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第41話「狂楽①」
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ひんやりとそして外の音も光も人気も感じない。長く手入れをしていないのかその場は鼻腔にまとわりつくようなじっとりとしたカビの匂いが充満している。
天井にぶら下がっているランプが明かりを灯し、楓の痛々しい姿をありありと照らし出した。
楓は上裸にされて腕と足の関節全てに釘を大きくしたような杭を打たれ、大の字に磔にされていた。それはまさに生きたまま昆虫を標本にしたかのような姿だった。
そして、楓の頭上にある光は少年の顔の半面を照らし暗闇の中に潜んでいた少年の姿が顕になる。
楓の前に切り株のような丸い椅子に腰掛けている小太りの少年に楓は見覚えがあった。
「アーノルドなの? ここはどこ? これどういうことなの?」
痛みを堪えながら楓は目の前に悠然と座るディアス家長男のディアス・アーノルドに言った。
アーノルドは組んでいる足を解いて前かがみになって溜息を吐く。
「質問が多いな~。1回の発言で質問は1つにしてよ。僕は忙しいんだ」
薄明るく2人の間だけを照らし出す光の中でアーノルドは億劫そうにそう言った。そして、両手の人差し指を地面に向ける。
「でも、今日の僕は機嫌が良いんだ。だから、特別に教えてあげるよ」
アーノルドはニパァーとお花が咲くように優しい笑みを楓に見せる。
「ここは僕んち。つまり、君たちがこの前遊びに着たディアス家だよ。それでこの部屋は実験室。ようこそディアス家の遊び場へ」とアーノルドは両手を広げて楓の事を歓迎した。
立ち上がったアーノルドの顔が全て光で照らされた。アーノルドの目はまるで空洞のように以前会った時とはまるで別人で光を全て飲み込んでしまいそうな目をしている。
あまりの違いに楓は目の前にいるヴァンパイアが本当にアーノルドなのか疑ったがそれよりも彼の発言が気になって聞き返した。
「実験室?」
アーノルドはゆらりと楓に肉肉しい指を向けた。
「そうだよ。実験さ。だから、君を実験対象としてそうやって拘束してるんだよ」
「アーノルド一体何言ってるの? 冗談で言ってるんだよね? お願いだからここから出してくれないかな?」
説得を試みて相手を刺激しないように痛みを押し殺して愛想笑いを作り問いかける。しかし、楓の頬を嫌な汗が伝う。
楓とアーノルドは温度差が全くと言って良いほど違っていた。アーノルドは楓が質問を重ねるごとに鬱陶しいという表情を見せる。
「口数が多いよ。君、僕より歳上なんだよね? 質問ばっかりのうるさいだけで理解が遅くてバカと会話してるみたいだ」
アーノルドは呆れたようにまた溜息を吐く。
アーノルドは暗闇の中に視線を向けて薄い闇の中で腰をかがめてもぞもぞと漁っているような動作の後、金属が地面に擦れる音がする。アーノルドのシルエットからは何かを手繰り寄せて掴んだようだった。それは重いものだったのかアーノルドは足を浮かせて少しバランスを崩して両手で掴んでなんとかそれを手繰り寄せた。
「でも、そんなバカな君には実験を始めた方がすぐに僕のやりたいことが理解できると思うよ。学びというのは訊いてるだけじゃなくて体を動かして初めて理解になるんだ」とアーノルドはこめかみを指で叩いてそう言った。
そして、座っているアーノルドは重い自分の体を億劫そうに持ち上げてゆっくりと壁に杭で磔にされている楓の元へ近づいてゆく。同時に金属が地面に擦れる音も近づいてくる。
アーノルドは楓の真正面に立ちピタリと進める歩を止めた。
アーノルドは拘束されている楓を見上げている。その表情はまるで、朗らかとそして、優しく微笑む平和な日常に暮らす少年が幸福を感じている瞬間を思わせる。
「みんな途中で壊れちゃうんだ。一度壊れたらもとに戻らないのが多いし、戻っても使い物にならない奴ばっかり。だから、つまらなくてね、退屈してたんだよ」
アーノルドは自分の手に持っている物に視線を落とす。
「これが最近のマイブーム。チェーンソーだよ。君もこれぐらいは見たことあるでしょ? わざわざ地上から手に入れたんだ」
アーノルドは手に持って暴れ馬のように吠え続けるチェーンソーのエンジン部分を我が息子のように撫でる。
「知ってるかい? 僕らヴァンパイアを創った神の話を」
アーノルドは楓の返答を待つこと無く独り言のように話し始めた。
「僕は勉強ができないバカだけどね教養だけはちゃんとあるんだよ。なんたって貴族だからね。そこらのガキとは受けてる教育レベルが違うよ」
アーノルドは自慢気に胸を張って言った。シャツからはみ出る腹の肉たちが体から弾けるようにしてシャツのボタンを今にも飛ばしそうだった。
アーノルドは磔にされている楓を下から覗き込むように見た。
「ヴァンパイアの神は人間にこうやって磔にされて実験されたらしいよ。それでバラバラにして殺したとかなんとか言ってたな。昔はヴァンパイアの方が人間より力関係は上だったから生け捕りにでもして鬱憤を晴らしてたのかな? 人間の考えることはよくわかんないや。ま、そんなことはどうでもいいけどね」
話し終えたアーノルドはふぅと息を吐いてから何かを力いっぱい引っ張る動作をした後、けたたましいエンジン音が外界の音を取り込まない静謐なこの部屋で響き渡る。光に照らされるそれは、小さな刃が高速で回転して一つの大きな刃になったように見えた。
アーノルドはゆっくりとチェーンソーを楓の脇の下に近づけていく。
「君は壊れないんでしょ?」とアーノルドはささやくように、そして味わうように言った。
天井にぶら下がっているランプが明かりを灯し、楓の痛々しい姿をありありと照らし出した。
楓は上裸にされて腕と足の関節全てに釘を大きくしたような杭を打たれ、大の字に磔にされていた。それはまさに生きたまま昆虫を標本にしたかのような姿だった。
そして、楓の頭上にある光は少年の顔の半面を照らし暗闇の中に潜んでいた少年の姿が顕になる。
楓の前に切り株のような丸い椅子に腰掛けている小太りの少年に楓は見覚えがあった。
「アーノルドなの? ここはどこ? これどういうことなの?」
痛みを堪えながら楓は目の前に悠然と座るディアス家長男のディアス・アーノルドに言った。
アーノルドは組んでいる足を解いて前かがみになって溜息を吐く。
「質問が多いな~。1回の発言で質問は1つにしてよ。僕は忙しいんだ」
薄明るく2人の間だけを照らし出す光の中でアーノルドは億劫そうにそう言った。そして、両手の人差し指を地面に向ける。
「でも、今日の僕は機嫌が良いんだ。だから、特別に教えてあげるよ」
アーノルドはニパァーとお花が咲くように優しい笑みを楓に見せる。
「ここは僕んち。つまり、君たちがこの前遊びに着たディアス家だよ。それでこの部屋は実験室。ようこそディアス家の遊び場へ」とアーノルドは両手を広げて楓の事を歓迎した。
立ち上がったアーノルドの顔が全て光で照らされた。アーノルドの目はまるで空洞のように以前会った時とはまるで別人で光を全て飲み込んでしまいそうな目をしている。
あまりの違いに楓は目の前にいるヴァンパイアが本当にアーノルドなのか疑ったがそれよりも彼の発言が気になって聞き返した。
「実験室?」
アーノルドはゆらりと楓に肉肉しい指を向けた。
「そうだよ。実験さ。だから、君を実験対象としてそうやって拘束してるんだよ」
「アーノルド一体何言ってるの? 冗談で言ってるんだよね? お願いだからここから出してくれないかな?」
説得を試みて相手を刺激しないように痛みを押し殺して愛想笑いを作り問いかける。しかし、楓の頬を嫌な汗が伝う。
楓とアーノルドは温度差が全くと言って良いほど違っていた。アーノルドは楓が質問を重ねるごとに鬱陶しいという表情を見せる。
「口数が多いよ。君、僕より歳上なんだよね? 質問ばっかりのうるさいだけで理解が遅くてバカと会話してるみたいだ」
アーノルドは呆れたようにまた溜息を吐く。
アーノルドは暗闇の中に視線を向けて薄い闇の中で腰をかがめてもぞもぞと漁っているような動作の後、金属が地面に擦れる音がする。アーノルドのシルエットからは何かを手繰り寄せて掴んだようだった。それは重いものだったのかアーノルドは足を浮かせて少しバランスを崩して両手で掴んでなんとかそれを手繰り寄せた。
「でも、そんなバカな君には実験を始めた方がすぐに僕のやりたいことが理解できると思うよ。学びというのは訊いてるだけじゃなくて体を動かして初めて理解になるんだ」とアーノルドはこめかみを指で叩いてそう言った。
そして、座っているアーノルドは重い自分の体を億劫そうに持ち上げてゆっくりと壁に杭で磔にされている楓の元へ近づいてゆく。同時に金属が地面に擦れる音も近づいてくる。
アーノルドは楓の真正面に立ちピタリと進める歩を止めた。
アーノルドは拘束されている楓を見上げている。その表情はまるで、朗らかとそして、優しく微笑む平和な日常に暮らす少年が幸福を感じている瞬間を思わせる。
「みんな途中で壊れちゃうんだ。一度壊れたらもとに戻らないのが多いし、戻っても使い物にならない奴ばっかり。だから、つまらなくてね、退屈してたんだよ」
アーノルドは自分の手に持っている物に視線を落とす。
「これが最近のマイブーム。チェーンソーだよ。君もこれぐらいは見たことあるでしょ? わざわざ地上から手に入れたんだ」
アーノルドは手に持って暴れ馬のように吠え続けるチェーンソーのエンジン部分を我が息子のように撫でる。
「知ってるかい? 僕らヴァンパイアを創った神の話を」
アーノルドは楓の返答を待つこと無く独り言のように話し始めた。
「僕は勉強ができないバカだけどね教養だけはちゃんとあるんだよ。なんたって貴族だからね。そこらのガキとは受けてる教育レベルが違うよ」
アーノルドは自慢気に胸を張って言った。シャツからはみ出る腹の肉たちが体から弾けるようにしてシャツのボタンを今にも飛ばしそうだった。
アーノルドは磔にされている楓を下から覗き込むように見た。
「ヴァンパイアの神は人間にこうやって磔にされて実験されたらしいよ。それでバラバラにして殺したとかなんとか言ってたな。昔はヴァンパイアの方が人間より力関係は上だったから生け捕りにでもして鬱憤を晴らしてたのかな? 人間の考えることはよくわかんないや。ま、そんなことはどうでもいいけどね」
話し終えたアーノルドはふぅと息を吐いてから何かを力いっぱい引っ張る動作をした後、けたたましいエンジン音が外界の音を取り込まない静謐なこの部屋で響き渡る。光に照らされるそれは、小さな刃が高速で回転して一つの大きな刃になったように見えた。
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