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ガードレールにKISS
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「安い中古車って、どこで買えばええんですか?」
オレは会社の先輩、もじゃもじゃ頭の森さんに聞いた。
先輩といっても、二十歳年上だったので、オレから見れば、普通のおじさんだ。
短いパーマ頭で、痘痕顔、容姿はちょっと怖いけど、仕事は丁寧に教えてくれる優しい人だった。
「おまえ、車が欲しいのか? 中古車屋なら近くにたくさんあるからオレが教えたるで」
と、森さんは言った。
「でも、ちゃんと見極めやな、とんでもないものを掴まされんど」
「そりゃあ怖いですねぇ。 突然ぶっ壊れたら大変やし。 でも、ほんまに安いやつしか無理なんですよ。どんな車がええのか分からなくて」
「そうか、じゃあオレがいろいろアドバイスしたるわ」
と、森さんは親身になって聞いてくれた。
横で聞いていた鈴木さんは、
「中村くん、車を買うの? じゃあ、いつかドライブに連れて行ってねん」
と、いつものように、色気を発散させて言った。
森さんは妻子持ちだけど、スポーツタイプの車、トヨタ・セリカXXに乗っていた。
オートマチック車なんかには絶対乗らない、硬派の人だった。
「オートマなんて乗るなよ。あれは女の子用やからな。」
森さんは、けっこう車には詳しかったので、オレはいろいろと相談した。
「あまり金がないんやったら、最初は軽にしておけ」
と、森さんが言うと、
「なんや、軽自動車なの?それはちょっとつまらんねぇ」
と、鈴木さんが横から言った。
少ない資金で車を買うというのは、少し不安もあったけど、軽自動車なら何とか買えそうだった。
「どうせぶつけるやろから、最初はボロいやつでええやろう、ハッハッハ」
森さんは、笑いながらそう言った。
「ボロですか、まぁそうですねぇ」
どうせぶつけるやろから・・・。
森さんの予想はズバリ的中していた。
オレはマイカー、スズキ・アルトを手に入れた翌日に、ガードレールに突っ込んだのだった。
休日、森さんのセリカに乗せてもらい、近くの中古車店に行ってみた。
高価な車を横目で見ながら、自分でも買えそうな安い軽自動車を見て回った。
その中で、比較的新しく、そして綺麗な赤いボディをした一台に目が止まった。
森さんは、
「うん、これはけっこうええタマかもしれんな」
と言って、赤い軽自動車のドアを開けて中に乗り込んだ。
そして、
「まあ、あちこちに小さな傷はあるけど、これ、わりとええんとちゃうか? そんなにボロくもないし」
と言い、クラッチを踏んでギアを入れてみた。
「うん、悪うない。 どうや? おまえ赤は嫌いか?」
と森さんはオレに聞いた。
値段も手頃だし、赤いボディも気にいった。
数分後、オレは契約書を書いていた。
「おまえもとうとう車持ちか」
王崎は笑いながらドアを閉めた。
前日にアルトを納車して、これから王崎を乗せて軽くドライブするところだ。
普段、トラックに乗っていたので、運転にはまったく不安はない。
オレはギアを入れ、走り出した。
「ほな、行くで!」
ただ、軽自動車とはいえ、車体が軽いので、トラックよりも加速は良かった。
「おぉ、けっこう速いやん!」
オレはギアを上げ、爽快に飛ばした。
窓から入ってくる風が、とても心地良かった。
アルトは、オレの手となり足となった。
これなら、どこまでも行ける。
そう、この車は、オレの思いのままだった。
「中村、この車、ちっちゃいけど、けっこう良く走るよな」
古い軽自動車なんて、ほとんど乗ったことのない王崎には驚きの体験だった。
これはオレの車なんや。
王崎の車を借りて運転しているのではない。
マイカーなら、誰に気兼ねする必要があるんや。
オレは細い道から、広い幹線道路に出た。
そして、さらに加速した。
「ハハハ、おまえ大丈夫か? ちょっと調子に乗り過ぎやで」
オレは完全に調子に乗っていた。
自分の車を持てたことと、トラックとは違うスピードに酔っていたのだ。
オレは広い交差点をかなりのスピードで左折した。
トラックとは違い、車体の軽い車はハンドルがとてもクイックだった。
軽自動車の細いタイヤでは、オーバースピードを耐えるだけの粘りはなく、悲鳴を上げながら、ズルズルと滑っていった。
オレは必死でハンドルを戻そうとした。
しかし、気づいた時には、オレの車は内側のガードレールに突っ込んでいた。
そのあとは、あまり良く覚えていないけど、フロントがぐちゃぐちゃになったアルトを見ながら、オレは茫然としていたと思う。
そして、なぜだか笑っていた。
決して、可笑しくて笑っていたのではない。
幸い怪我人はいなかったけど、広い交差点での事故だったので、大騒動になった。
何台もパトカーが来て、事故の処理をした。
ガードレールに突っ込んだ車を、道行く人に見られ、オレはすごく恥ずかしかった。
フロントはぐちゃぐちゃだったけど、エンジンや足回りは問題なかったので、警察の実況検分が終わると、オレはそのまま運転して帰ってきた。
「まぁ、誰も怪我をしなかったし、前面だけのダメージなんで、良かったんやないか?」
と、王崎は言った。
オレは笑っていたけど、内心はかなりのショックを受けていた。
「あぁ、そうやな。怪我人がいなくてほんま良かった。でも、ここんとこオレはついてないな」
と、ため息まじりにそう言った。
「また、そのうちきっといいことがあるやろ」
王崎はオレに同情するように言った。
カーステレオからは、KISS の「 SHANDI 」が流れていた。
ポップなメロディが、オレのショックを和らげてくれた。
こうして、オレたちの十代が終わろうとしていた。
オレは会社の先輩、もじゃもじゃ頭の森さんに聞いた。
先輩といっても、二十歳年上だったので、オレから見れば、普通のおじさんだ。
短いパーマ頭で、痘痕顔、容姿はちょっと怖いけど、仕事は丁寧に教えてくれる優しい人だった。
「おまえ、車が欲しいのか? 中古車屋なら近くにたくさんあるからオレが教えたるで」
と、森さんは言った。
「でも、ちゃんと見極めやな、とんでもないものを掴まされんど」
「そりゃあ怖いですねぇ。 突然ぶっ壊れたら大変やし。 でも、ほんまに安いやつしか無理なんですよ。どんな車がええのか分からなくて」
「そうか、じゃあオレがいろいろアドバイスしたるわ」
と、森さんは親身になって聞いてくれた。
横で聞いていた鈴木さんは、
「中村くん、車を買うの? じゃあ、いつかドライブに連れて行ってねん」
と、いつものように、色気を発散させて言った。
森さんは妻子持ちだけど、スポーツタイプの車、トヨタ・セリカXXに乗っていた。
オートマチック車なんかには絶対乗らない、硬派の人だった。
「オートマなんて乗るなよ。あれは女の子用やからな。」
森さんは、けっこう車には詳しかったので、オレはいろいろと相談した。
「あまり金がないんやったら、最初は軽にしておけ」
と、森さんが言うと、
「なんや、軽自動車なの?それはちょっとつまらんねぇ」
と、鈴木さんが横から言った。
少ない資金で車を買うというのは、少し不安もあったけど、軽自動車なら何とか買えそうだった。
「どうせぶつけるやろから、最初はボロいやつでええやろう、ハッハッハ」
森さんは、笑いながらそう言った。
「ボロですか、まぁそうですねぇ」
どうせぶつけるやろから・・・。
森さんの予想はズバリ的中していた。
オレはマイカー、スズキ・アルトを手に入れた翌日に、ガードレールに突っ込んだのだった。
休日、森さんのセリカに乗せてもらい、近くの中古車店に行ってみた。
高価な車を横目で見ながら、自分でも買えそうな安い軽自動車を見て回った。
その中で、比較的新しく、そして綺麗な赤いボディをした一台に目が止まった。
森さんは、
「うん、これはけっこうええタマかもしれんな」
と言って、赤い軽自動車のドアを開けて中に乗り込んだ。
そして、
「まあ、あちこちに小さな傷はあるけど、これ、わりとええんとちゃうか? そんなにボロくもないし」
と言い、クラッチを踏んでギアを入れてみた。
「うん、悪うない。 どうや? おまえ赤は嫌いか?」
と森さんはオレに聞いた。
値段も手頃だし、赤いボディも気にいった。
数分後、オレは契約書を書いていた。
「おまえもとうとう車持ちか」
王崎は笑いながらドアを閉めた。
前日にアルトを納車して、これから王崎を乗せて軽くドライブするところだ。
普段、トラックに乗っていたので、運転にはまったく不安はない。
オレはギアを入れ、走り出した。
「ほな、行くで!」
ただ、軽自動車とはいえ、車体が軽いので、トラックよりも加速は良かった。
「おぉ、けっこう速いやん!」
オレはギアを上げ、爽快に飛ばした。
窓から入ってくる風が、とても心地良かった。
アルトは、オレの手となり足となった。
これなら、どこまでも行ける。
そう、この車は、オレの思いのままだった。
「中村、この車、ちっちゃいけど、けっこう良く走るよな」
古い軽自動車なんて、ほとんど乗ったことのない王崎には驚きの体験だった。
これはオレの車なんや。
王崎の車を借りて運転しているのではない。
マイカーなら、誰に気兼ねする必要があるんや。
オレは細い道から、広い幹線道路に出た。
そして、さらに加速した。
「ハハハ、おまえ大丈夫か? ちょっと調子に乗り過ぎやで」
オレは完全に調子に乗っていた。
自分の車を持てたことと、トラックとは違うスピードに酔っていたのだ。
オレは広い交差点をかなりのスピードで左折した。
トラックとは違い、車体の軽い車はハンドルがとてもクイックだった。
軽自動車の細いタイヤでは、オーバースピードを耐えるだけの粘りはなく、悲鳴を上げながら、ズルズルと滑っていった。
オレは必死でハンドルを戻そうとした。
しかし、気づいた時には、オレの車は内側のガードレールに突っ込んでいた。
そのあとは、あまり良く覚えていないけど、フロントがぐちゃぐちゃになったアルトを見ながら、オレは茫然としていたと思う。
そして、なぜだか笑っていた。
決して、可笑しくて笑っていたのではない。
幸い怪我人はいなかったけど、広い交差点での事故だったので、大騒動になった。
何台もパトカーが来て、事故の処理をした。
ガードレールに突っ込んだ車を、道行く人に見られ、オレはすごく恥ずかしかった。
フロントはぐちゃぐちゃだったけど、エンジンや足回りは問題なかったので、警察の実況検分が終わると、オレはそのまま運転して帰ってきた。
「まぁ、誰も怪我をしなかったし、前面だけのダメージなんで、良かったんやないか?」
と、王崎は言った。
オレは笑っていたけど、内心はかなりのショックを受けていた。
「あぁ、そうやな。怪我人がいなくてほんま良かった。でも、ここんとこオレはついてないな」
と、ため息まじりにそう言った。
「また、そのうちきっといいことがあるやろ」
王崎はオレに同情するように言った。
カーステレオからは、KISS の「 SHANDI 」が流れていた。
ポップなメロディが、オレのショックを和らげてくれた。
こうして、オレたちの十代が終わろうとしていた。
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