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仕組まれた運命
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殿下は村に馴染んでしまった。
「にいちゃん! 野菜やるよ!」
「ありがたい」
いつのまにか……そう、いつのまにかである。ただ、今までと違うのは殿下の仏教面が解けたことだろう。帝国にいた間にはほぼみることがなかったやわらかな笑みを彼はずっと浮かべている。
「かせつ、今日は私が食事をつくろう」
王族ならば絶対縁のないはずの泥だらけの大根を抱える殿下に、私は最近ペースを崩されがちだ。
「……ありがとう」
「いや、いいんだ」
誰だ、この聖人君主みたいなやつは!?
数日前に私に殴られてできた瘤はすっかりなくなり形の良い頭を取り戻した殿下ーーと、ピコンっと私の中でひらめきが起こった。
「え、こんな善良な殿下になったのは頭を殴ったから?」
そうだ、きっとそうに違いない。ならば、この状況が理解できる。
「殿下、もしかして帝国にいた時の記憶が曖昧とかないです?」
「……そのようなことはない」
違うらしい。眉を寄せる殿下は本当に反省しているように見えた。
「変なことを聞きました。申し訳ありません」
「いや、いいんだ。こちらこそすまない」
頭を下げる殿下を見ながら思う。一体この人はどうしてしまったのか。
「……食事、楽しみにしています」
この日はそれしか言えなくて、でも、顔を上げた殿下の表情は笑みが浮かんでいた。…………犬耳も見えた気がするけどそれは違うと信じたい。
そんなのどかな日々をぶち壊すような出来事は突然来た。
それは殿下と山に山菜を取りに行っている時に起こった。
ーーガサッ
「……?」
殿下は前にいるのに後ろから音がした気がした。パッと振り返ると、そこには数名の村の女の子たちがいた。
「あーー……」
やっちゃったとでも言いたげな表情の女の子たち。殿下もこちらに気づいて戻ってきたが、困惑気味に私を見ていた。
「こ、こんにちは?」
「こんにちは、どーしてここに?」
そう問いかけると、女の子たちは顔を見合わせてにっこり笑った。
「何ってそりゃ、華雪様とお客のお兄ちゃんの観察です!」
そう言ってうんうんとお互いに頷き合う女の子たち。
「「……ん?」」
殿下と同時に疑問符が口から飛び出たが、これはしょうがないと思う。
「ほら、殿下は華雪様を追ってこの国に来たんでしょう? ろまんす……」
うむ、待て。私は逃げたのだ。追いかけた殿下はストーカーである。『ろんます……』とうっとり言われるような要素は一つもない!!!!
「ま、まって? 私たちはそんなんじゃない!」
「またまたぁー! そんなに顔を真っ赤にして言われても説得力ないですよ」
え?
「殿下、私の顔は真っ赤なの⁇」
「ああ、真っ赤だ」
まてまてまてまてまてまてまて!そこは真っ青にならないといけないだろ!?
「う、うそだ……」
いつの間にか変化している殿下への想いに1人ショックを受けた。
私は殿下のことが好きなのか?
え、好き⁇
「さらに赤くなったな」
隣からいらない言葉が聞こえてくるのを無視する。このやろう、分かっていやがる!
「きょ、今日はもう帰る! みんな、さよなら!!!!」
「「「「ええ!?」」」」
パニックに陥った私は脇目も振らず、ダッシュで家に帰った。万葉様に相談しよう。そうしようと思いながら。
「にいちゃん! 野菜やるよ!」
「ありがたい」
いつのまにか……そう、いつのまにかである。ただ、今までと違うのは殿下の仏教面が解けたことだろう。帝国にいた間にはほぼみることがなかったやわらかな笑みを彼はずっと浮かべている。
「かせつ、今日は私が食事をつくろう」
王族ならば絶対縁のないはずの泥だらけの大根を抱える殿下に、私は最近ペースを崩されがちだ。
「……ありがとう」
「いや、いいんだ」
誰だ、この聖人君主みたいなやつは!?
数日前に私に殴られてできた瘤はすっかりなくなり形の良い頭を取り戻した殿下ーーと、ピコンっと私の中でひらめきが起こった。
「え、こんな善良な殿下になったのは頭を殴ったから?」
そうだ、きっとそうに違いない。ならば、この状況が理解できる。
「殿下、もしかして帝国にいた時の記憶が曖昧とかないです?」
「……そのようなことはない」
違うらしい。眉を寄せる殿下は本当に反省しているように見えた。
「変なことを聞きました。申し訳ありません」
「いや、いいんだ。こちらこそすまない」
頭を下げる殿下を見ながら思う。一体この人はどうしてしまったのか。
「……食事、楽しみにしています」
この日はそれしか言えなくて、でも、顔を上げた殿下の表情は笑みが浮かんでいた。…………犬耳も見えた気がするけどそれは違うと信じたい。
そんなのどかな日々をぶち壊すような出来事は突然来た。
それは殿下と山に山菜を取りに行っている時に起こった。
ーーガサッ
「……?」
殿下は前にいるのに後ろから音がした気がした。パッと振り返ると、そこには数名の村の女の子たちがいた。
「あーー……」
やっちゃったとでも言いたげな表情の女の子たち。殿下もこちらに気づいて戻ってきたが、困惑気味に私を見ていた。
「こ、こんにちは?」
「こんにちは、どーしてここに?」
そう問いかけると、女の子たちは顔を見合わせてにっこり笑った。
「何ってそりゃ、華雪様とお客のお兄ちゃんの観察です!」
そう言ってうんうんとお互いに頷き合う女の子たち。
「「……ん?」」
殿下と同時に疑問符が口から飛び出たが、これはしょうがないと思う。
「ほら、殿下は華雪様を追ってこの国に来たんでしょう? ろまんす……」
うむ、待て。私は逃げたのだ。追いかけた殿下はストーカーである。『ろんます……』とうっとり言われるような要素は一つもない!!!!
「ま、まって? 私たちはそんなんじゃない!」
「またまたぁー! そんなに顔を真っ赤にして言われても説得力ないですよ」
え?
「殿下、私の顔は真っ赤なの⁇」
「ああ、真っ赤だ」
まてまてまてまてまてまてまて!そこは真っ青にならないといけないだろ!?
「う、うそだ……」
いつの間にか変化している殿下への想いに1人ショックを受けた。
私は殿下のことが好きなのか?
え、好き⁇
「さらに赤くなったな」
隣からいらない言葉が聞こえてくるのを無視する。このやろう、分かっていやがる!
「きょ、今日はもう帰る! みんな、さよなら!!!!」
「「「「ええ!?」」」」
パニックに陥った私は脇目も振らず、ダッシュで家に帰った。万葉様に相談しよう。そうしようと思いながら。
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