エスとオー

KAZUNAKA2020

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オーの災難

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病院の受付で王崎がいる病室をたずねた。

王崎は十人くらい収容されている広い病室にいた。

カーテンを開けると、
「おう、中村か、ユキに聞いて来てくれたんか」
漫画を読んでいた王崎は、顔だけこちらに向けた。

「大丈夫なんか?腰を痛めたみたいやけど」

ベッドに横たわる王崎の下半身は、硬い器具で固定されていた。

「いきなり激痛が走ってな。どうやら、ヘルニアらしいわ」

「じゃあ、手術するんか?」

「あぁ、そういうことになりそうやな」

もともと腕力のあった王崎だけど、それを過信したツケが回ってきたのかもしれない。

いつも通り、材木をかついでいた時、突然痛みが走って、立ち上がれなくなったとのことだった。

「しばらく、ここで厄介やっかいになるしかなさそうやわ」
と、王崎は顔をしかめた。

「そうか。じゃあ、必要なものがあったら言ってくれ。オレが買ってくるから」

「あぁ、サンキュー。でも今はユキがいるから大丈夫や」

それを聞いたユキは、笑顔とも泣き顔とも取れる表情をした。

ベッドの横に置かれたラジカセからは、静かに音楽が流れていた。

王崎が好きな、エア・サプライの「ALL OUT OF LOVE オールアウトオブラブ」だった。




いつもリッチで活発な王崎が、安物のナイロンカーテンにかこまれ、パイプベッドで横たわっているなんて、とても信じられなかった。

でも、王崎のことだから、しばらく体を休めたら、また復活してくれるだろう。

あいつは元気でないと。

そう、王崎に弱々しい姿は似合わない。

それにオレだって、いつもリッチで活発なあいつをねたんでいないと、自分らしくないのだ。


その頃、オレたちは二十歳を過ぎていて、十代とは違う、また新たな夢や希望を持ち始めていた。

半年前に事故を起こしたアルトに、オレは今でも乗っていた。

そしてオレには、ひとつ年上の彼女がいた。




配送の仕事をして約一年。

オレはあまり贅沢ぜいたくをしなかった。

普段の食事は弁当屋で買うことが多かったし、相変わらず安いアパートに住んでいた。

ファッションにも関心があったけど、汚れても気にならない安い服装がしょうに合っていた。


そしてフロントを直したオレのマイカー、アルト。

安い車だけど、自分専用車というのは嬉しいものだ。

全然パワーのない550cc のエンジンだけど、四段のギアチェンジが楽しかった。

その車で、オレはたくさん走った。

休みの日には、朝から晩まで走らせていた。

そして、とうとう彼女ができるチャンスもめぐってきたのだった。

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