不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬

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第34.5話「やさしい家族」

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そして、家の玄関からゴトンという音が聞こえて翔の家族以外は音源に振り向いた。
 それを見た父は言った。
「どうやらトーナメントの組み合わせが決まったようですね」

 遊んでいた楓たちもテーブルに集まって翔の父親が持つ紙に記されている内容に好奇心を寄せていた。
「組み合わせってこうやって知らされるんだな」と竜太が言った。
 父親は玄関に落とされた紙の束を拾いに歩を進めていき、玄関に落ちている紙を拾い上げ竜太たちのもとへ戻りテーブルの上に広げた。
「今回の参加者は32名のようだね」
 広げた紙面には参加者32名の名前が書かれたトーナメント表と参加者32人分のプロフィールである、趣味や出身の国など闘技場の受付で書かされた簡単なプロフィールと顔写真が添付されていた。
 そして、全員の注目はもちろんトーナメントの対戦相手の方へ興味が行っていた。

 まず、3人の対戦ブロックから説明すると楓と鋼星は同じAブロックで竜太はDブロックという振り分けになっていた。
 鋼星はどうせ勝てるから対戦相手なんてどうでもいいと王者の余裕から自分の所属ブロックと試合時間だけ確認してトーナメント表への興味を失っていた。一方、初出場になる楓と竜太は当然のことながら対戦相手に興味を示した。
 トーナメント表に書いてある第1試合では楓の対戦相手はジャンという名前のヴァンパイアだった。楓はテーブルに広げてある資料をめくり対戦相手のプロフィールを紙面に穴が空くほど念入りに読み込んだ。

 ジャン。出身国は隣の国フォンツ出身のヴァンパイアだ。ソファであくびをしていた鋼星はどうやらその名前に聞き覚えがあるという。鋼星が言うには他の貴族で武力を買われ鋼星と同様にボディーガードをしているヴァンパイアらしい。趣味はボクシングらしく幼い頃からボクシングを習っていたという生粋の武闘派ヴァンパイアであることは疑いの余地がなかった。そして、楓にとって一回戦目からかなり手強い相手になりそうな予感がするような実績の持ち主である。

 続いて、Dブロック竜太の対戦相手のタナカ・タロウという名前のヴァンパイアだった。この名前だけでも地上とアガルタ含め数え切れないほどの数がいそうな名前だがその中でも彼はプロフィールによると彼は母国ルーロで格闘技教えているジムのトレーナーだという。自国開催ということもあり国民からの人気は高く会場内はルーロのヴァンパイアが多いことも予想されるためアウェーでの対戦が予想される。

「俺も楓も強そうな奴と当たったな。ボディーガードとトレーナーって完全に格闘技ガチな奴らじゃんか」
「そもそも、そういうヴァンパイアしか参加しませんからね」
 立華はそう言うと楓と竜太を交互に見た。
「さて、二人共強敵相手に負けて入られませんよ。鋼星君にもっと稽古をつけてもらって本番まで仕上げましょうか」と机に手をついて立ち上がった。
「よっしゃ。やるか二人共早く行くぞ。俺についてこい!」と鋼星は背中に乗せていた翔を弾き飛ばし、楓が床ギリギリのところでスライディングキャッチする。
 竜太もトーナメント表を見てから顔つきが変わりノリ気で鋼星の後を追っていった。
 楓も2人が家から出た後、翔の家族にお礼を言ってから同様に家を出ていった。

 扉が閉まる音が沈黙の中で聞こえてから立華が言った。
「すいませんね。せっかく家に入れてもらったのになんだか慌ただしくて」
「いえ、いいんですよ。みなさんは大会があるんですから、忙しいのは当然のことです」と父親は言った。
「では、僕らもそろそろおいとまさせていただきますね」
 翔の父と母が立華と烏丸を見送ろうと席を立ったときだった。
「ねぇ、せっかくだからみんなうちに泊まっていけばいじゃん。僕もっと楓と鋼星と遊びたいよ」
 立華はまるでその言葉を狙っていたかのようにニヤリと唇を三日月のように曲げた。

 すると、父は母と目を合わせてから言った。
「私達は大歓迎ですが、皆さんは宿屋など予約されているのではないですか?」
「いえ、実はまだ宿屋を予約してないんですよ。午前中は色々と立て込んでまして時間がなかったんです」
「そうだったんですか。大会のエントリーは今日から始まってましたからね。では、もしよろしければ泊まっていかれますか?」
 今度は立華と烏丸が目を合わせて言葉に出さずとも意志の疎通を図った。
「では、お言葉に甘えて」

 それから、数時間が経過して辺りはすっかりと暗闇に包まれていた。
 子供が苦手な立華は烏丸に翔の遊び相手を押し付けて烏丸が無理やり口角を持ち上げて貼り付けたような笑みを浮かべながら翔と遊んでいるときだった。玄関のドアが開く音がした。
 玄関にはぐったりとうなだれた楓と竜太を襟首を掴んで引きずりながら扉を開けて中に入ってきて、2人をリビングに放り投げた。
「いやぁ2人はよく耐えた方だぜ」
「これは耐えたと言えるんですか?」と目の前で流木の如く寝そべる2人に視線を落として立華が尋ねる。
「楓はまた死にかけたけどそれでも俺に反撃できるだけの力はあったし、竜太は俺にかすり傷を負わせるほど成長してたぜ。二人共俺と違って頭いいんだろうな」
 強くなったという割には鋼星の表現がしっくりきていない様子の立華は「まあ、鋼星君が言うなら間違いないのでしょう」となんとなく納得したようだった。
 立華にとって竜太と楓の特訓は鋼星にすべて一任していることから彼のやり方には口出しをしなかった。

 一方、烏丸はだらしなく床に横たわる2人を哀れみの視線を向けていた。
 そして、何か思い出したように立華が鋼星に向けて言った。
「鋼星君、今夜はここに泊めてくださるそうですよ」
「マジ! 宿代浮いたじゃんか」
「あんまり大きい声で言わないでもらえますかね。それに、ホテルに泊まったとしても宿泊費はまた鋼星君に付けても良かったんですよ、今回はご好意ということなんですから。ま、それよりも…」
 そして、立華は床に伸びている竜太をビンタし、烏丸は楓を無言で踏みつけながら叩き起こした。
「ほら、起きてください。せっかく泊めてくださるんだから家事のお手伝いぐらいしないといけませんよ」

 立華と烏丸に叩き起こされた2人と鋼星はもう一度立華に状況を説明されて、全員で掃除や暖炉にくべる薪割りなどの家事を手伝った。
「男手が多いと助かります」と母が言った。
「いえいえ、彼らを使いたい時はいつでもどうぞ。宿代の代わりです」
「そしたら…ちょっとお言葉に甘えちゃおうかな。買い物を手伝ってもらってもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです。では、皆さんよろしくお願いしますね」
「『よろしくお願いしますね』じゃねぇよ空太も行くんだぞ。ほら」
 母の頼みもあって翔と楓と鋼星は留守番して3人でそれ以外のメンバーが買い物に付き合う事になった。

 2時間ほどして買い物から帰ってきたメンバーも含め、翔の家族のお手伝いをしていると辺りはいつの間にか真っ暗になっており、楓たちは翔の家族と食卓を囲み、今までの旅の話やルーロの話し、翔の家族の話で盛り上がっていた。
 父と鋼星、竜太はアルコールが入り会話は更に弾んで3人は肩を組んで歌い出すほどに打ち解けていた。横で陽気に歌っている父親を見つめながら母は口元に手を添えて笑みを浮かべる。
 楓以外は父に勧められたアルコールを飲んでいたが立華と烏丸は適度な量を飲んでいるようで少しばかり顔を赤らめている程度だった。そこは、さすが連堂が指名した護衛なだけあって節度はわきまえているようだ。

 テーブルを囲んで酔っ払いが騒いでいる中、時刻はすでに日付が変わる時間になっており、リビングのソファで翔は気持ちよさそうに寝息を立てている。
 それに気がついた母親は翔のもとへ向かった。そして、楓も気を利かせてリビングの隣にある寝室の扉を開けて少しだけ母の手伝いをする。
 酔っぱらいたちとほぼ素面の立華が会話で盛り上がって騒がしいテーブルの空気感に嫌気が差したのか烏丸も寝室の方へ向かいタンスの上に置いてあった翔のパジャマを持って楓の隣に並んだ。

 母はゆっくりと翔をベッドに下ろし、烏丸からパジャマを受け取って、着替えを終えてから毛布をかけた。
「今日は、よく遊んだから疲れちゃったんでしょうね。一緒に遊んでくださってありがとうございます」
「いえ、僕も翔と遊んで楽しかったです」

 しばらく母と楓が会話している間、烏丸は翔の寝顔を見つめていた。
「翔くんのこと好きですか?」と烏丸はふと母に向かって尋ねた。
 母は烏丸の唐突な質問に少し驚いた様子だったが烏丸の目を見て何かを悟ったように少しだけ口元を緩めて優しい表情になった。
「それはもちろん大好きですよ。私達夫婦にとってこの子は大切な存在ですから。この子がいてくれるだけで私達は幸せなんです」
 語りかけるように柔らかな口調で話す母に対して烏丸はそれでも淡々と続けた。
「どうしてですか? 子供がいなくても2人の間で愛情はあって幸せなはずなのになぜ子供のことをそんなに大切に思えるんですか?」
「ちょっと烏丸さん?」と続けて淡々と質問攻めをする烏丸にたまらず楓は様子を伺った。
 しかし、母は烏丸がする質問に対して何一つとして拒絶すること無く、また優しそうな笑みを浮かべてからベッドに眠る翔を見つめながら答えた。
「親はね、子供の幸せのためだったら何だってしてあげたいと思うものなんですよ。この子は私達2人の間で授かった大切な命です。京香ちゃんも母親になったらきっと分かる時が来ますよ」
 母はベッドで気持ちよさそうに眠る翔の頭を撫でた。
 そして、烏丸はしばらく翔の寝顔を見つめていた。
「さ、もう遅いですし私達もそろそろ寝ましょうか」
 母は寝室からリビングに戻って静かになったテーブルの上を片付け始めた。
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