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オーの災難
しおりを挟む病院の受付で王崎がいる病室を尋ねた。
王崎は十人くらい収容されている広い病室にいた。
カーテンを開けると、
「おう、中村か、ユキに聞いて来てくれたんか」
漫画を読んでいた王崎は、顔だけこちらに向けた。
「大丈夫なんか?腰を痛めたみたいやけど」
ベッドに横たわる王崎の下半身は、硬い器具で固定されていた。
「いきなり激痛が走ってな。どうやら、ヘルニアらしいわ」
「じゃあ、手術するんか?」
「あぁ、そういうことになりそうやな」
もともと腕力のあった王崎だけど、それを過信したツケが回ってきたのかもしれない。
いつも通り、材木を担いでいた時、突然痛みが走って、立ち上がれなくなったとのことだった。
「しばらく、ここで厄介になるしかなさそうやわ」
と、王崎は顔をしかめた。
「そうか。じゃあ、必要なものがあったら言ってくれ。オレが買ってくるから」
「あぁ、サンキュー。でも今はユキがいるから大丈夫や」
それを聞いたユキは、笑顔とも泣き顔とも取れる表情をした。
ベッドの横に置かれたラジカセからは、静かに音楽が流れていた。
王崎が好きな、エア・サプライの「ALL OUT OF LOVE 」だった。
いつもリッチで活発な王崎が、安物のナイロンカーテンに囲まれ、パイプベッドで横たわっているなんて、とても信じられなかった。
でも、王崎のことだから、しばらく体を休めたら、また復活してくれるだろう。
あいつは元気でないと。
そう、王崎に弱々しい姿は似合わない。
それにオレだって、いつもリッチで活発なあいつを妬んでいないと、自分らしくないのだ。
その頃、オレたちは二十歳を過ぎていて、十代とは違う、また新たな夢や希望を持ち始めていた。
半年前に事故を起こしたアルトに、オレは今でも乗っていた。
そしてオレには、ひとつ年上の彼女がいた。
配送の仕事をして約一年。
オレはあまり贅沢をしなかった。
普段の食事は弁当屋で買うことが多かったし、相変わらず安いアパートに住んでいた。
ファッションにも関心があったけど、汚れても気にならない安い服装が性に合っていた。
そしてフロントを直したオレのマイカー、アルト。
安い車だけど、自分専用車というのは嬉しいものだ。
全然パワーのない550cc のエンジンだけど、四段のギアチェンジが楽しかった。
その車で、オレはたくさん走った。
休みの日には、朝から晩まで走らせていた。
そして、とうとう彼女ができるチャンスも巡ってきたのだった。
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