不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬

文字の大きさ
42 / 126

第41話「狂楽①」

しおりを挟む
ひんやりとそして外の音も光も人気も感じない。長く手入れをしていないのかその場は鼻腔にまとわりつくようなじっとりとしたカビの匂いが充満している。

 天井にぶら下がっているランプが明かりを灯し、楓の痛々しい姿をありありと照らし出した。
 楓は上裸にされて腕と足の関節全てに釘を大きくしたような杭を打たれ、大の字に磔にされていた。それはまさに生きたまま昆虫を標本にしたかのような姿だった。
 そして、楓の頭上にある光は少年の顔の半面を照らし暗闇の中に潜んでいた少年の姿が顕になる。
 楓の前に切り株のような丸い椅子に腰掛けている小太りの少年に楓は見覚えがあった。
「アーノルドなの? ここはどこ? これどういうことなの?」
 痛みを堪えながら楓は目の前に悠然と座るディアス家長男のディアス・アーノルドに言った。
 アーノルドは組んでいる足を解いて前かがみになって溜息を吐く。
「質問が多いな~。1回の発言で質問は1つにしてよ。僕は忙しいんだ」
 薄明るく2人の間だけを照らし出す光の中でアーノルドは億劫そうにそう言った。そして、両手の人差し指を地面に向ける。

「でも、今日の僕は機嫌が良いんだ。だから、特別に教えてあげるよ」
 アーノルドはニパァーとお花が咲くように優しい笑みを楓に見せる。
「ここは僕んち。つまり、君たちがこの前遊びに着たディアス家だよ。それでこの部屋は実験室。ようこそディアス家の遊び場へ」とアーノルドは両手を広げて楓の事を歓迎した。
 立ち上がったアーノルドの顔が全て光で照らされた。アーノルドの目はまるで空洞のように以前会った時とはまるで別人で光を全て飲み込んでしまいそうな目をしている。
 あまりの違いに楓は目の前にいるヴァンパイアが本当にアーノルドなのか疑ったがそれよりも彼の発言が気になって聞き返した。
「実験室?」
 アーノルドはゆらりと楓に肉肉しい指を向けた。
「そうだよ。実験さ。だから、君を実験対象としてそうやって拘束してるんだよ」 
「アーノルド一体何言ってるの? 冗談で言ってるんだよね? お願いだからここから出してくれないかな?」
 説得を試みて相手を刺激しないように痛みを押し殺して愛想笑いを作り問いかける。しかし、楓の頬を嫌な汗が伝う。
 楓とアーノルドは温度差が全くと言って良いほど違っていた。アーノルドは楓が質問を重ねるごとに鬱陶しいという表情を見せる。

「口数が多いよ。君、僕より歳上なんだよね? 質問ばっかりのうるさいだけで理解が遅くてバカと会話してるみたいだ」
 アーノルドは呆れたようにまた溜息を吐く。
 アーノルドは暗闇の中に視線を向けて薄い闇の中で腰をかがめてもぞもぞと漁っているような動作の後、金属が地面に擦れる音がする。アーノルドのシルエットからは何かを手繰り寄せて掴んだようだった。それは重いものだったのかアーノルドは足を浮かせて少しバランスを崩して両手で掴んでなんとかそれを手繰り寄せた。
「でも、そんなバカな君には実験を始めた方がすぐに僕のやりたいことが理解できると思うよ。学びというのは訊いてるだけじゃなくて体を動かして初めて理解になるんだ」とアーノルドはこめかみを指で叩いてそう言った。
 そして、座っているアーノルドは重い自分の体を億劫そうに持ち上げてゆっくりと壁に杭で磔にされている楓の元へ近づいてゆく。同時に金属が地面に擦れる音も近づいてくる。

 アーノルドは楓の真正面に立ちピタリと進める歩を止めた。
 アーノルドは拘束されている楓を見上げている。その表情はまるで、朗らかとそして、優しく微笑む平和な日常に暮らす少年が幸福を感じている瞬間を思わせる。
「みんな途中で壊れちゃうんだ。一度壊れたらもとに戻らないのが多いし、戻っても使い物にならない奴ばっかり。だから、つまらなくてね、退屈してたんだよ」
 アーノルドは自分の手に持っている物に視線を落とす。
「これが最近のマイブーム。チェーンソーだよ。君もこれぐらいは見たことあるでしょ? わざわざ地上から手に入れたんだ」
 アーノルドは手に持って暴れ馬のように吠え続けるチェーンソーのエンジン部分を我が息子のように撫でる。
「知ってるかい? 僕らヴァンパイアを創った神の話を」
 アーノルドは楓の返答を待つこと無く独り言のように話し始めた。
「僕は勉強ができないバカだけどね教養だけはちゃんとあるんだよ。なんたって貴族だからね。そこらのガキとは受けてる教育レベルが違うよ」
 アーノルドは自慢気に胸を張って言った。シャツからはみ出る腹の肉たちが体から弾けるようにしてシャツのボタンを今にも飛ばしそうだった。
 アーノルドは磔にされている楓を下から覗き込むように見た。
「ヴァンパイアの神は人間にこうやって磔にされて実験されたらしいよ。それでバラバラにして殺したとかなんとか言ってたな。昔はヴァンパイアの方が人間より力関係は上だったから生け捕りにでもして鬱憤を晴らしてたのかな? 人間の考えることはよくわかんないや。ま、そんなことはどうでもいいけどね」

 話し終えたアーノルドはふぅと息を吐いてから何かを力いっぱい引っ張る動作をした後、けたたましいエンジン音が外界の音を取り込まない静謐なこの部屋で響き渡る。光に照らされるそれは、小さな刃が高速で回転して一つの大きな刃になったように見えた。
 アーノルドはゆっくりとチェーンソーを楓の脇の下に近づけていく。
「君は壊れないんでしょ?」とアーノルドはささやくように、そして味わうように言った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...