94 / 159
第94話【リリスの臨時受付嬢講義②】
しおりを挟む
「アーリー様!? どうしてここに?」
叩かれた女性は頭を擦りながらもアーリーが怒った顔をしながら仁王立ちをしている事に危機感を覚え、その場にビシッと直立不動で固まっていた。
「どうして? じゃないわよ。
昨日の終礼であなたの研修を引き受けてくれる人が来ると話した筈だけど?」
「えっ? 確かにそんな事を聞いたような気もしますけど、もっと歳を重ねたベテラン講師が来ると思ってたんですけど……」
女性はアーリーに対して話が違うと訴える。
――パシン。
さらに追い打ちでアーリーのハリセン(ではないが)が彼女の頭頂部を叩く。
「あなた、本当に受付嬢講習の3級に合格したのよね?
その内容に受付嬢としての言動から振る舞いまであった筈だけど……。
まさか、替え玉受験を……」
アーリーが疑惑の目で彼女を見るので慌てて手を振りながら言い訳をする。
「そんな事ある訳ないですよ。
大体、面接はアーリー様がやってくださったじゃないですか」
「ええ、確かに『面接』はやった覚えがあるわ。
でも、講義に関しては私は見てないからあなたがきちんとテストを受けて合格を貰ったかどうかは知らないわよ」
「そ、そんなぁ」
ふたりがやり合っているのを冷ややかな目で見ていたリリスはため息をついてアーリーに言った。
「すみません。
呼ばれたから来たのですけど、まさかその娘が受付嬢候補なのですか?」
リリスは今の受け答えで彼女が『ポンコツ』である事は確信していたが、出来るだけ早く依頼をこなして帰りたかったので何かの間違いである事を祈りながらアーリーに聞いた。
「……その『まさか』よ」
アーリーもため息をつきながら頷いた。
「ちょっと人材不足でね。
受付嬢規定を一応でもクリアしてるのがこの娘だけなの。
結局が斡旋ギルドの受付嬢規定がおかしいのがいけないのだけどね」
「あー。まあ、それは私も同意しますけど……」
【斡旋ギルド受付嬢規定】
斡旋ギルドの受付嬢に抜擢する人材の基準を明記したもので受付に立つ資格のようなものである。
・独身の女性である事
・年齢は25歳以下である事
・受付嬢講習の3級以上を取得している事
・物事に対してきちんとした受け答えが出来る事
・読み書き計算に加えて書類整理能力が一定水準以上である事
・容姿が一定水準を越えている事
「今どきの優秀な娘って結婚してたり年齢制限で引っかかる娘も多くて基準から外れてしまうのよね。
だいたい、この規定もギルドが出来てすぐの内容をそのまま使ってるだけで今のやり方には合わない筈なのよ」
アーリーが規定に関して不満を言うが、今その事を言ってもリリスがこのポンコツ娘の面倒を見なくてはいけない事実は変わる筈も無く、リリスはげんなりとした表情で肩を落としていた。
「とりあえず名前を教えて頂戴」
こめかみを押さえながらリリスが名前を尋ねる。
「えっと、私の名前ですよね。
クレナと言います」
「クレナさんね。
私はアーリーギルドマスターから依頼を受けてあなたを鍛え直すために来たリリスよ。
本来ならば私が来る必要がない筈なのに来なければいけなくなった意味をよく考えて私の指導を受けてください」
「はっ はい!」
クレナは直ぐに承認の返事をする。
「じゃ じゃあ後はお願いね。
今日の指導が終わったら執務室に来て頂戴。
色々な書類と報酬についての契約書を渡すから……」
「分かりました。この娘の指導は全て私に任せて貰えるのですよね?」
リリスがアーリーに最終確認をする。
「少なくとも第三受付を任せられるようにならないと話にならないから多少は厳しく指導してもらわないと間に合わないでしょうし好きにやって良いわよ。
万が一倒れたらナオキさんを呼んでくればすぐに解決出来る事でしょうし」
アーリーはさらりととんでもない事を言うがリリスも「そうですね」と普通に了承した。
「なな……何が始まるんですか?」
クレナがびくびくしながらふたりに聞くと「研修よ研修」とにこやかに返事があった。
「基本的には時間内は第三窓口業務をこなしながらの研修で受付を閉めてから本格的な研修をするしか無いわよね。
とりあえず必要な書類関係を見せてください。
その後はふたりで窓口業務をするので常連さんとかの情報はその都度教えてください」
「はっ はい。分かりました」
その後、リリスは業務開始時間まで詰め込みで資料を読み漁っていった。
* * *
「いらっしゃいませ、斡旋ギルドへようこそ。
今日はどのようなご要件でしょうか?」
初日は業務開始からリリスが見本を見せるためにメインで利用者の対応にあたった。
「あれ? クレナちゃんはどうしたの?」
常連の男性からクレナの事を尋ねられる。
「クレナの方は只今研修中でして、期間限定ではありますが私がお手伝いに入らせて頂いております。
彼女の研修終了までの短い期間ではありますが宜しくお願いしますね」
リリスは持ち前の営業スマイルを振りまきながらギルドの利用者達に挨拶をしていく。
「いやぁ君、美人だね。すぐにのこのギルドの一番窓口を任せて貰えるんじゃないかい?」
リリスの事を新人受付嬢と思っている利用者にはそんな事を言う人もいたがリリスは嫌な顔を全く見せずに淡々と期間限定の助っ人だと説明してから仕事斡旋の説明をこなしていく。
窓口の奥テーブルではリリスが受け付けた仕事の書類整理を休む暇もないペースで泣きながらこなすクレナの姿があった。
叩かれた女性は頭を擦りながらもアーリーが怒った顔をしながら仁王立ちをしている事に危機感を覚え、その場にビシッと直立不動で固まっていた。
「どうして? じゃないわよ。
昨日の終礼であなたの研修を引き受けてくれる人が来ると話した筈だけど?」
「えっ? 確かにそんな事を聞いたような気もしますけど、もっと歳を重ねたベテラン講師が来ると思ってたんですけど……」
女性はアーリーに対して話が違うと訴える。
――パシン。
さらに追い打ちでアーリーのハリセン(ではないが)が彼女の頭頂部を叩く。
「あなた、本当に受付嬢講習の3級に合格したのよね?
その内容に受付嬢としての言動から振る舞いまであった筈だけど……。
まさか、替え玉受験を……」
アーリーが疑惑の目で彼女を見るので慌てて手を振りながら言い訳をする。
「そんな事ある訳ないですよ。
大体、面接はアーリー様がやってくださったじゃないですか」
「ええ、確かに『面接』はやった覚えがあるわ。
でも、講義に関しては私は見てないからあなたがきちんとテストを受けて合格を貰ったかどうかは知らないわよ」
「そ、そんなぁ」
ふたりがやり合っているのを冷ややかな目で見ていたリリスはため息をついてアーリーに言った。
「すみません。
呼ばれたから来たのですけど、まさかその娘が受付嬢候補なのですか?」
リリスは今の受け答えで彼女が『ポンコツ』である事は確信していたが、出来るだけ早く依頼をこなして帰りたかったので何かの間違いである事を祈りながらアーリーに聞いた。
「……その『まさか』よ」
アーリーもため息をつきながら頷いた。
「ちょっと人材不足でね。
受付嬢規定を一応でもクリアしてるのがこの娘だけなの。
結局が斡旋ギルドの受付嬢規定がおかしいのがいけないのだけどね」
「あー。まあ、それは私も同意しますけど……」
【斡旋ギルド受付嬢規定】
斡旋ギルドの受付嬢に抜擢する人材の基準を明記したもので受付に立つ資格のようなものである。
・独身の女性である事
・年齢は25歳以下である事
・受付嬢講習の3級以上を取得している事
・物事に対してきちんとした受け答えが出来る事
・読み書き計算に加えて書類整理能力が一定水準以上である事
・容姿が一定水準を越えている事
「今どきの優秀な娘って結婚してたり年齢制限で引っかかる娘も多くて基準から外れてしまうのよね。
だいたい、この規定もギルドが出来てすぐの内容をそのまま使ってるだけで今のやり方には合わない筈なのよ」
アーリーが規定に関して不満を言うが、今その事を言ってもリリスがこのポンコツ娘の面倒を見なくてはいけない事実は変わる筈も無く、リリスはげんなりとした表情で肩を落としていた。
「とりあえず名前を教えて頂戴」
こめかみを押さえながらリリスが名前を尋ねる。
「えっと、私の名前ですよね。
クレナと言います」
「クレナさんね。
私はアーリーギルドマスターから依頼を受けてあなたを鍛え直すために来たリリスよ。
本来ならば私が来る必要がない筈なのに来なければいけなくなった意味をよく考えて私の指導を受けてください」
「はっ はい!」
クレナは直ぐに承認の返事をする。
「じゃ じゃあ後はお願いね。
今日の指導が終わったら執務室に来て頂戴。
色々な書類と報酬についての契約書を渡すから……」
「分かりました。この娘の指導は全て私に任せて貰えるのですよね?」
リリスがアーリーに最終確認をする。
「少なくとも第三受付を任せられるようにならないと話にならないから多少は厳しく指導してもらわないと間に合わないでしょうし好きにやって良いわよ。
万が一倒れたらナオキさんを呼んでくればすぐに解決出来る事でしょうし」
アーリーはさらりととんでもない事を言うがリリスも「そうですね」と普通に了承した。
「なな……何が始まるんですか?」
クレナがびくびくしながらふたりに聞くと「研修よ研修」とにこやかに返事があった。
「基本的には時間内は第三窓口業務をこなしながらの研修で受付を閉めてから本格的な研修をするしか無いわよね。
とりあえず必要な書類関係を見せてください。
その後はふたりで窓口業務をするので常連さんとかの情報はその都度教えてください」
「はっ はい。分かりました」
その後、リリスは業務開始時間まで詰め込みで資料を読み漁っていった。
* * *
「いらっしゃいませ、斡旋ギルドへようこそ。
今日はどのようなご要件でしょうか?」
初日は業務開始からリリスが見本を見せるためにメインで利用者の対応にあたった。
「あれ? クレナちゃんはどうしたの?」
常連の男性からクレナの事を尋ねられる。
「クレナの方は只今研修中でして、期間限定ではありますが私がお手伝いに入らせて頂いております。
彼女の研修終了までの短い期間ではありますが宜しくお願いしますね」
リリスは持ち前の営業スマイルを振りまきながらギルドの利用者達に挨拶をしていく。
「いやぁ君、美人だね。すぐにのこのギルドの一番窓口を任せて貰えるんじゃないかい?」
リリスの事を新人受付嬢と思っている利用者にはそんな事を言う人もいたがリリスは嫌な顔を全く見せずに淡々と期間限定の助っ人だと説明してから仕事斡旋の説明をこなしていく。
窓口の奥テーブルではリリスが受け付けた仕事の書類整理を休む暇もないペースで泣きながらこなすクレナの姿があった。
1
あなたにおすすめの小説
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる