのだぞ。お前に今、死なれては契約で損するからであって』とちょっぴり赤くなった顔で目がキョドって泳いでいるんだぜ?
ツンデレなのか、彼女は。
そうそう、面倒なことにあいつも見舞いに来た。
シモンが仇敵だったサロモンと連れ立って、やって来たんだから、びっくりだ。
確かに政略的な事情もあるのだろう。
それだけではなく、争う原因が取り除かれたのが一番、大きかったらしい。
どちらもあまり、根に持たないタイプの漢だったってことか。
それにしても見ているこっちが気持ち悪くなるくらいに仲が良くなっているな。
笑えるくらいに仲が良い。
おまけに『君のような稀代の英雄を我々は失うところだった! ああ、しかし、君はまことに英雄であった!』とか、言ってくるもんだから、何だかむず痒くなってくる。
どちらにせよ、あれほどいがみ合っていた二人が歩み寄ったのは大きいだろう。
元凶になっていたベーオウルフがいなくなっても反りが合わないだろうと睨んでいたんだが、これは嬉しい誤算と言うべきだ。
そのベーオウルフと行動を共にしていた面々も神妙な面構えで見舞いというか、別れを告げに来たのだ。
ユーリウスは自慢の長く美しい髪をばっさりと切って、思い詰めながらも妙にさっぱりとした表情で『義兄上を探すつもりです』と言っていた。
彼にとって、ベーオウルフは愛すべき、敬うべき男であるのは変わりがないのだろう。
フェリックは意外なことにユーリウスと行動を共にしないらしい。
『今の俺じゃ、兄者に合わせる顔がねえんだ』と苦虫を噛み潰したような顔をしていたが多分、大丈夫だろう。
毒に侵された腕を治してくれたアーデルハイト嬢と世界を見聞する旅に出ると言った時の顔はとても晴れやかなものだった。
しかし、その隣で女一人と男二人の旅で何もなければ、いいんだがね。
最後に訪ねてきたのは恐らく、俺と同じ、竜の血を引く少年――ヴァシリーだ。
彼は自らの過ちを認めたうえで俺に自分を鍛えて欲しい、弟子にして欲しいと訴えてきた。
その目は真剣そのもので真っ直ぐな気持ちが良く表れていたから、俺は首を縦に振るしか、なかった訳だが……。
「あれ、姫?」
セレナ姫の声が聞こえなくなったと思ったら、俺の胸に顔を預け、すーすーと安らかな寝息を立てている。
まだ、あどけなさが残るその寝顔を見ているだけで癒されてくるなぁ。
その頭を撫でたい! 髪を触りたい! むしろ、それ以上……いや、もうやめよう。
腕が折れているから、無理だからな。
こんな平和な日々がずっと続けばいいんだがなぁ……。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜
犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。
これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる