勇者の保護者を辞めた賢者のセカンドライフは没落貴族の再建教師 〜引退賢者は100歳年下の貴族令嬢と共に内政復興を楽しむ〜

夢幻の翼

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第6話 魔法講義

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「それで? 男爵家のご令嬢がどうして一人で乗合馬車に?」

 セシリアの身分を聞かされた俺は厄介ごとの臭いがぷんぷんする状態から逃げたい気持ちを必死に抑えながら話を聞いてやった。

「実は父の領地で魔獣が大量発生して大きな被害が出たと手紙が来たのです」

「魔獣の被害? 父親の領地はドンスタンと言ったな? そうか、最北部に位置するあの領地か」

「ご存じなのですね。父の領地はノーズ地方の最北部、魔王の地と呼ばれた土地に隣接する場所で魔獣による農作物被害が後を絶たないところです」

 以前、魔王を討伐する際に一時的に通過した領地で、その時も魔獣被害に悩む町人の声をよく聞いていた記憶がある。

「確かにあの土地は農作物に被害が多いと聞いているな。それで? その事と君がここに居る関係性は何だ?」

「――父の領地での税収が魔獣のせいで落ち込み、学院の授業料が支払えなくなったのです。それで、自主退学をして家に戻る途中なのです」

 貴族家に生まれ、順調に才能開花をしている途中で断念して家に帰るのは苦しい決断だっただろう。しかも貴族家にありながら専用の馬車さえ手配してもらえない程とはよほどのことなのだろう。

「そいつは悪いことを聞いてしまったな。詫び代わりに何か俺に出来ることはあるか? と、言っても金はあまり持っていないから貸すことは出来ないが」

「いえ、盗賊を捕まえる際に見せていただいた魔法だけで十分です。話したのは誰かに聞いてもらいたかっただけですので気にしないでください」

 そう言って微笑みを見せたセシリアだったが、その瞳の奥は悲しみの色をしているのが分かる。

「――そうだな。金は無いが魔法の知識なら多少は持っている。せっかくの機会だ、目的地に着くまで魔法の講義をしてやろう。学院では初級の点火しか教わっていないんだろ? なら、もう少し使える魔法を教えてあげよう」

「え? 本当ですか?」

「ああ、ただし習得出来るかは君次第だがな」

 俺はそう言って魔法の初歩にあたる四元素魔法についての説明とそれに対する魔法の講義をしたのだった。

◇◇◇

「――グラン先生。凄いです」

 いつの間にか俺のことを先生呼びしていたセシリアだったが、好きな魔法を積極的に勉強する姿勢を評価した俺は好きに呼ばせることにしていた。

「次はこの魔法陣を読み解いてみろ」

「はい」

 魔法の講義はその夜だけでは終わらずに次の日からも移動中の休憩時や野営での自由時間を使って講義を続けた。セシリアは勤勉で俺が教えた魔法理論を理解し、急速にその才能を開花させていく。そして目的地であるアビルボーザ領都に辿り着く頃には四元素魔法の初歩は全て網羅していた。

「よくここまで成長したな。たった数日間でこれだけの魔法を使えるようになった者は俺の記憶では数える程しか居ないはずだ」

「父の領地が財政難で学院を退学せざるを得なかったのですが、こうして学院に一年間通ったに匹敵するほどの濃厚な数日間を与えてくださり本当にありがとうございました」

 魔法の講義をする傍ら、今後はどうするのかと聞いたことがあり彼女からは両親のもとに戻り花嫁修業になると聞かされていた。好きな魔法の勉学は諦めて領地の財政危機を救ってくれる男性の元へ嫁に出されるのだろうと少し寂しい表情で語っていたのが印象に残る。

「今の俺にやってやれる事はないが、君には魔法の才能がある。諦めずに修行すれば一流の魔導士になれる可能性を秘めているだろう」

 俺はここ数日のセシリアを見て感じた正直な感想を伝えると彼女は嬉しそうに笑ってくれた。

◇◇◇

 結局のところ違反を起こした護衛の代わりを準備することは出来なかったので俺が護衛の代わりを務める事になっていた。但し、歩いての移動は断固拒否して探索魔法にて周囲警戒をするとして納得。馬車に乗ったままで領都まで移動してきたのだ。

「ありがとうございました。おかげで無事にたどり着けました」

 領都に着いた俺にバリスが礼を言う。

「あれから特に問題があったわけじゃないから気にするな。今度はもっとちゃんと仕事をする護衛を雇うことだな」

 俺は何度も頭を下げるバリスに頷くとセシリアに目を向ける。アビルボーザ領都は俺にとっては目的地だ。だがセシリアにとってはまだ通過点にしか過ぎず、ここから更に北の領地へ向けて新たな乗合馬車に揺られる必要がある。

「――では、ここでお別れだ。元気でやるがいい」

「はい。グラン先生もお身体に気を付けてください。また、どこかで会うことがありましたら魔法の講義をお願いしますね」

「ああ、約束する」

 家に戻れば魔法の勉強などする余裕のない生活が待っているだろうに気丈な態度に笑顔を乗せてドンスタン行きの馬車に向かうセシリアに俺は確証のない約束を交わす。長い人生を生きてきた俺だが、このような約束をしたのは初めてのことだった。

「行ったか……」

 セシリアを見送った俺は先に到着しているだろうゼオンたちに合流するためギルドへと足を運ぶ。こうして別々に辿り着いた場合の伝言を聞くために決めておいた事だった。

 ――からんからん

 ギルドの扉を開けると聞きなれた音がホールに響く。一斉に注がれる視線を受けながら俺は一番窓口へと歩み寄る。

「ゼオンという者からの伝言はないか?」

「失礼ですが、お名前をお聞きしても?」

「グランだ」

「少々お待ちください」

 受付嬢はそう返すと書類をペラペラとめくり、あるページで手が止まる。やはり先に着いていたか。

「手紙を預かっておりますが、本人であるとの証明を願います」

 当然の対応だろう。名前だけでひょいひょい手紙を渡していたら悪巧みをするものが現れてもおかしくない。俺は昔に冒険者として登録していたのでその証明証を提示することにした。

「これ、期限切れていますよ。更新料として金貨五枚お願いします」

「更新料に金貨五枚だと? 高すぎないか?」

「はい。金貨五枚お願いします」

 特に感情を出さないトーンで淡々と要求してくる受付嬢だったが、さすがに払わないといった選択肢はなくしぶしぶ支払を済ませた。

「手痛い出費だ。あとでゼオンに請求してやる」

 本来ならば自分の更新手数料なので自らが支払うのは当然のことだったが、金に余裕があるわけではなかったので全てゼオンに押し付けるつもりでいたのだった。
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