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第11話 ローザの決意
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「――それで代官の代わりはどうするんだ?」
「それを考えていたんだが、一時的とはいえ代官の役目を預けることのできる人材がこんな地方の領地にほいほいと居るわけがないんだよな」
ゼオンが額に手を当てながら呟くように言う。当然だろう、俺たち三人はつい先日この街に来たばかりだ。人脈などもあるわけでもないし、そう簡単に代わりなど見つけられるわけなどない。
「俺は御免だぞ。そもそも貴族になるつもりはないからな」
俺はゼオンが何かを言い出す前に先手を打って拒否の意向を示す。
「はあ。そうだよなぁ。グランならきっとそう言うと思ったよ」
ゼオンは諦めの表情と共に隣に座るローザに視線を向ける。
「なあ。ローザって確か子爵令嬢だったよな? 俺みたいに学院だけでの知識じゃなくて実際の経営的な勉強とかしてないよな?」
ゼオンはローザが学院に通っていたことは知っていたが殆ど接触が無かったのでその辺りの情報は持っていなかったので念のために聞いてみたのだ。
「まあ、最低限の知識なら……」
「本当か!?」
「ええ。私のように家が貴族の場合、女子はほぼどこかの貴族家へ嫁ぐことになります。その場合、主人となられる殿方に経営能力があれば問題ないのですが、そうでない場合には妻として主人を支える必要がありますので家によっては幼少期より経営学を学ぶことがあるのです」
「ローザの家はそうだったというのか?」
「はい。私の実家であるサージカル家も長男が病気の為に次男が家を継いだのです。その次男が父だったのですが、お恥ずかしいことに父は幼少期より勉学が好きではなかったようで次男だったこともあり経営学の講義をサボっていたと母から聞いております。その時、父を支えたのが母でその経験から母は女子である私に経営学を学ぶ機会をくださったのです」
「なら! ――いや、無理か。ローザは聖女でこの国の教会を管理するために来たんだからな」
一度は喜んだゼオンだったが、すぐに彼女の使命を思い出して頭を振った。
「――構いませんよ」
再度悩むゼオンにローザが告げる。その態度は全て想定内であるかのように落ち着き払っていた。
「あくまで領政が落ち着くまでという条件ならば……ですけど」
「ひとついいか?」
ローザの言葉に俺が思いついたことを問いかけてみる。
「さっき聞いたローザの話の中で実家の経営は母親がサポートしていると言っていたな? それで領内の政治はうまく回っていると」
「ええ。父も自らの経営能力に限界があると考えているようで母の助言を大切にしていますから」
「それだ!」
俺はパンと手を打つと二人に考えを披露した。それは人族の心の機微に疎いハーフエルフの俺が考えた策だった。
「二人が一緒になって領政を担えばいいんだよ。なんだ、簡単なことじゃないか」
「それは、俺とローザが婚姻関係になって領政を担えと言っているのか?」
「そうだが、何か問題でもあるのか? 確かにローザは国から教会の管理をするようにと言われているが、常に教会に詰めている必要はないだろう? あの神官が信用出来ないなら別の人間を任命すればいいだけだ。それに、魔王を倒した勇者とそれを支えた聖女が治める領地なんて他のどの国を探してもないと思うぞ。代官による悪政が原因での民衆からの支持回復には持ってこいの条件だと思うがな」
俺は自信満々にそう言って笑う。賢者たる俺の案に称賛の声が上がると思っていたが、ゼオンは予想外の反応を示してきたのだった。
「確かに領政の観点からだけ見れば最良の案なのかもしれない。だが、わざわざ俺とローザが結婚しなくても彼女を一時的に代官にすれば事足りるんじゃないか? 彼女には聖職者として俺よりふさわしい者と一緒になった方が彼女の幸せになると思う」
「なかなか面倒なことを言う奴だな。ゼオンは勇者であり、今は侯爵閣下だろ? 国より任せられた領地をより良く導くのがお前の務めじゃないのか? それに、ローザは女性だ。確かに聖女としての地位はあるが、その権限は教会内でのものであって領地全体に影響を及ぼすものではない。この男性優遇の貴族世界で代官に女性を据えた国は聞いた事がない。そんな状態でローザを代官に任命するのはリスクでしかない」
人族よりも長く生きてきた俺の経験と知識を総動員しても導き出される答えは限られている。ローザの実家の案件だって本当は希少な例であることは俺自身よく理解しているつもりだ。
「領政の知識に不安のある元勇者の治める代官が汚職をして罷免された状態。代わりの人材が居ない状態での領政の舵取りに対して運営に明るいローザの存在。これは神が用意してくれた天啓なのではないか?」
「神の天啓……。そうなのかもしれませんね」
俺の言葉に先に反応したのは意外にもローザの方だった。
「おい。良いのか? グランの言葉に乗って自らの人生を決めても」
「それも運命なのかもしれません。母が私に経営を学ばせた事ひとつあげても聖女の天啓を受けたことについても全ては神の導きによるものかもしれません。ゼオンさんがそれで納得いただけるならば私は受け入れる意志はあります」
「貴族の間で恋だ、愛だと言えるのは領民に対して責任のない者の言うことじゃないのか? 民草の生活を守る覚悟のある貴族は愛する者より信頼できる者が必要だと俺は考える」
俺の言っていることは詭弁だ。だが、多くの国を見て来た者としてはそれが真理だと言える。
「ローザは領民を守る覚悟はあるそうだぞ。あとはゼオンが判断することだ」
「――ローザにそこまで言われちゃ断るのは勇者の名が廃るよな。わかった、提案を受け入れる。ローザ、俺に知恵を貸してくれ」
「喜んで。母直伝の経営手腕を叩き込んであげますので覚悟をしてくださいね」
「ああ、よろしく頼む」
ゼオンはローザと握手を交わしてお互いの意思を確認する。まあ、正義感の強いこの二人なら領政もうまく導いていけるだろう。
「話がまとまったようで安心したよ。俺は領内のどこかのどかな町でのんびり暮らすことにする。時々は遊びに来てやるからその時は頼むぞ」
元より政治の世界に首を突っ込むつもりの無かった俺はゼオンたちにそう言うと席を立とうとする。だが、俺の腕をローザはしっかり掴むとニコリと微笑んだのだった。
「それを考えていたんだが、一時的とはいえ代官の役目を預けることのできる人材がこんな地方の領地にほいほいと居るわけがないんだよな」
ゼオンが額に手を当てながら呟くように言う。当然だろう、俺たち三人はつい先日この街に来たばかりだ。人脈などもあるわけでもないし、そう簡単に代わりなど見つけられるわけなどない。
「俺は御免だぞ。そもそも貴族になるつもりはないからな」
俺はゼオンが何かを言い出す前に先手を打って拒否の意向を示す。
「はあ。そうだよなぁ。グランならきっとそう言うと思ったよ」
ゼオンは諦めの表情と共に隣に座るローザに視線を向ける。
「なあ。ローザって確か子爵令嬢だったよな? 俺みたいに学院だけでの知識じゃなくて実際の経営的な勉強とかしてないよな?」
ゼオンはローザが学院に通っていたことは知っていたが殆ど接触が無かったのでその辺りの情報は持っていなかったので念のために聞いてみたのだ。
「まあ、最低限の知識なら……」
「本当か!?」
「ええ。私のように家が貴族の場合、女子はほぼどこかの貴族家へ嫁ぐことになります。その場合、主人となられる殿方に経営能力があれば問題ないのですが、そうでない場合には妻として主人を支える必要がありますので家によっては幼少期より経営学を学ぶことがあるのです」
「ローザの家はそうだったというのか?」
「はい。私の実家であるサージカル家も長男が病気の為に次男が家を継いだのです。その次男が父だったのですが、お恥ずかしいことに父は幼少期より勉学が好きではなかったようで次男だったこともあり経営学の講義をサボっていたと母から聞いております。その時、父を支えたのが母でその経験から母は女子である私に経営学を学ぶ機会をくださったのです」
「なら! ――いや、無理か。ローザは聖女でこの国の教会を管理するために来たんだからな」
一度は喜んだゼオンだったが、すぐに彼女の使命を思い出して頭を振った。
「――構いませんよ」
再度悩むゼオンにローザが告げる。その態度は全て想定内であるかのように落ち着き払っていた。
「あくまで領政が落ち着くまでという条件ならば……ですけど」
「ひとついいか?」
ローザの言葉に俺が思いついたことを問いかけてみる。
「さっき聞いたローザの話の中で実家の経営は母親がサポートしていると言っていたな? それで領内の政治はうまく回っていると」
「ええ。父も自らの経営能力に限界があると考えているようで母の助言を大切にしていますから」
「それだ!」
俺はパンと手を打つと二人に考えを披露した。それは人族の心の機微に疎いハーフエルフの俺が考えた策だった。
「二人が一緒になって領政を担えばいいんだよ。なんだ、簡単なことじゃないか」
「それは、俺とローザが婚姻関係になって領政を担えと言っているのか?」
「そうだが、何か問題でもあるのか? 確かにローザは国から教会の管理をするようにと言われているが、常に教会に詰めている必要はないだろう? あの神官が信用出来ないなら別の人間を任命すればいいだけだ。それに、魔王を倒した勇者とそれを支えた聖女が治める領地なんて他のどの国を探してもないと思うぞ。代官による悪政が原因での民衆からの支持回復には持ってこいの条件だと思うがな」
俺は自信満々にそう言って笑う。賢者たる俺の案に称賛の声が上がると思っていたが、ゼオンは予想外の反応を示してきたのだった。
「確かに領政の観点からだけ見れば最良の案なのかもしれない。だが、わざわざ俺とローザが結婚しなくても彼女を一時的に代官にすれば事足りるんじゃないか? 彼女には聖職者として俺よりふさわしい者と一緒になった方が彼女の幸せになると思う」
「なかなか面倒なことを言う奴だな。ゼオンは勇者であり、今は侯爵閣下だろ? 国より任せられた領地をより良く導くのがお前の務めじゃないのか? それに、ローザは女性だ。確かに聖女としての地位はあるが、その権限は教会内でのものであって領地全体に影響を及ぼすものではない。この男性優遇の貴族世界で代官に女性を据えた国は聞いた事がない。そんな状態でローザを代官に任命するのはリスクでしかない」
人族よりも長く生きてきた俺の経験と知識を総動員しても導き出される答えは限られている。ローザの実家の案件だって本当は希少な例であることは俺自身よく理解しているつもりだ。
「領政の知識に不安のある元勇者の治める代官が汚職をして罷免された状態。代わりの人材が居ない状態での領政の舵取りに対して運営に明るいローザの存在。これは神が用意してくれた天啓なのではないか?」
「神の天啓……。そうなのかもしれませんね」
俺の言葉に先に反応したのは意外にもローザの方だった。
「おい。良いのか? グランの言葉に乗って自らの人生を決めても」
「それも運命なのかもしれません。母が私に経営を学ばせた事ひとつあげても聖女の天啓を受けたことについても全ては神の導きによるものかもしれません。ゼオンさんがそれで納得いただけるならば私は受け入れる意志はあります」
「貴族の間で恋だ、愛だと言えるのは領民に対して責任のない者の言うことじゃないのか? 民草の生活を守る覚悟のある貴族は愛する者より信頼できる者が必要だと俺は考える」
俺の言っていることは詭弁だ。だが、多くの国を見て来た者としてはそれが真理だと言える。
「ローザは領民を守る覚悟はあるそうだぞ。あとはゼオンが判断することだ」
「――ローザにそこまで言われちゃ断るのは勇者の名が廃るよな。わかった、提案を受け入れる。ローザ、俺に知恵を貸してくれ」
「喜んで。母直伝の経営手腕を叩き込んであげますので覚悟をしてくださいね」
「ああ、よろしく頼む」
ゼオンはローザと握手を交わしてお互いの意思を確認する。まあ、正義感の強いこの二人なら領政もうまく導いていけるだろう。
「話がまとまったようで安心したよ。俺は領内のどこかのどかな町でのんびり暮らすことにする。時々は遊びに来てやるからその時は頼むぞ」
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