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第45話 備忘録CaseV・半分こ
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その者に名はない。
この世に生を受けた時から、忌み嫌われ呪われた存在だった。
理由はその出自である。
母親は代々、巫女の家系に生まれた生粋の巫女だった。
口寄せ――異界に起源を持つ霊体を我が身に憑依させる術――いわゆる降霊術を口伝してきた一族である。
その中でも傑出した力を持つ少女が、妖の太郎の母親になった。
いや、されたのだ。
父親は名を出すことさえ、憚られる者とされていた。
それもそのはず。
決して、その名を口にしてはならない人ではない存在だった。
異界との間に開いた門を通じて、こちらの世界にやってきた人に似て、人に非ざるモノ。
高次元生命体と呼ぶのが正しいそのモノはこちらに来る機会をずっと窺っていたのだ。
門とは即ち、巫女そのものである。
彼女の体を介して、こちらの世界に仮初の肉体を構築したモノは極めて、邪悪な性質の持ち主だった。
同性さえも見惚れる美貌を持っていた。
巫女はまだ恋を知らぬ乙女だったこともあり、手練手管に長けたそのモノに文字通り、骨抜きにされた。
一族の者が異変に気付いた時には既に時遅しだった。
散々に犯し尽くされた巫女はコワサレタ。
そして、蒔かれた種は胎内で芽吹き、望まれない忌み子がこの世に生まれ出でた。
心だけではなく、体も限界に近かった巫女は出産と引き換えに命を失ってしまう。
父は存在せず、母も失った妖の太郎は巫女の母親であり、祖母にあたる一族の長に引き取られる形で育てられた。
座敷牢に閉じ込められながらも高い教育と厳しい躾をされて、妖の太郎は成長していく。
そこに愛情がなかったのではない。
祖母は妖の太郎の中に眠る邪な力が、育つのを恐れていただけで孫のことを憎んでいたのではない。
妖の太郎の将来を危ぶみ、祖母は決してその未来を閉ざさぬようにと考え抜いた末、心を鬼にしたのである。
しかし、それも祖母の死によって、失われた。
妖の太郎が十五歳の誕生日を迎えた日、一族はこの世から消された。
女子供、長幼問わずに皆殺しである。
『忌み子』を匿っていたことを問題視した『タカマガハラ』の手による虐殺劇だったのだ。
生き残ったのは妖の太郎、たった一人。
その血に宿る呪われた力が、奇しくも身を守ったのだ。
辛うじて息のあった祖母は「これが宿命だったのさ。だから、お前は自由に生きな」と伝え、事切れた。
その言葉は怒りに心を支配されかけていた妖の太郎を変えた。
厳しくも愛情をもって育ててくれたことを知らぬ訳ではない。
交わす言葉こそ、少なかったものの自分は愛されていたのだと分からぬ訳ではない。
だから、怒らない。
そして、恨まない。
「ばあちゃん。分かったよ」
溢れる涙を拭い、妖の太郎は振り返らずに何処かへと去っていった。
それから、暫くしてのことである。
人知れず、この世の闇に怯える弱き人々を助けるハンターが、颯爽と現れた。
その名は妖の太郎。
本当の名は誰も知らない。
なぜなら、本人さえも知らないのだから……。
この世に生を受けた時から、忌み嫌われ呪われた存在だった。
理由はその出自である。
母親は代々、巫女の家系に生まれた生粋の巫女だった。
口寄せ――異界に起源を持つ霊体を我が身に憑依させる術――いわゆる降霊術を口伝してきた一族である。
その中でも傑出した力を持つ少女が、妖の太郎の母親になった。
いや、されたのだ。
父親は名を出すことさえ、憚られる者とされていた。
それもそのはず。
決して、その名を口にしてはならない人ではない存在だった。
異界との間に開いた門を通じて、こちらの世界にやってきた人に似て、人に非ざるモノ。
高次元生命体と呼ぶのが正しいそのモノはこちらに来る機会をずっと窺っていたのだ。
門とは即ち、巫女そのものである。
彼女の体を介して、こちらの世界に仮初の肉体を構築したモノは極めて、邪悪な性質の持ち主だった。
同性さえも見惚れる美貌を持っていた。
巫女はまだ恋を知らぬ乙女だったこともあり、手練手管に長けたそのモノに文字通り、骨抜きにされた。
一族の者が異変に気付いた時には既に時遅しだった。
散々に犯し尽くされた巫女はコワサレタ。
そして、蒔かれた種は胎内で芽吹き、望まれない忌み子がこの世に生まれ出でた。
心だけではなく、体も限界に近かった巫女は出産と引き換えに命を失ってしまう。
父は存在せず、母も失った妖の太郎は巫女の母親であり、祖母にあたる一族の長に引き取られる形で育てられた。
座敷牢に閉じ込められながらも高い教育と厳しい躾をされて、妖の太郎は成長していく。
そこに愛情がなかったのではない。
祖母は妖の太郎の中に眠る邪な力が、育つのを恐れていただけで孫のことを憎んでいたのではない。
妖の太郎の将来を危ぶみ、祖母は決してその未来を閉ざさぬようにと考え抜いた末、心を鬼にしたのである。
しかし、それも祖母の死によって、失われた。
妖の太郎が十五歳の誕生日を迎えた日、一族はこの世から消された。
女子供、長幼問わずに皆殺しである。
『忌み子』を匿っていたことを問題視した『タカマガハラ』の手による虐殺劇だったのだ。
生き残ったのは妖の太郎、たった一人。
その血に宿る呪われた力が、奇しくも身を守ったのだ。
辛うじて息のあった祖母は「これが宿命だったのさ。だから、お前は自由に生きな」と伝え、事切れた。
その言葉は怒りに心を支配されかけていた妖の太郎を変えた。
厳しくも愛情をもって育ててくれたことを知らぬ訳ではない。
交わす言葉こそ、少なかったものの自分は愛されていたのだと分からぬ訳ではない。
だから、怒らない。
そして、恨まない。
「ばあちゃん。分かったよ」
溢れる涙を拭い、妖の太郎は振り返らずに何処かへと去っていった。
それから、暫くしてのことである。
人知れず、この世の闇に怯える弱き人々を助けるハンターが、颯爽と現れた。
その名は妖の太郎。
本当の名は誰も知らない。
なぜなら、本人さえも知らないのだから……。
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