星の堕ちた世界で~終末世界のエルフ~

黒幸

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32 シスターは元ヤン疑惑

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 ラバーさんは直情的な人で言い出したら、絶対に負けない信念の人だと思った。
 ここはそれ以外に選択肢はない。
 無理矢理にそう己自身が納得できるよう考えることしかできなかった。

 どうにか難を逃れることができたと実感できたのは、いつの間にかS市の市街地に入っていたからだ。
 何も知らない人々がいつも通りの日常を送っている。
 そんな姿を見て、ようやく落ち着けた。

「大丈夫かな、彼女」

 ユーくんはこういう時でも他者への気遣いを忘れない。
 本当にいい子だ。
 だから、不用意に「大丈夫だよ、きっと」なんて、根拠のない返事はできなかった。

「分からない。あの人、何か、考えがあるとは思うんだけど、それが分からないし……でも、無謀なことをする人ではなさそうだったからね」

 正直にそう述べることで今、自分達が置かれている状況を再確認するしかなかった。
 それから、一時間が経過して。
 さらに二時間が経過した。

 太陽は傾き始め、空はいつしか黄昏色に染まっている。
 普段だったら、センチメンタルな感情を刺激される黄昏た空も今はただ、不安を煽る一因にしかならない。
 ラバーさんは無事なのか。
 あの化け物はどうなったのか。
 気になることばかりで頭の中でグルグルと情報が錯綜するばかりだ。

『ミレイユ。あの彼女から、伝言が届きましたよ』

 そこにバルディエルがもたらしたのは朗報に他ならない。
 ラバーさんからの伝言が届いた。
 つまり彼女がまだ、生きていると考えて、間違いないはず。

「よかった。無事みたいね」
「ちょっと安心した」

 内容を確認する前だったけど、極度の緊張から解放されて、安心した。
 腰が抜けたような錯覚を受けたが、これは多分、気のせいだろう。

 ダイレクトメッセージを確認すると三十分後、とある飲食店を待ち合わせ場所に指定していた。
 御丁寧に住所と連絡先まで書いてあり、簡単な地図まで添付されていた。
 どうやら諏訪湖を臨む景観のいい飲食店らしい。

 ユーくんにその旨を伝えると満面の笑みを浮かべ、無言でサムズアップした。
 カエルなのになぜか、可愛く見える。
 これはうんたら効果みたいなのでそう見えるだけなのか、それとも……。
 深く考えてはいけない気がしてならない。



 今回はさすがに諦めた。
 約束の時間は差し迫り、場所がちょっと遠いのだ
 物理的な障害はさすがにどうしようもない。
 時間よりも早めに到着したいと思っても思いだけに留めるしかなかった。

 だから、件のレストランに着くと既にラバーさんがいた訳で……。

「ここだよっ! ここっ!」

 ラバーさんは席に付いていたが、わたし達を確認すると勢いよく立ち上がった。
 既視感があつた。
 出会った時と同じ!
 ブンブンと風を切りそうな勢いで右手を振っているのだ。
 違うのは左手だった。
 何とも痛々しい。
 包帯でグルグル巻きなのに加えて、添え木をされて吊られている。

「大丈夫……ではないですよね?」
「そうなん?」

 ユーくんはこういう時、なぜか鈍感であって。
 やや鈍いのも彼の魅力の一つだとは思うけど、さすがに察して欲しいところだ。
 左手を負傷したのか、吊られているのよりも先に気付くべきだと思う。

 服が違う。
 尼僧の着るワンピースドレスではなく、真っ白なジャージ姿に変わっているのだ。
 着替えたということはそれなりに何かがあったということに他ならないだろう。

 ただ、ブルネットと彼女の整っているけど、ややけばい顔立ちのせいか、元ヤンのように見える。
 田舎に行くとコンビニの前でたむろっているのと同じ雰囲気だ。
 シスターのはずなのに何とも不思議。

「まず、結論から言っちゃおうか」

 わたし達が席に着くと開口一番、彼女はそう切り出した。
 回りくどい話をされるよりも分かりやすいし、理解できる。
 くどくどとやるよりもさっさと終わらせたいのだろう。

「あの化け物は倒せなかった。あくまで帰ってもらっただけなんだ」

 そう言ってから、一呼吸おきたいのか、アイスコーヒーを一気に飲み干した。
 やっぱり豪快な人で間違ってないと思う。

 あの蛇のお化けみたいなのが倒せてないのは分かった。
 もし倒せていたのなら、わたしとユーくんのデバイスに通知が入るはずだからだ。
 見積もりが間違っていなければ、三人で等分されたと仮定しても都内でそれなりの一軒家を買えるポイントが入っていたと思う。
 恐らく、そんなヤバい化け物だったに違いない。

「でも、よくご無事で」
「本当、そうだよね。よかったよ」
「まぁ、そこはほらぁ。企業秘密っていうか。あたしって、こう見えても神に仕える聖なる僕じゃん? だから、そういうことなのよ」
「な、なるほど?」
「そうなんだ。分かったようで分からん」

 何がそういうことなのかはユーくんと一緒でさつぱり、分からない。
 ラバーさんには神様のように頼れる存在がいるということなんだろうけど、やっぱり分からない。
 彼女の様子からすると詮索しても教えてくれないだろうし、詮索してはいけない気がする。

「とりあえずさ。やれることはやったんだよ、あたし達は! そう考えたら、腹減ってきたわぁ。君達も食べるよね?」
「もちろん!」
「えっと……わたしはママが夕食まだだと思うから、ここでは食べないでお持ち帰りにしてもらおうかなと」

 空気を読まない選択をしたと自覚はある。
 だけど、母が一人で待っていると思うだけで食事が喉を通らないのだ。
 考えすぎかもしれないし、面倒な性格だと自分でも思う。

 ラバーさんとユーくんはディナーのフルコースを注文して、見事な食いっぷりを見せてくれた。
 見ていて惚れ惚れとするような食いつきの良さで一緒に食べておくべきだったとちょっと後悔もしている。
 せめてもの罪滅ぼし。
 今回の食事代はわたしが驕ることにした。

 中々に貴重な体験と新しい友人ができて、有意義なレイドだったと思う。
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