14 / 41
14檻は不完全
しおりを挟む
ルーナの誕生日当日。
私が思っていた以上にルーナの精神は強かった。3ヶ月間、男としてのプライドをへし折るような行為を強要した。
しかし、ルーナは負けなかった。
それどころか、逃げる機会を虎視眈々と狙っている、そんな目を彼女はしていた。
まぁ、だからいつかは逃げるだろうなとは予想していた。
ただ、タイミングが絶妙で、ちょうど人手が足りないこの時期を狙ったかのように逃げ出した。
ギリギリまで可愛がり、足腰が立たずに悪態を吐いていた筈のルーナ。しかし、蓋を開けてみればどこから取り出したのか分からない平民が着るような男物の服を着て、廊下を全力で走っていた。
扉を開けた瞬間、窓から逃げる準備をしていたルーナと目があい、そしてルーナは以前の経験から窓を諦め私の脇を驚くような速さですり抜けた。
「クソっ、タイミング悪すぎ」
透き通るような美しい声が紡ぐのは、男のような言葉。元貴族令息とは思えないほど汚い言葉遣いだが、これがルーナの本性なのはルヴィルの時から知っていた。
この速度ならすぐに追いつけるが、もう少しこの鬼ごっこを楽しみたいという気持ちから速度を緩めて追いかける。
捕まえた時、ルーナはどんな顔をするのだろうか? 組み敷いたらルーナは悔しげな表情で私を睨みつけるだろう。昨夜の行為の最中に何度も目にしたルーナの無自覚に快楽に蕩けた顔を思い浮かべ、思わずペロリと舌舐めずりをする。
「ルーナ、まだ逃げるのか」
往生際が悪いルーナは諦めずに、廊下を一生懸命走っている。そして、右に曲がった。
あぁ、その先は行き止まりなのに。
思わず、笑みが溢れる。
獲物を追い詰める狩にも酷似したその行為に興奮する私がいた。
途中で走るのをやめ、ゆっくりと歩きながら行き止まりで震えているであろうルーナを迎えに行く。
「ルーナ」
「来んなよ」
ルーナの首には私が贈ったものではない、ネックレスがかかっており、ルーナはそれを握りしめていた。
あぁ、多分ルーナの母が形見に渡したものだ。アレを取り上げるとルーナは錯乱すると伯爵から言われていたから返してやったが、大事そうに握られているソレに嫉妬心を抱く。
そのネックレスはこっそり処分しよう。似たようなネックレスとすり替えて……
「殿下、貴方は賢い。ゆえに余裕が常にある。ですがね、その余裕は油断でもあるのですよ。そう、こんな風にね」
追い詰められて震えていたはずのルーナが笑みを浮かべていたことにまず注目するべきだった。
にっこりと、勝ち誇ったような笑みを浮かべた彼女は、ネックレスを持ち上げる。それは白く輝きながらルーナを包み込んだ。
「ルーナ!」
「散々好き勝手やってくれてありがとうございました。今後一切、アンタとは関わりませんのでご安心を」
そう光に包まれたままルーナは一礼して、消えた。
「は? 一体何がどうなっている?」
慌ててルーナのいた場所に行ってみるが、ルーナはいない。
「まさか、消えた?」
あり得ない、そう思いたいがルーナはどこを探してもいなかった。
「伯爵、これはどういう事だ?」
式を中止して、伯爵を呼び出せば伯爵は何かを知っていたかのようにため息を吐いた。
「ルヴィル、いやルーナは多分故郷に帰ったのでしょう」
「どういう事だ」
聞けば、ルーナの母は東の国の巫女だったそうだ。そして、伯爵が見初めて無理矢理こちらの国に連れて帰った。
「妻も逃げようとしておりました。ですが子供が予想以上に早く出来てしまったせいで、慈悲深い伽耶は逃げるに逃げられなかった。まぁもし子供ができていなかったらサッサとルーナのように逃げていたんでしょう」
力なく項垂れる伯爵の知られざる過去に、マクシミリムは目を見張った。
恐らくルーナは東の国に逃げた。しかし、そこにマクシミリムが簡単に行くことができたら元も子もない。だからルーナは執拗に呪具の仕入れ方を聞いてきたのか、今になって先日の不自然な会話の意味を知る。
「東の国には古代遺跡があり、カヤはその古代遺跡が祀る神族の末裔だったらしいので、不思議な力を持っていてもおかしくありません」
「あのルーナが手放さなかったネックレスも呪具だったか」
「ええ」
今、ルーナはホクホクとした顔でマクシミリムから無事逃げおおせたことに歓喜していることだろう。
「気に食わないな」
「は?」
伯爵が訝しげな顔でこちらをみる。
「ルーナは私のものであり、私の手から逃げる事は許さない」
やっと檻の鍵を閉めようとしたところ、中にいた獲物が逃げ出した。それを黙って見逃すマクシミリムではない。
「今から東の国へ向かう」
「行事がこれからたくさんございますが?」
「父がなんとかしてくれるだろう」
「さようですか」
そう頷く伯爵は十分頭がおかしい。いや、この国の貴族と王族は大概頭のネジが数本抜けている。伴侶に対する執着が酷いのだ。
これだと思ったら、例え結婚していても奪い取る。それで過去に何度も隣国と小競り合いになり、その都度戦いで勝利を収めていた。いま、帝国がこんなに大国になったのは先祖達のイカレタ執着の結果だ。
「そして、私にもその異常な血が流れているのだろうな」
ルーナの逃亡から数時間後、帝国の皇太子がひっそりと旅に出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【日記スペースbyルーナ】
窓から逃げようとして、殿下と鉢合わせするし、逃げたら逃げたで、ネックレスに付いていた石があんなに光るなんて思わなかったし……はぁ、厨二病感半端ない。
光に包まれて一礼とか……思い返せば羞恥で死んだよね。マジで。まぁ、もう殿下に会うことはないけど、とりあえずあの茶番劇を見てたのが殿下1人でよかったと心の底から思う。黒歴史。
俺の渾身の茶番劇をイイネ! て思った人はお気に入り登録よろしく。ついでに黒歴史を感想欄に投稿してくれたらうれしい。黒歴史があるのは俺だけじゃないって思いたいから!
私が思っていた以上にルーナの精神は強かった。3ヶ月間、男としてのプライドをへし折るような行為を強要した。
しかし、ルーナは負けなかった。
それどころか、逃げる機会を虎視眈々と狙っている、そんな目を彼女はしていた。
まぁ、だからいつかは逃げるだろうなとは予想していた。
ただ、タイミングが絶妙で、ちょうど人手が足りないこの時期を狙ったかのように逃げ出した。
ギリギリまで可愛がり、足腰が立たずに悪態を吐いていた筈のルーナ。しかし、蓋を開けてみればどこから取り出したのか分からない平民が着るような男物の服を着て、廊下を全力で走っていた。
扉を開けた瞬間、窓から逃げる準備をしていたルーナと目があい、そしてルーナは以前の経験から窓を諦め私の脇を驚くような速さですり抜けた。
「クソっ、タイミング悪すぎ」
透き通るような美しい声が紡ぐのは、男のような言葉。元貴族令息とは思えないほど汚い言葉遣いだが、これがルーナの本性なのはルヴィルの時から知っていた。
この速度ならすぐに追いつけるが、もう少しこの鬼ごっこを楽しみたいという気持ちから速度を緩めて追いかける。
捕まえた時、ルーナはどんな顔をするのだろうか? 組み敷いたらルーナは悔しげな表情で私を睨みつけるだろう。昨夜の行為の最中に何度も目にしたルーナの無自覚に快楽に蕩けた顔を思い浮かべ、思わずペロリと舌舐めずりをする。
「ルーナ、まだ逃げるのか」
往生際が悪いルーナは諦めずに、廊下を一生懸命走っている。そして、右に曲がった。
あぁ、その先は行き止まりなのに。
思わず、笑みが溢れる。
獲物を追い詰める狩にも酷似したその行為に興奮する私がいた。
途中で走るのをやめ、ゆっくりと歩きながら行き止まりで震えているであろうルーナを迎えに行く。
「ルーナ」
「来んなよ」
ルーナの首には私が贈ったものではない、ネックレスがかかっており、ルーナはそれを握りしめていた。
あぁ、多分ルーナの母が形見に渡したものだ。アレを取り上げるとルーナは錯乱すると伯爵から言われていたから返してやったが、大事そうに握られているソレに嫉妬心を抱く。
そのネックレスはこっそり処分しよう。似たようなネックレスとすり替えて……
「殿下、貴方は賢い。ゆえに余裕が常にある。ですがね、その余裕は油断でもあるのですよ。そう、こんな風にね」
追い詰められて震えていたはずのルーナが笑みを浮かべていたことにまず注目するべきだった。
にっこりと、勝ち誇ったような笑みを浮かべた彼女は、ネックレスを持ち上げる。それは白く輝きながらルーナを包み込んだ。
「ルーナ!」
「散々好き勝手やってくれてありがとうございました。今後一切、アンタとは関わりませんのでご安心を」
そう光に包まれたままルーナは一礼して、消えた。
「は? 一体何がどうなっている?」
慌ててルーナのいた場所に行ってみるが、ルーナはいない。
「まさか、消えた?」
あり得ない、そう思いたいがルーナはどこを探してもいなかった。
「伯爵、これはどういう事だ?」
式を中止して、伯爵を呼び出せば伯爵は何かを知っていたかのようにため息を吐いた。
「ルヴィル、いやルーナは多分故郷に帰ったのでしょう」
「どういう事だ」
聞けば、ルーナの母は東の国の巫女だったそうだ。そして、伯爵が見初めて無理矢理こちらの国に連れて帰った。
「妻も逃げようとしておりました。ですが子供が予想以上に早く出来てしまったせいで、慈悲深い伽耶は逃げるに逃げられなかった。まぁもし子供ができていなかったらサッサとルーナのように逃げていたんでしょう」
力なく項垂れる伯爵の知られざる過去に、マクシミリムは目を見張った。
恐らくルーナは東の国に逃げた。しかし、そこにマクシミリムが簡単に行くことができたら元も子もない。だからルーナは執拗に呪具の仕入れ方を聞いてきたのか、今になって先日の不自然な会話の意味を知る。
「東の国には古代遺跡があり、カヤはその古代遺跡が祀る神族の末裔だったらしいので、不思議な力を持っていてもおかしくありません」
「あのルーナが手放さなかったネックレスも呪具だったか」
「ええ」
今、ルーナはホクホクとした顔でマクシミリムから無事逃げおおせたことに歓喜していることだろう。
「気に食わないな」
「は?」
伯爵が訝しげな顔でこちらをみる。
「ルーナは私のものであり、私の手から逃げる事は許さない」
やっと檻の鍵を閉めようとしたところ、中にいた獲物が逃げ出した。それを黙って見逃すマクシミリムではない。
「今から東の国へ向かう」
「行事がこれからたくさんございますが?」
「父がなんとかしてくれるだろう」
「さようですか」
そう頷く伯爵は十分頭がおかしい。いや、この国の貴族と王族は大概頭のネジが数本抜けている。伴侶に対する執着が酷いのだ。
これだと思ったら、例え結婚していても奪い取る。それで過去に何度も隣国と小競り合いになり、その都度戦いで勝利を収めていた。いま、帝国がこんなに大国になったのは先祖達のイカレタ執着の結果だ。
「そして、私にもその異常な血が流れているのだろうな」
ルーナの逃亡から数時間後、帝国の皇太子がひっそりと旅に出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【日記スペースbyルーナ】
窓から逃げようとして、殿下と鉢合わせするし、逃げたら逃げたで、ネックレスに付いていた石があんなに光るなんて思わなかったし……はぁ、厨二病感半端ない。
光に包まれて一礼とか……思い返せば羞恥で死んだよね。マジで。まぁ、もう殿下に会うことはないけど、とりあえずあの茶番劇を見てたのが殿下1人でよかったと心の底から思う。黒歴史。
俺の渾身の茶番劇をイイネ! て思った人はお気に入り登録よろしく。ついでに黒歴史を感想欄に投稿してくれたらうれしい。黒歴史があるのは俺だけじゃないって思いたいから!
0
あなたにおすすめの小説
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
※後日談を更新中です。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる