勇者の保護者を辞めた賢者のセカンドライフは没落貴族の再建教師 〜引退賢者は100歳年下の貴族令嬢と共に内政復興を楽しむ〜

夢幻の翼

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第37話 報告と様子見

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「――結局、魔角猪ホーン・ボアは居なかったな」

 火蜥蜴サラマンダーを始末した俺とゼオンはその後も洞窟内部の探索を進めたが、探していた魔角猪は発見出来なかった。まあ、もともと滝の裏側にあった洞窟なのだ。別の入口でもなければ魔角猪が入り込む余地は無かったのかもしれない。

「目的の魔角猪ではなかったが、これはこれで排除すべき相手だったな」

 火蜥蜴はその攻撃力の高さから危険な魔獣として知られており、発見した場合は即座に騎士団が討伐に出るのが通例だ。まさか、こんな場所に生息しているとは思わなかったが魔素濃度が濃くなった洞窟内で突然変異をした可能性が高いので後日にでもゼオンが調査員を派遣すると決めた。

「思ったよりも調査に時間がかかってしまったな。探している魔角猪に関しては後日にでも罠を仕掛けておくつもりだから一度村に戻るとしよう」

 俺は討伐した火蜥蜴を魔法鞄に仕舞い込むとゼオンと共に洞窟から外に出た。滝壷の前まで来た俺は水を分けていた氷の魔法を解除して水の流れを元通りにしておく。

「洞窟が見えた状態だと何が入るか分からないからな。調査隊が来たときには声をかけてくれれば同じようにするつもりだ」

 すっかり滝の入口が元に戻ったのを確認すると俺は今後のことをゼオンに相談する。

「これからの事だが、男爵家の財政を回復させるひとつの手段としてこの村を起点に魔獣の肉を加工して販売することを考えている。併せて特産品であるムーギから作るエールの増産、販売に力を入れるつもりだ」

「なるほど。それで僕は何をしたらいい?」

「加工品の販売ルートの確立と定期的な買い取りだな。税については買い取りの時点で差し引いて取ればいいだろう」

「グランは暫くこの村に在籍するつもりなのかい?」

「そうだな。セシリア嬢を鍛えるのに手ごろな魔獣も出るし、ムーギの収穫が終わるまでは魔獣駆除の対応をしてやろうと思っている」

「わかった。商品の流通に関しては任せてくれ。こちらとしても税収が安定してくれたほうが助かるからね」

 村に戻りながら俺はゼオンと情報のすり合わせをしながら歩く。木々の間からは陽の光が差し込んで穏やかな風を運んでくれる。

「――魔獣被害さえなければもう少し発展させられる村だと思うんだがな」

 村を囲む柵と黄金に色づくムーギを横目に俺が呟く。

「北のこの地域は農業が中心だ。この村だけの問題と捉えずに発展させるには先頭に立つ見本が必要だ、だからグランには期待しているよ」

「俺としてはゆっくりと魔法の研究が出来て美味い酒が飲めたら文句はないんだがな」

「そうか? それにしては精力的に動いてくれているようだし、セシリア嬢の面倒もよく見ていると聞いているぞ」

「搾りたてのエールと教えるたびに吸収する有能な弟子のおかげかな。思っていたよりも楽しくやらせてもらっているよ」

 俺はゼオンにそう告げると笑みを浮かべた。

「――森の調査は一旦終わりだ。今後は被害の報告を受け次第、対応していくことになる」

 俺と共に村に戻ったゼオンは村長にそう告げる。同時に俺が暫くのあいだ村に滞在して対応するとも約束をした。俺の実力を知っている村長のジンは安堵の表情を見せて俺に頭を下げる。

「こんな小さな村を気にかけてくださりありがとうございます。これからムーギの収穫時期となりますが今年は魔獣被害も少なくなりそうで、久しぶりの豊作が見込めます」

 ジンは笑顔でそう話すと一面に広がるムーギ畑を見渡したのだった。

◇◇◇

「俺は一息ついたらセシリア嬢の様子を見に行くが、ゼオンはどうする?」

「俺はやめておくよ。どうせ明日には長旅が待っているから今日くらいはゆっくりさせてもらうよ」

 ゼオンはそう言って宿に向かう。その後ろ姿を見送った俺はジンにセシリア達の居場所を聞いて様子を見るために現場に向かった。

「――もう無理ですぅ。ローザ様、勘弁してください」

 二人が居るとされる中庭へ足を踏み入れると同時にセシリアが泣き言をいう声が聞こえてくる。これはローザが思ったよりもしっかりと教えてくれている証拠だろう。

「調子はどうだ? 上手く使いこなせそうか?」

 そう言う俺の目に地面にへたり込んだ状態で涙目になっているセシリアの姿が飛び込んできた。その前では椅子に座り、優雅に紅茶を楽しむローザの姿。それを見た俺は思わず苦笑いをしてしまう。

「ああっ! グラン先生! 聞いてくださいよ。ローザ様の講義を受けられると喜んでいたらとんでもないほどの特訓。この方法はグラン先生が指示したものですよね?」

「いや、俺は講義の内容には関与していないぞ」

「でも、やり方がグラン先生にそっくりなんですけど?」

 地面にへたり込んだまま俺を見上げるように訴えるセシリアにローザが飲みかけの紅茶カップを置いてから自然に答えた。

「それは、私もグラン様から指導していただいたことがあるからですね。その方式には私、大変感銘を受けておりまして。部下の指導には大抵この方策をさせていただいておりますの」

 そう言って微笑むローザだったが、その瞳は本気の目だった。

「ま、まあ。短時間で習得するには何かを犠牲にする必要があるのが常だ。今は大変だろうが、使いこなせるようになったらやって良かったと思えるはずだ。まあ、頑張れ」

 そう言ってその場から退散しようとした俺だったが、当然ながら二人に引き止められて強制的に参加を余儀なくされたのは言うまでもなかった。
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