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第1話 褒賞辞退
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「――世界を闇へと導く魔王を討伐せし勇者ゼオンとその仲間たちよ。此度の働き、誠に見事であった」
大陸最大の面積を誇る国、アールエクス王国。その日、謁見の間では魔王と呼ばれた魔族を人族の希望である勇者の称号を持つ者が見事に討ち果たした報告が行われていた。
「勇者ゼオン。そなたの働きにより我が王国を脅かす魔族の存在を打ち砕いたことは国民すべての希望となるだろう。その功績を称え貴公に侯爵の位を与える」
「ありがたき処遇。しかと承ります」
勇者と呼ばれたゼオンは一歩前に進み、片膝を付くと国王の側仕えの者より貴族の証である短剣を受け取り、爵位を授かる。
「では、次に……」
国王の隣で宰相が書類を手に読み上げる。叙爵は国王がするものだが、単なる褒賞は宰相が行うものらしい。
「聖女ローザ。貴女は勇者ゼオンの管理する領地の教会管理者として任命する。今回の魔族出現により多くの国民が被害を受けた。その復興のシンボルとして尽力して欲しい」
「謹んでお引き受け致します」
「次に重戦士ウォーリアと斥候リリス。二人には希望する地に住居と報奨金の支払いを行う。詳細は謁見が終わった後に希望を聞くとする。
「「ありがとうございます」」
二人は同時に頭を下げて礼の言葉を告げる。
「最後に賢者グラン。そなたの魔法に関する知識は他の者の追随を許さないほど優秀であることは明白だ。そのうえ、魔道具を開発する錬金魔法も使えると聞く。此度の魔王討伐の際にもその知識と魔法により勇者ゼオンを盛り立てたと聞いている。是非とも国王直属の宮廷魔導士長として仕えていただきたい」
――国王直属の宮廷魔導士長とは立場的には領地を持たないだけで、上級貴族である伯爵家以上の権限を有する役職である。賢者の称号を授かっているとはいえ、純粋な人族ではない俺にとっては事実上最高と言える待遇であった。
「おおっ!! さすが賢者の称号を持つ者だ。その半端な生まれにありながら国王様の慈悲により最高の栄誉を授かるとは」
周りの貴族たちは皆、驚きの表情で宰相の話す内容に耳を傾けながらも含みを持った言葉で褒め称えた。
「――謹んで……」
俺は片膝を付き、国王の顔を見上げながら次の言葉を発した。それは、その場の者を凍りつかせるには十分過ぎる一言だった。
「辞退させていただきます」
◇◇◇
「――本当に良かったのか?」
謁見が終わり、勇者ゼオンが設けた慰労会なる食事の場でゼオンが俺に問いかけた。
「ん? 宮廷魔導士長の件か?」
「他に何があるんだよ」
自分の事でもないのに不機嫌そうなゼオンに俺は苦笑いをしながら手にしたエールのジョッキをグイと煽る。少し苦い感覚が喉を抜けて心地よい後味に変化するのを噛みしめながら答えを返す。
「窮屈な宮仕えなど誰がするもんか。あいつらは適当な理由をつけて俺に魔道具の開発をさせて、それを国民に売りつけ暴利を貪ろうとしているだけだ。そんな奴らのいいなりなんてまっぴら御免だ」
「では、グラン様はこの後どうされるのでしょうか?」
聖女であるローザが俺の事を『様』付けするのはある理由からだ。俺は錬金ギルドの長を長年務めていた父親(享年八十歳にて他界)と純エルフである母親(現存三百三十歳)の間に生まれたいわゆるハーフエルフという存在だ。その特異性のため俺は幼少期より人族とは比べ物にならないほどの魔力量を有し、さらに両親から得た錬金術や魔法の知識で無双していた。
魔王討伐旅の際に未熟だったローザに高レベルの治癒魔法を教授したことにより師と崇められ、いつの間にか俺の名前を呼ぶのに『様』付けが常習化していたのだった。
「特に決めていない。魔王を討伐したことにより、直近での脅威は無いだろうから久しぶりにのんびりするのも悪くないかもしれない。元より皆とは時間の流れが違うのだからそう焦るつもりはない」
俺の両親のように他種族が交わり、その産物として生まれた者はハーフとしてどっちつかずの立場となる。もちろん、俺のように魔力量が多いとか寿命が長いといった恩恵もあるので全てが悪いことばかりではない。今回は偶々、魔王討伐に勇者のサポート役が必要であったが為に依頼をされただけで本当に俺を認めてくれているわけではないことは肌で感じていた。だからこそ宮仕えを断ったのだ。
「――そう……ですか。もしグラン様の時間を頂けるならばもっと教えて頂きたいことがありましたのに……」
聖女ローザは残念そうな表情で微笑みを見せる。それを見たゼオンが話題を変えようとして話をウォーリアへと流す。
「そういえば、ウォーリアは鍛冶屋を始めるんだって?」
「ああ。元々、ワシの家系は鍛冶師の家系で、子供の頃から親父の背中を見てきたからな。この歳まで冒険者を好きにやらせてもらったんだ。少しは恩返しをしねぇとな」
「そいつは良いじゃないか。リリスは何か夢はあるか?」
ウォーリアの言葉に場の空気が変わったと喜びながら、ゼオンがリリスにも問いかける。
「あ、あたしも今は冒険者として活動していますけど、お料理が好きなので食堂を経営してみたいと思っているのです。あの……。あたしが食堂経営とか変ですか?」
リリスはいつもの斥候装束ではなく、今は慰労会とのことで普通の町娘が着るような服を着ており、少し自信なさげな表情で聞いてきた。
「もっと自信を持っていいと思うぞ。旅の間に振る舞ってくれたリリスの料理は外で作るものとは思えないほど美味いものが多かったと記憶しているからな」
俺は記憶を辿って過去にリリスが作ってくれた料理の数々を数え上げ、その出来栄えを褒める。
「は、はわわ。本当ですか? 信じても良いのですよね?」
探索時には見せたことのない豊かな表情でリリスがあわあわと手を振って何度も確認してきた。
「大丈夫だ。俺が保証するよ」
「もし、だめだったら責任とってくださいね」
リリスは冗談とは思えない表情で俺に約束をさせようと必死になっている。
「ははは。わかったよ。もし、上手くいかなかったら俺が客寄せになる魔道具を作ってプレゼントしてやるから頑張れ」
「そういったものは、上手く行かなかったらじゃなくて初めから作ってくださいよぉ」
目に涙を浮かべながら懇願するリリスを見てウォーリアが口を挟む。
「甘えるんじゃない。独立して商売をするならば最初は死ぬほど努力して苦しむことだ。ワシの親父が教えてくれた言葉だ。一緒に苦しもうじゃないか」
その言葉を聞いたリリスはドン引きの表情を見せる。いや、俺はまっとうな言い分だと思うがな。
「――まあ、皆それぞれの道を進むべく明日には離れる身だ。だが、魔王討伐という偉業を成した僕たちの間には深い絆があることも証明されている。何かあればお互い助けあう立場にあることを誓うとしようじゃないか?」
勇者ゼオンがそう言って場を締めくくる。
「宜しいですわ」
最初にローザが言葉を発する。
「そうですね。立場は違っても苦楽を共にした仲間ですからね」
続けてリリスが同意をする。
「ワシも構わないぞ」
ウォーリアがそれに続く。
「そうだな。流れる時は違っても交わる事も多々あることだろう。困っている場にあった時には協力をすると誓うよ」
最後に同意した俺の言葉を満面の笑みで見るゼオンにその場で言ったこの言葉を俺が後悔することになるのは案外すぐの事だった。
大陸最大の面積を誇る国、アールエクス王国。その日、謁見の間では魔王と呼ばれた魔族を人族の希望である勇者の称号を持つ者が見事に討ち果たした報告が行われていた。
「勇者ゼオン。そなたの働きにより我が王国を脅かす魔族の存在を打ち砕いたことは国民すべての希望となるだろう。その功績を称え貴公に侯爵の位を与える」
「ありがたき処遇。しかと承ります」
勇者と呼ばれたゼオンは一歩前に進み、片膝を付くと国王の側仕えの者より貴族の証である短剣を受け取り、爵位を授かる。
「では、次に……」
国王の隣で宰相が書類を手に読み上げる。叙爵は国王がするものだが、単なる褒賞は宰相が行うものらしい。
「聖女ローザ。貴女は勇者ゼオンの管理する領地の教会管理者として任命する。今回の魔族出現により多くの国民が被害を受けた。その復興のシンボルとして尽力して欲しい」
「謹んでお引き受け致します」
「次に重戦士ウォーリアと斥候リリス。二人には希望する地に住居と報奨金の支払いを行う。詳細は謁見が終わった後に希望を聞くとする。
「「ありがとうございます」」
二人は同時に頭を下げて礼の言葉を告げる。
「最後に賢者グラン。そなたの魔法に関する知識は他の者の追随を許さないほど優秀であることは明白だ。そのうえ、魔道具を開発する錬金魔法も使えると聞く。此度の魔王討伐の際にもその知識と魔法により勇者ゼオンを盛り立てたと聞いている。是非とも国王直属の宮廷魔導士長として仕えていただきたい」
――国王直属の宮廷魔導士長とは立場的には領地を持たないだけで、上級貴族である伯爵家以上の権限を有する役職である。賢者の称号を授かっているとはいえ、純粋な人族ではない俺にとっては事実上最高と言える待遇であった。
「おおっ!! さすが賢者の称号を持つ者だ。その半端な生まれにありながら国王様の慈悲により最高の栄誉を授かるとは」
周りの貴族たちは皆、驚きの表情で宰相の話す内容に耳を傾けながらも含みを持った言葉で褒め称えた。
「――謹んで……」
俺は片膝を付き、国王の顔を見上げながら次の言葉を発した。それは、その場の者を凍りつかせるには十分過ぎる一言だった。
「辞退させていただきます」
◇◇◇
「――本当に良かったのか?」
謁見が終わり、勇者ゼオンが設けた慰労会なる食事の場でゼオンが俺に問いかけた。
「ん? 宮廷魔導士長の件か?」
「他に何があるんだよ」
自分の事でもないのに不機嫌そうなゼオンに俺は苦笑いをしながら手にしたエールのジョッキをグイと煽る。少し苦い感覚が喉を抜けて心地よい後味に変化するのを噛みしめながら答えを返す。
「窮屈な宮仕えなど誰がするもんか。あいつらは適当な理由をつけて俺に魔道具の開発をさせて、それを国民に売りつけ暴利を貪ろうとしているだけだ。そんな奴らのいいなりなんてまっぴら御免だ」
「では、グラン様はこの後どうされるのでしょうか?」
聖女であるローザが俺の事を『様』付けするのはある理由からだ。俺は錬金ギルドの長を長年務めていた父親(享年八十歳にて他界)と純エルフである母親(現存三百三十歳)の間に生まれたいわゆるハーフエルフという存在だ。その特異性のため俺は幼少期より人族とは比べ物にならないほどの魔力量を有し、さらに両親から得た錬金術や魔法の知識で無双していた。
魔王討伐旅の際に未熟だったローザに高レベルの治癒魔法を教授したことにより師と崇められ、いつの間にか俺の名前を呼ぶのに『様』付けが常習化していたのだった。
「特に決めていない。魔王を討伐したことにより、直近での脅威は無いだろうから久しぶりにのんびりするのも悪くないかもしれない。元より皆とは時間の流れが違うのだからそう焦るつもりはない」
俺の両親のように他種族が交わり、その産物として生まれた者はハーフとしてどっちつかずの立場となる。もちろん、俺のように魔力量が多いとか寿命が長いといった恩恵もあるので全てが悪いことばかりではない。今回は偶々、魔王討伐に勇者のサポート役が必要であったが為に依頼をされただけで本当に俺を認めてくれているわけではないことは肌で感じていた。だからこそ宮仕えを断ったのだ。
「――そう……ですか。もしグラン様の時間を頂けるならばもっと教えて頂きたいことがありましたのに……」
聖女ローザは残念そうな表情で微笑みを見せる。それを見たゼオンが話題を変えようとして話をウォーリアへと流す。
「そういえば、ウォーリアは鍛冶屋を始めるんだって?」
「ああ。元々、ワシの家系は鍛冶師の家系で、子供の頃から親父の背中を見てきたからな。この歳まで冒険者を好きにやらせてもらったんだ。少しは恩返しをしねぇとな」
「そいつは良いじゃないか。リリスは何か夢はあるか?」
ウォーリアの言葉に場の空気が変わったと喜びながら、ゼオンがリリスにも問いかける。
「あ、あたしも今は冒険者として活動していますけど、お料理が好きなので食堂を経営してみたいと思っているのです。あの……。あたしが食堂経営とか変ですか?」
リリスはいつもの斥候装束ではなく、今は慰労会とのことで普通の町娘が着るような服を着ており、少し自信なさげな表情で聞いてきた。
「もっと自信を持っていいと思うぞ。旅の間に振る舞ってくれたリリスの料理は外で作るものとは思えないほど美味いものが多かったと記憶しているからな」
俺は記憶を辿って過去にリリスが作ってくれた料理の数々を数え上げ、その出来栄えを褒める。
「は、はわわ。本当ですか? 信じても良いのですよね?」
探索時には見せたことのない豊かな表情でリリスがあわあわと手を振って何度も確認してきた。
「大丈夫だ。俺が保証するよ」
「もし、だめだったら責任とってくださいね」
リリスは冗談とは思えない表情で俺に約束をさせようと必死になっている。
「ははは。わかったよ。もし、上手くいかなかったら俺が客寄せになる魔道具を作ってプレゼントしてやるから頑張れ」
「そういったものは、上手く行かなかったらじゃなくて初めから作ってくださいよぉ」
目に涙を浮かべながら懇願するリリスを見てウォーリアが口を挟む。
「甘えるんじゃない。独立して商売をするならば最初は死ぬほど努力して苦しむことだ。ワシの親父が教えてくれた言葉だ。一緒に苦しもうじゃないか」
その言葉を聞いたリリスはドン引きの表情を見せる。いや、俺はまっとうな言い分だと思うがな。
「――まあ、皆それぞれの道を進むべく明日には離れる身だ。だが、魔王討伐という偉業を成した僕たちの間には深い絆があることも証明されている。何かあればお互い助けあう立場にあることを誓うとしようじゃないか?」
勇者ゼオンがそう言って場を締めくくる。
「宜しいですわ」
最初にローザが言葉を発する。
「そうですね。立場は違っても苦楽を共にした仲間ですからね」
続けてリリスが同意をする。
「ワシも構わないぞ」
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