エスとオー

KAZUNAKA2020

文字の大きさ
上 下
14 / 21
13

時の流れ

しおりを挟む
週末の市街地。

今日も幹線道路は良く混んでいた。

乗用車、バス、トラック、すべての車が、目的地に向かって交錯こうさくしていた。


オレは、混んだ市街地を走り回るよりも、高速道路に乗って遠くに行く方が好きだ。

高速道路を走っていると、すごく解放された気持ちになる。

ただ走っているだけで金になるなんて、ほんと、いい仕事だと思った。

体力的に言うと、決して楽な仕事ではないけど、ずっと同じ建物の中で働くよりも気楽だった。


オレは以前よりも、少しばかり筋力がついたような気がする。

季節は進み、太陽の陽射しが暖かい。

作業中は半そででちょうどいい。

細い腕からは、小さな力こぶが見えていた。




職場は、十人程度の小さな運送会社だけど、アットホームな雰囲気なので居心地いごこちは良かった。

特に、もじゃもじゃ頭の森さんは、常にいろいろと気にかけてくれた。
「おい、中村、混んでいる時はあせっても仕方ないから、のんびりいけよ」

「それはそうと、おんぼろ車の調子はどうや?」

そして、いつも色気を発散させている鈴木さんも、
「朝御飯は、ちゃんと取らなあかんよ。この仕事はスタミナが大事やからね」

「靴が破れてるやん。そんなのいてたら、女の子にもてないよ」
と、オレを気遣きづかってくれた。

オレは体力勝負の仕事にも慣れ、ひとりで回る配送の仕事にも自信がついてきた。




トラックは高速道路を走り、京都を越え、滋賀に入っていった。

今日は東海方面までの中距離配送だった。

山を越えるとラジオの電波が入りにくくなったので、カーステレオにカセットを入れた。

車内には、ビリー・ジョエルの「ALLENTOWN アレンタウン」が流れた。

耳慣れたハスキーボイスが心地いい。

テンポのいいリズムに体を合わせ、オレは気持ち良く運転していた。



鼻歌混じりに運転していたオレは、江州田も仕事を頑張ってるかな、と思った。

そして、少し昔のことを思い出していた。

高校生の頃、江州田と王崎、この二人との出会いを振り返っていた。


しおりを挟む

処理中です...