エスとオー

ケイ・ナック

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思い出におさらば

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少しが長くなってきた。

街を歩く人のよそおいも、明るい色が目立ってきた。

仕事から帰ってくると、マンションのポストに江洲田からのハガキが入っていた。

ハガキには次のように書かれてあった。

「中村、元気か? オレは寮の生活にも慣れてきて、仕事も順調。 ちょっと遠いけど、いつか遊びに来てくれや」

短い文面では、詳しいことは分からないけど、とりあえず江洲田は、仕事が軌道きどうに乗ったらしい。

でも、寮の生活に慣れたというところは、にわかには信じられなかった。

身の回りのことを自分でやっている江洲田なんて、想像できなかったからだ。

それに、バイク好きのあいつが、何ヵ月もバイクに乗れなくて大丈夫なのだろうか。

人間とは、そこまで変われるものなのだろうか。

あいつがオレに言った言葉は、いまだに覚えている。

「オレ、自分を変えてみたいんや」
江洲田はそう言った。

そんな強い意志があれば、それまでの習慣なんて、簡単に変えられるのかもしれない。

しかし、オレにそんな勇気があるだろうか。

オレは少し自問してみた。

いや、今のオレにはそんな勇気はない。

環境を変えるというのは、とてつもないエネルギーが必要なのだ。





環境を変えるどころか、オレはまだ過去を引きずっていた。

オレの部屋には、まだ女物の服があった。

もう過ぎたことだ。

もう忘れよう。

ミユキとはもう会うことがないと確信した今、これらの服を処分することにした。

もうすぐ十代が終わる。

こんなセンチメンタルな思い出は、さっさと忘れてしまいたかった。

自分の汚れた服や、古くなった靴と一緒に、ミユキの服を処分した。

これで過去とおさらばだ。

新しい出会いに期待しよう。


しかし、服は処分できても、ミユキが置いていったサボテンは処分できなかった。

オレも少なからず愛着があったからだ。

それに、この小さなサボテンは、オレの部屋に馴染なじんでくれたようで、少しずつ大きくなっていた。

これは決して、過去を引きずっているわけではない。

こいつはもう、オレの家族なのだ。



そうだ。江洲田に返事の手紙を出さないといけない。

いつまでも落ち込んでいたら、あいつに笑われる。

昔から、江洲田のことを小ばかにしていただけに、あいつに笑われるなんて我慢ならない。

いや、そうじゃない。

今は、そばに江洲田がいないからこそ、オレはいつまでも落ち込んでいるのだ。

つらいことがあった時、あいつはいつもオレのぽっかり空いた穴をめてくれていた。

いつも小ばかにしていたけど、あいつはそういう存在だったのだ。





環境を変えることはできないけど、自分の視野を広げるためにも、オレは自分の車を買うことにした。

毎日トラックでいろんなところに行っているけど、これはほとんど決まったルートを走っているだけだ。

それに、仕事の得意先ではなく、自分の行きたいところに行ってみたかった。

よし、自分の車を買おう。

そして、知らない場所に走りに行こう。


しかし、車はどこで買えばいいのだろう。

とうてい新車なんて買えるわけがない。

それに、中古車もどこで買えばいいのかわからなかった。

車のことは王崎に聞けばわかるだろうけど、あいつは高級車しか知らないだろうから、聞くのはやめておいた。

オレは会社の先輩、森さんに相談することにした。


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