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第24話「恋する乙女」
しおりを挟む非日常的に感じていた文化祭が嵐のように過ぎ去り、教室ではいつも通りの日常の光景を取り戻していた。
そして、今日一日何事もなく放課後を迎えた。文化祭が終わったことで1日に消費した精神的なエネルギーがいつもより少なくなったせいか、今日は授業が終わった後でも疲労感があまりない。
放課後になっていつもの4人と今日は柿原も一緒に僕の隣の成川の席を中心に駄弁っていて、帰りのHRが終わってもすぐに帰らないのがいつもの光景だ。僕は会話に入る勇気はないくせに、その会話に入ったほうがいいのかどうかを逡巡していたが、この手持ち無沙汰を解消すべく、トイレに行くふりをして時間を潰すことにしようと廊下に出た時だった。
「ちょっといい?」
誰かに肩を叩かれて振り返ってみるとポニーテールでスポーティーな女子生徒がそこにいた。
多分、僕の記憶では初めて会った人だと思う。同じクラスの人しか知ってる人がいないし、ここは2年のフロアだからおそらく違うクラスの人だろう。
すると、彼女は自己紹介をする前に「ちょっと場所変えていい?」と尋ねてきたのでよくわからず頷いた僕は彼女の背中を追うように2階と3階をつなぐ階段まで行き改めて彼女の話を聞くことになった。
「私は1年の中川。あなた天野さんでしょ?」
どうやら彼女は年下らしい。心なしか大人っぽい雰囲気を感じていたし、ずっとタメ口を聞いているから同学年だと思っていた。
敬語とかタメ口とか上下関係とか僕は正直どうでもいいと思っている。というのも、僕は部活に入ったことがないので、上下関係を今まで築いてきたことがないのであまり気にしてないからだ。
そんなことを考えていたため、彼女の問いに対して答えるのに少し間が空いてから僕が頷くと中川は僕が天野樹であることを元から知っていたようで特に表情を変えることなく続けた。
「天野さんって柿原先輩と友達だよね?」
友達?一体、僕のどこを見てそう思ったのかだろうか?そもそも、彼のことを友達と呼んでいいのだろうか?確かに、彼から話しかけてくることはたまにあるけど、それを友達として認識していいのかわからなかった。
でも、わざわざ2年のフロアまで来た彼女の話の腰を折るのも悪いので一応、柿原と接点はあることから否定はせずに頷いた。
「やっぱりそうだよね。さっきも一緒にいたし、文化祭の時も楽しそうに話してたよね」
一緒にはいたけど会話はしていないし、文化祭の時も彼が一方的に話しかけてきただけだし、彼はいつでも楽しそうに話しているから彼女は色々と勘違いしているように思えた。というかそもそもの本題はなんなのか気になり、初めて僕から質問をした。
「中川さんは僕に何か用があるの?」
そう訊くと中川はさっきまでは僕の目を覗き込むように目を合わせて話していたのに、急に目を逸らして顔を赤らめた。この時点で僕への要件が大体想像がついてまた何やら巻き込まれるような予感がした。
「実は私、柿原先輩のこといいなって思ってて…でも、どうやって接点を作ったらいいかわからなくて…」
さっきまで威勢よく先輩の僕に話しかけていたのに柿原のことになるとなんだか歯切れが悪くなり思わず僕が会話をアシストした。
「つまり、僕が2人の間を取り持ってほしいってこと?」
彼女は頷いたが、なんで僕なのか気になった。というか、頼む相手を間違えていると思う。そういうことだったら成川とか明島の方が得意そうに思えるし。
「でも、なんでそれを僕に頼もうと思ったの?」
中川はその質問が当然来ると予想済みだったようで一度こくりと頷いてから改めて話し始めた。
「しばらく柿原先輩が誰と仲良いか見てたら天野さんがいたからよ」
「そうかな?」
「いや、本当のことを言うと宮橋先輩が一番多かったの。でも、いきなり宮橋先輩に話しかけるのはなんだかハードルが高くて…」
中川は僕から視線を外して、胸の前で両手の人差し指を向かい合わせにくっつけ、押し付けながらモジモジして顔を赤くしていた。
「だから、宮橋先輩以外に誰かいないか探してたら一番ハードルが低そうな人を見つけたの」
「それが僕だったの?」
中川は力強く頷いてポニーテールを大きく揺らした。
つまり、外堀を埋めるために一番着手しやすい人が僕だったというわけか。
「大人しい人って先輩でも話しかけるハードル低いじゃない?それに天野さんってなんか安全そうだし」
共感を誘ってきているようだがが先輩後輩の関係を今まで築いたことがない僕にはよくわからない。
でも、困った。こういう時どんな行動をしたらいいんだろうか?全く想像できない。でも、引き受ける流れになっているし、わざわざ面識のない僕に好きな人を打ち明けるまでした彼女に断るのも忍びないので、僕に何ができるかわからないが一応協力はすることにした。
「でも、僕は何をしたらいいの?」
素直にその質問を投げかけてみたがさっきの恥ずかしそうな表情は姿を消して中川は呆れたような表情だった。
「やっぱ何も考えてないわよね」
この短時間に具体的な作戦が思いつくと思っていたのだろうか。そう疑問を感じざるを得ない横柄ぶりだった。
「今週の土曜日ファミレスに来てくれない?学校だと色んな人に聞かれちゃうし、一回改めて話しましょ」
せっかくの休日を1日消費されることは残念だが自分がやると言った手前、僕は渋々承諾した。
そして土曜日になり、倉西駅近くのファミレス前に約束の時間5分前に到着するともうすでに中川は集合場所に来ていた。
中川はおしゃれな今時の高校生という感じの服装で上下ユニクロの僕からしたら、なんだかどっちが年上かわからないように思えた。それと同時に、今後ユニクロ以外の選択肢を考えざるを得ないようなファッションセンスの歴然とした差を感じた。
そもそも、休日に学校の人に会うなんて小学生以来だから今時の高校生がどんな服装をしているのかもよくわからないけど。
店内は休日のため見渡す限りさまざまな年齢層の客が来ていた。一番多いのは学生で平日学校帰りに寄るときに比べて店内の喧騒がより一層増していた。
席に通されそれぞれ飲み物を注文すると中川は唐突に尋ねてきた。
「天野って今彼女いるの?」
学校では「さん」をつけていたのに急に呼び捨てになったことに少し驚いた。なので、上下関係をあまり気にしないと思っていた自分の考えを改めるべきかと一瞬考えていたが、彼女の問いを思い出して答えた。
「いないけど」
「じゃあ最後に彼女がいたのはいつ?」
「いないよ」
「彼女できたことないの?」
「そうだね」
「ずいぶん堂々としてるのね。普通の男子高校生はそういうこともっと隠そうとしたりするものじゃない?」
そうなのだろうか。今まで人との関係を絶ってきたから僕の中の統計を取れるほどのデータが無く、普通とか一般的な高校生とか平均という尺度が僕にはよくわからない。
そもそも今まで彼女をほしいと思ったことがないし、あまり興味を持っていなかったので特に深く考えず質問に対して真実をそのまま回答していた。
「明島先輩とか成川先輩はいつも一緒にいるようだけど何もないの?」
「特に何もないよ。そういえばなんで明島や成川に頼まなかったの?宮橋も柿原も2人と仲良いよ」
彼女たちの名前を聞いてこの前疑問に思ったことを確認した。
「明島先輩はなんかすごい人すぎて話しかけるのが怖かったし、成川先輩は…」
と中川は言葉に詰まっていたがなんとなく言わんとすることが想像できたから僕は自分の話題から中川の話題へ変えた。
「無理に言わなくて大丈夫だよ。ところで、中川さんは柿原君のこといつから気になってたの?」
「気になったのは体育祭の時からでそれから話せるチャンスがなかなかなかったんだけど文化祭の学内公開の時にやっと話せたの。でも連絡先とか交換する勇気がなくて…」
柿原の文化祭の様子だったら頼めば誰でも交換してくれそうな気がしたけど、先週中川と廊下で話した時に柿原のことを話す時に顔を赤らめていたことを思い出した。僕の前では堂々と話しているように見える中川も好きな人を目の前にすると聞けなくなるのかもしれない。
「そっか。でも面識あるなら近づけるチャンスはあるかもね」
そう言うと彼女は「本当!」と目を輝かせて僕に期待の眼差しを向けた。
でも、あまり期待されすぎると困るので流石に現実だけ伝えておこうと思い、僕と柿原の今の関係性をあらかじめ伝えておくことにした。
「正直、僕柿原君とそんなに話すわけじゃないから友達と呼べる関係かどうかわからないよ?」
「でも、友達じゃなかったらどういう関係なの?」
「どういう関係と言われても…」
こういう関係ってどうやって言葉にしたらいいのだろうか。知り合い?ただのクラスメート?僕が適切な表現を模索していると中川が僕の返答を待たずに続けた。
「お互いが友達だと思ったら友達なんじゃないの?」
友達ってそういうものなのか。僕は友達の定義がよくわからないけど、中川はなんとなく友達が多そうに見えるからそうやって今まで人間関係を構築してきたのだろう。
「それはさておき作戦を考えましょうよ」
すっかり忘れていたが、今日の本題はそれだった。
でも、正直接点があまりない2人を結ぶにはどうしたらいいのかよくわからない。単純に柿原に紹介したい人がいるなんて言ったら中川に対して無責任な気もするし、不自然だ。なので、より自然な形でせめて連絡先でも交換できるようになってもらえれば僕は役目を果たしたと言えるだろう。
「正直、僕に全く考えがないんだけど」
「宮橋先輩に頼んで合コンするって言ってあなたが私のことを誘ってくれればいいんじゃない?」
「それはちょっとな。そもそも、合コンって同じ学校の生徒でやるものなの?」
できれば、僕と中川だけで問題を解決するのが僕の希望だ。
「合コンとかやったことないからわからないわよ。あなたが柿原先輩ともっと仲良くなればいいんじゃない?」
さっきから求められるハードルが高い気がする。こういう時、明島や宮橋だったらなんて提案していたのだろうか?何も策が思いつかない自分の想像力の乏しさと人生経験のなさが嫌になる。
「まあ、僕からなんとか話しかけてみようか」
中川と僕が出した選択肢の中で僕の力量でなんとかなりそうな提案だったので消去法的に選択した。
今後、面倒なことになるのはもはや言うまでもないけど。
「あなたと柿原先輩が2人で帰るとき私のこと呼び止めてよ。3人で帰れるようになればあなた徒歩だから電車で私と柿原先輩が2人になれるでしょ?」
「その後は中川さん次第だけど大丈夫?」
「連絡先交換できなかったらまた天野に頼むわよ」
一応、苦笑いして対応したけど、さっきから僕のことを2人称だったり呼び捨てだったり扱いがだんだん雑になっているような気がする。
安全そうだから僕に話しかけたと言っていたけどなんでも押しつけられる便利屋という意味で言っていたのか疑問に思った。まあ、今更考えてもしょうがない。
とりあえず、ざっくりとだが作戦会議を終え中川とはそこで解散した。
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