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第34話「ルーロの祭典」
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楓たちはディアス家のある城を出てルーロへ向かうため再び馬車を走らせていた。
いつも通り烏丸が操縦席に乗り、荷台には男4人が乗り込んで武闘会に向けて話していた。
「なあ空太。ルーロってどのくらいで到着すんの? また、何時間も馬車に乗ってんのかな?」と竜太が立華に向かって言った。
「いえいえ、ここからなら小一時間もあれば着くと思いますよ。フォンツとルーロは隣国なんで時間はかかりませんからね」
「え? そんな近いのかよ。てか、それもっと早く言ってくれよ」
「ええ、すません。地図を見てたのでつい知ってると思ってたので」
「いや、知ってるわけ無いだろ初めてくる土地なんだから。それよりも…」と竜太が隣に座る鋼星を見た。
「隣の国なのに真逆に爆走するやつはどうかしてるよな」
竜太は訝しげな表情で腕を組んで荷台の振動にリズムを刻んでいる陽気な鋼星に視線をやった。
「そのおかげで俺はお前らに会えたんだから全く後悔してないぜ」と鋼星は快活な表情を浮かべた。
「まったくポジティブなやつだな」
話しているうちに国境の門を超えてあっという間にフォンツの隣国ルーロに到着した。
ルーロはフォンツと違い見渡す限り立つ家々では庶民的な建物が多く、待ちゆくヴァンパイアたちは皆楽しそうな表情を浮かべており、地上で言えばまるで下町の商店街を思わせるような雰囲気だった。その光景からはフォンツのように貴族など格差が存在するような国には見えなかった。
馬車で市場の賑わっている通りを通った時も子連れの親子で買い物に来ているヴァンパイアや土木作業でもしていたのか顔に砂を付けたヴァンパイアが労働の休憩中の店の店主と談笑している光景などルーロでは地上でも見られるような日常的な風景が広がっていた。
そして、馬車が通っているここの商店街ではこれから開催される武闘会のチラシや店に旗を掲げて開催を祝っていた。
「ルーロみたいな治安の良い国では武闘会が盛り上がりますからね。祭りみたいなもんですよ。なので、みんな楽しみにしてるんでしょう」と立華は言う。
商店街を抜けて右手には闘技場へと続くメインストリートが伸びていた。その道の両脇に青々と繁る芝生では筋骨隆々のヴァンパイアがストレッチをしていたり、大きなハンマーで素振りをしているヴァンパイアがおり、皆武闘会に向けて余念がない。
楓たちはそのメインストリートをケーロスが引く馬車で闘技場に向かっていく。他の遠方からの参加者もいるようで同じくケーロスに荷台を引かせてここまで来た者もいるし、歩いて闘技場へ行くものもいる。全員この一直線に続く通りを沿って歩き、まるで闘技場に吸い込まれるように中へ消えていく。
楓たちも同様に入口付近で馬車を管理する警備員のような役割をしているヴァンパイアに馬車を預け闘技場の中へ入っていった。
受付の女性がエントリー予約の確認をし始めた。予約という言葉を訊いて竜太が立華に尋ねた。
「ああ、事前に予約しときましたよ。武闘会は一定の強さがないと参加できないので」
立華の話を訊いて竜太は腕を組んで楓を一瞥してから考え込んだ。
「一定の強さ?」と竜太は聞き返す。
すると、立華は竜太と楓を手繰り寄せて耳元で囁いた。
「とはいっても君たちはまだ戦闘経験が浅い未熟者。それでも、モラドの名前を出しとけば大体通るんですよね。だから、大丈夫です。皆さんは以前よりは強くなってるので心配しないでくださいよ。多分ですけど」
「多分?」と竜太は訝しげに立華を見たが無責任にも立華はヘラヘラと笑った。
立華曰く武闘会の参加は開催日の1週間からエントリー可能ということで今日がその1週間前になり一番混雑している時期だという。
受付では薄茶色の和紙のような紙に名前と出身の国など簡単な個人情報を書いて受付にいる者に提出すると出場者のみに配られるバッジを渡され出場する鋼星、楓、竜太はそのバッジを胸に付けた。
エントリーが終了してから開催日まで他にやることはないので新天地観光のために再び馬車に乗り込み楓たちはルーロの繁華街に向かっていった。
ルーロの繁華街では昼間にも関わらず酔っ払って道端で眠っているお年寄りのヴァンパイアやグラスを片手に肩を組んで何やら言葉として成り立っていないことを騒ぎながら歩いてる者がいるなど武闘会を前にしたルーロ国民は盛り上がりを見せていた。
そして、3人が胸にしているバッジを見ると「頑張れよ!」と肩を叩いて応援の一言をくれる者がいた。他にも額のシミが特徴的な老人のヴァンパイアが「ほれ! 若造!」と言って手に持ったアルコールと血液を混ぜた酒を「飲め飲め!」とすでに酔っ払って顔を真赤にして言いながら突き出してきた。そのヴァンパイアは酔った勢いなのか急に「うちの娘をもらってくれ」といきなり娘の婚約を懇願してくるほどの泥酔ぶりだった。ちなみに、それはバッジを付けた3人に対して言っていた。武闘会に出場するものだったら誰でも良かったのだろう。
他にも子どもたちに揉まれたりとただバッジを付けているだけなのにまるで有名人になったかのような影響ぶりだった。そんなこともあり彼らはバッジを付けているだけで注目の的になっていた。
「ここのヴァンパイアってなんか優しい人が多いんだね」とあちこちから握手を懇願される楓が一つ一つの握手の要望に答えながら苦笑した。
楓がそういった時、前方から勢いよく走ってきた少年のヴァンパイアが楓に腹部にぶつかった。そして、手に持っていた赤い液体が楓の服に付着する。
「あ、ごめんなさい」
人間で言えば小学生ぐらいの見た目の少年が誤った。すぐに少年の後方から女性が名前を呼ぶ声が聞こえた。
「こら、翔! 勝手に離れちゃだめでしょ」
翔と呼ばれたその少年は名前を呼んだその女性に謝った。
その女性は「うちの息子がすいません」と楓たちに頭を下げ、楓は「いえいえ、息子さんのお怪我なくてよかったです」と丁重に返した。
楓は翔に怪我はないか確かめるとその少年は頷いてから、あるものに気がついて目を丸くした。当然ながら楓がしている胸のバッジだった。
「お兄さん武闘会にでるの?」
楓がうなずくとその少年は瞳を輝かせた。
「いいなー僕も大きくなったら出てみたいんだ」
そして、その少年は楓の隣に立っているタンクトップの男、つまり鋼星の存在に気づいた。
「え!え! 鋼星がいる! 本物だ! 握手してよ」と翔は鋼星に握手を求め鋼星は快く握手をしてから翔の頭を撫でた。鋼星の手が大きく翔の頭はすっぽりと覆いかぶさってしまい、まるでヘルメットをかぶっているように見えなくなるほどだった。
「俺の事知ってたのかガキぃ。いい子だぞ」と鋼星は白い歯を見せてその子供を抱き上げて頭を撫でた。
「うん。だってチャンピオンでしょ? 強いんでしょ? 当然知ってるよ」
「そうかそうか。お前の言う通り当然俺は強いぞ」
「自分で言うのかよ。まあ、事実だけどよ」と竜太が皮肉めいたように言った。
すると、母親は申し訳無さそうに楓に言った。
「お洋服汚してしまってすいません。家で洗濯しますのでもしよかったら家によっていきませんか?」
翔の母親は楓たちに提案した。そして、楓は断ろうとしたが鋼星が耳元でささやく。
「宿代が浮くかもしんないぞ。しかも、食事まで付くだろうし」と言って悪い不敵な笑みを浮かべた。
立華も楓にお金の入った袋を見せつけて楓は熟慮の末、母のお言葉に甘えることになった。
母に続いて歩いている時、立華は隣を歩く楓に聞こえるくらいの小さな声で言った。
「正直、余裕はあるんですけど削れるところは削りましょ」
繁華街からしばらく歩いて繁華街の喧騒の音はまだ少し残るくらいに遠ざかり、石造りの一軒家に到着した。
母と子の2人の後に続き家の中へ入ると帰りを待っていた父親が全員を出迎えた。当然、父は帰ってくる人数が多いことに驚いた様子だった。
しかし、母と子の表情を見た父親はなにか察したように驚きの表情から笑みに変わり楓太たちを快く出迎えた。
「これはこれは、皆さんどうぞお上がりください」そう言って父は家の中へ通した。
家の中へ通され楓と鋼星は翔に気に入られたのか積み木やおもちゃが散らばるリビングで3人で翔と遊んでいた。残りの3人はテーブルで翔の両親と血液が注がれたグラスを前に座っていた。
幼い子供の翔と仲良く遊ぶ楓を見つめる烏丸の視線に楓は後ろから刺されたようにハッと気がついて烏丸の方を見る。
「烏丸さん?」と楓が訊く。
「なんでも」と烏丸は無表情で返した。
テーブルに座る父親が最初に口を開いた。
「お連れの方は武闘会に出られるそうでまさかそんな方々が我が家に来てくださるなんて光栄です」
父親がそう言うと立華は首を横に振って父親の意見を否定した。
「いえ、とんでもないですよ。彼らは確かに以前と比べたら強くなったんですけど鋼星君を除いたらギリギリ参加できるような実力でして皆さんに自慢できるかどうか…」
そういいかけると竜太が立華を睨んで立華は苦笑いを浮かべてその話題は強制的に終わった。
「皆さんルーロに来てみてどうでしたか?」と父親は尋ねた。
「ルーロって優しそうな人が多いですよね。さっき繁華街を通ったんですけどなんか浅草みたいでフォンツとはまた雰囲気が全く違うし」と竜太が言った。
すると、立華がすかさず竜太の太ももをつねって耳元でつぶやいた。
「なんで今更浅草とか人間の世界の言葉を言うんですか? あなたはアガルタ育ちアガルタ生まれの設定なんですよ。話をややこしくしないでください」
「ごめん。なんかなんでも喋っていいような気がしちゃって」
立華は溜息を吐いて「しっかりしてください」と小声で言った。
父親は竜太たちのやりとりは聞こえていなかったようだが2人の様子をみて白い歯を見せて笑みを浮かべた。
「ルーロはこのアガルタで最も治安の良い国ですからね。争いは少ないですし、あの恐ろしい組織ALPHAから最も遠い国です。だから、初めてルーロに来てくださる方は皆そう言ってくれますよ。あと、そんな治安の良い国で武闘会が開かれるのも意外だってみなさん口を揃えて言いますね」
父親は長く話した後一つ息を吐いてから更に続けた。
「最も平和な国だからこそちょっとした刺激が欲しくなるんですよ。だから、武闘会という強きものをかき集めた争いを開催しようと思ったんでしょうね」
そう言った後、父親が微笑みながら翔たちの方へ視線をやった。
視線の先では楓が馬役になって翔を背に乗せて遊んでいた。楓もまんざらでのない様子だし鋼星も翔と遊んでいることを楽しんでいるようだった。
「翔は楓さんのことが好きなようですね」
父親は楓たちから正面に視線を戻した。それに遅れて母親も同じように視線を戻す。
「私達ルーロの民にとって武闘会は最も危険なイベントですけどこの平和な国で行うからこそ盛り上がるイベントなのです。翔もその戦士たちにあこがれて毎日トレーニングしてるんですよ」と父親は微笑んだ。
「ええ、そんな光栄なイベントに出られる彼らは幸せものですね」と立華は言う。
翔の父と母は笑みを浮かべる。
すると、家の玄関からゴトンという音が聞こえて翔の家族以外は音源に振り向いた。
それを見た父は言った。
「どうやらトーナメントの組み合わせが決まったようですね」
いつも通り烏丸が操縦席に乗り、荷台には男4人が乗り込んで武闘会に向けて話していた。
「なあ空太。ルーロってどのくらいで到着すんの? また、何時間も馬車に乗ってんのかな?」と竜太が立華に向かって言った。
「いえいえ、ここからなら小一時間もあれば着くと思いますよ。フォンツとルーロは隣国なんで時間はかかりませんからね」
「え? そんな近いのかよ。てか、それもっと早く言ってくれよ」
「ええ、すません。地図を見てたのでつい知ってると思ってたので」
「いや、知ってるわけ無いだろ初めてくる土地なんだから。それよりも…」と竜太が隣に座る鋼星を見た。
「隣の国なのに真逆に爆走するやつはどうかしてるよな」
竜太は訝しげな表情で腕を組んで荷台の振動にリズムを刻んでいる陽気な鋼星に視線をやった。
「そのおかげで俺はお前らに会えたんだから全く後悔してないぜ」と鋼星は快活な表情を浮かべた。
「まったくポジティブなやつだな」
話しているうちに国境の門を超えてあっという間にフォンツの隣国ルーロに到着した。
ルーロはフォンツと違い見渡す限り立つ家々では庶民的な建物が多く、待ちゆくヴァンパイアたちは皆楽しそうな表情を浮かべており、地上で言えばまるで下町の商店街を思わせるような雰囲気だった。その光景からはフォンツのように貴族など格差が存在するような国には見えなかった。
馬車で市場の賑わっている通りを通った時も子連れの親子で買い物に来ているヴァンパイアや土木作業でもしていたのか顔に砂を付けたヴァンパイアが労働の休憩中の店の店主と談笑している光景などルーロでは地上でも見られるような日常的な風景が広がっていた。
そして、馬車が通っているここの商店街ではこれから開催される武闘会のチラシや店に旗を掲げて開催を祝っていた。
「ルーロみたいな治安の良い国では武闘会が盛り上がりますからね。祭りみたいなもんですよ。なので、みんな楽しみにしてるんでしょう」と立華は言う。
商店街を抜けて右手には闘技場へと続くメインストリートが伸びていた。その道の両脇に青々と繁る芝生では筋骨隆々のヴァンパイアがストレッチをしていたり、大きなハンマーで素振りをしているヴァンパイアがおり、皆武闘会に向けて余念がない。
楓たちはそのメインストリートをケーロスが引く馬車で闘技場に向かっていく。他の遠方からの参加者もいるようで同じくケーロスに荷台を引かせてここまで来た者もいるし、歩いて闘技場へ行くものもいる。全員この一直線に続く通りを沿って歩き、まるで闘技場に吸い込まれるように中へ消えていく。
楓たちも同様に入口付近で馬車を管理する警備員のような役割をしているヴァンパイアに馬車を預け闘技場の中へ入っていった。
受付の女性がエントリー予約の確認をし始めた。予約という言葉を訊いて竜太が立華に尋ねた。
「ああ、事前に予約しときましたよ。武闘会は一定の強さがないと参加できないので」
立華の話を訊いて竜太は腕を組んで楓を一瞥してから考え込んだ。
「一定の強さ?」と竜太は聞き返す。
すると、立華は竜太と楓を手繰り寄せて耳元で囁いた。
「とはいっても君たちはまだ戦闘経験が浅い未熟者。それでも、モラドの名前を出しとけば大体通るんですよね。だから、大丈夫です。皆さんは以前よりは強くなってるので心配しないでくださいよ。多分ですけど」
「多分?」と竜太は訝しげに立華を見たが無責任にも立華はヘラヘラと笑った。
立華曰く武闘会の参加は開催日の1週間からエントリー可能ということで今日がその1週間前になり一番混雑している時期だという。
受付では薄茶色の和紙のような紙に名前と出身の国など簡単な個人情報を書いて受付にいる者に提出すると出場者のみに配られるバッジを渡され出場する鋼星、楓、竜太はそのバッジを胸に付けた。
エントリーが終了してから開催日まで他にやることはないので新天地観光のために再び馬車に乗り込み楓たちはルーロの繁華街に向かっていった。
ルーロの繁華街では昼間にも関わらず酔っ払って道端で眠っているお年寄りのヴァンパイアやグラスを片手に肩を組んで何やら言葉として成り立っていないことを騒ぎながら歩いてる者がいるなど武闘会を前にしたルーロ国民は盛り上がりを見せていた。
そして、3人が胸にしているバッジを見ると「頑張れよ!」と肩を叩いて応援の一言をくれる者がいた。他にも額のシミが特徴的な老人のヴァンパイアが「ほれ! 若造!」と言って手に持ったアルコールと血液を混ぜた酒を「飲め飲め!」とすでに酔っ払って顔を真赤にして言いながら突き出してきた。そのヴァンパイアは酔った勢いなのか急に「うちの娘をもらってくれ」といきなり娘の婚約を懇願してくるほどの泥酔ぶりだった。ちなみに、それはバッジを付けた3人に対して言っていた。武闘会に出場するものだったら誰でも良かったのだろう。
他にも子どもたちに揉まれたりとただバッジを付けているだけなのにまるで有名人になったかのような影響ぶりだった。そんなこともあり彼らはバッジを付けているだけで注目の的になっていた。
「ここのヴァンパイアってなんか優しい人が多いんだね」とあちこちから握手を懇願される楓が一つ一つの握手の要望に答えながら苦笑した。
楓がそういった時、前方から勢いよく走ってきた少年のヴァンパイアが楓に腹部にぶつかった。そして、手に持っていた赤い液体が楓の服に付着する。
「あ、ごめんなさい」
人間で言えば小学生ぐらいの見た目の少年が誤った。すぐに少年の後方から女性が名前を呼ぶ声が聞こえた。
「こら、翔! 勝手に離れちゃだめでしょ」
翔と呼ばれたその少年は名前を呼んだその女性に謝った。
その女性は「うちの息子がすいません」と楓たちに頭を下げ、楓は「いえいえ、息子さんのお怪我なくてよかったです」と丁重に返した。
楓は翔に怪我はないか確かめるとその少年は頷いてから、あるものに気がついて目を丸くした。当然ながら楓がしている胸のバッジだった。
「お兄さん武闘会にでるの?」
楓がうなずくとその少年は瞳を輝かせた。
「いいなー僕も大きくなったら出てみたいんだ」
そして、その少年は楓の隣に立っているタンクトップの男、つまり鋼星の存在に気づいた。
「え!え! 鋼星がいる! 本物だ! 握手してよ」と翔は鋼星に握手を求め鋼星は快く握手をしてから翔の頭を撫でた。鋼星の手が大きく翔の頭はすっぽりと覆いかぶさってしまい、まるでヘルメットをかぶっているように見えなくなるほどだった。
「俺の事知ってたのかガキぃ。いい子だぞ」と鋼星は白い歯を見せてその子供を抱き上げて頭を撫でた。
「うん。だってチャンピオンでしょ? 強いんでしょ? 当然知ってるよ」
「そうかそうか。お前の言う通り当然俺は強いぞ」
「自分で言うのかよ。まあ、事実だけどよ」と竜太が皮肉めいたように言った。
すると、母親は申し訳無さそうに楓に言った。
「お洋服汚してしまってすいません。家で洗濯しますのでもしよかったら家によっていきませんか?」
翔の母親は楓たちに提案した。そして、楓は断ろうとしたが鋼星が耳元でささやく。
「宿代が浮くかもしんないぞ。しかも、食事まで付くだろうし」と言って悪い不敵な笑みを浮かべた。
立華も楓にお金の入った袋を見せつけて楓は熟慮の末、母のお言葉に甘えることになった。
母に続いて歩いている時、立華は隣を歩く楓に聞こえるくらいの小さな声で言った。
「正直、余裕はあるんですけど削れるところは削りましょ」
繁華街からしばらく歩いて繁華街の喧騒の音はまだ少し残るくらいに遠ざかり、石造りの一軒家に到着した。
母と子の2人の後に続き家の中へ入ると帰りを待っていた父親が全員を出迎えた。当然、父は帰ってくる人数が多いことに驚いた様子だった。
しかし、母と子の表情を見た父親はなにか察したように驚きの表情から笑みに変わり楓太たちを快く出迎えた。
「これはこれは、皆さんどうぞお上がりください」そう言って父は家の中へ通した。
家の中へ通され楓と鋼星は翔に気に入られたのか積み木やおもちゃが散らばるリビングで3人で翔と遊んでいた。残りの3人はテーブルで翔の両親と血液が注がれたグラスを前に座っていた。
幼い子供の翔と仲良く遊ぶ楓を見つめる烏丸の視線に楓は後ろから刺されたようにハッと気がついて烏丸の方を見る。
「烏丸さん?」と楓が訊く。
「なんでも」と烏丸は無表情で返した。
テーブルに座る父親が最初に口を開いた。
「お連れの方は武闘会に出られるそうでまさかそんな方々が我が家に来てくださるなんて光栄です」
父親がそう言うと立華は首を横に振って父親の意見を否定した。
「いえ、とんでもないですよ。彼らは確かに以前と比べたら強くなったんですけど鋼星君を除いたらギリギリ参加できるような実力でして皆さんに自慢できるかどうか…」
そういいかけると竜太が立華を睨んで立華は苦笑いを浮かべてその話題は強制的に終わった。
「皆さんルーロに来てみてどうでしたか?」と父親は尋ねた。
「ルーロって優しそうな人が多いですよね。さっき繁華街を通ったんですけどなんか浅草みたいでフォンツとはまた雰囲気が全く違うし」と竜太が言った。
すると、立華がすかさず竜太の太ももをつねって耳元でつぶやいた。
「なんで今更浅草とか人間の世界の言葉を言うんですか? あなたはアガルタ育ちアガルタ生まれの設定なんですよ。話をややこしくしないでください」
「ごめん。なんかなんでも喋っていいような気がしちゃって」
立華は溜息を吐いて「しっかりしてください」と小声で言った。
父親は竜太たちのやりとりは聞こえていなかったようだが2人の様子をみて白い歯を見せて笑みを浮かべた。
「ルーロはこのアガルタで最も治安の良い国ですからね。争いは少ないですし、あの恐ろしい組織ALPHAから最も遠い国です。だから、初めてルーロに来てくださる方は皆そう言ってくれますよ。あと、そんな治安の良い国で武闘会が開かれるのも意外だってみなさん口を揃えて言いますね」
父親は長く話した後一つ息を吐いてから更に続けた。
「最も平和な国だからこそちょっとした刺激が欲しくなるんですよ。だから、武闘会という強きものをかき集めた争いを開催しようと思ったんでしょうね」
そう言った後、父親が微笑みながら翔たちの方へ視線をやった。
視線の先では楓が馬役になって翔を背に乗せて遊んでいた。楓もまんざらでのない様子だし鋼星も翔と遊んでいることを楽しんでいるようだった。
「翔は楓さんのことが好きなようですね」
父親は楓たちから正面に視線を戻した。それに遅れて母親も同じように視線を戻す。
「私達ルーロの民にとって武闘会は最も危険なイベントですけどこの平和な国で行うからこそ盛り上がるイベントなのです。翔もその戦士たちにあこがれて毎日トレーニングしてるんですよ」と父親は微笑んだ。
「ええ、そんな光栄なイベントに出られる彼らは幸せものですね」と立華は言う。
翔の父と母は笑みを浮かべる。
すると、家の玄関からゴトンという音が聞こえて翔の家族以外は音源に振り向いた。
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