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本編(シャルロ視点)

黒い猫の秘密

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 小さな獣にエドウィンは迷惑そうな顔をすると、猫の首根っこを掴み、遠慮なくシャルロに向かって投げる。
 飛んできた黒猫をシャルロは慌てて抱き止めた。

「エドウィン!? あぶないだろ?!」
「そいつは運動神経がいいから問題ない……で、言えない理由があるのか? それはレオを避ける理由と同じか?」
「うぐっ…」

 真剣なエドウィンの視線に射ぬかれて、思わず黒猫を抱き締める手に力が入る。その手を猫がペロリと舐めた。
 見上げる紫の瞳が大好きなレオの瞳の色と同じに見えて、シャルロはぐっと息を飲む。

 もう告白イベントは終了したのだ。
 エドウィンはエミリアを選んだし、レオとのルートは発生していない。シャルロルートのことを未来視として話しても問題ないだろう。

「……邪神は卒業式の日に現れる」
「なっ?!」
「でも、レオかエミリアが【聖女】になっていれば苦戦はしないし、そうでなくても乙女と騎士が揃えば負けはしない」
「二人の【苗床の乙女】、特に男性体の強靭な【聖女】が必要だからレオとエミリアが同時期に生まれたという未来視は……」

 驚き顔のエドウィンにシャルロは首を小さく横に振る。

「嘘って訳じゃない、ただそれは今までの風習で成長した場合だから」
「そうか、本来なら【花の騎士】はライバル同士で、戦闘で連携などできない」
「ああ。【聖女】に依存しすぎるのは良くないと思ったんだ。望まぬ【開花の儀式】もしてほしくなかったし」
「エミリアを愛してる今ならシャルロのその気持ちは解る。だから幼い頃から俺達を集めたのか。シャルロはそんな昔からレオを好き……」
「ええとっ、だからエミリアとの儀式はいつでも大丈夫だから!」

 自分のことを追及されそうになり、シャルロは慌てて話題を変える。
 しかし付き合いの長いエドウィンはそのくらいで話を流すことはしなかった。

「邪神のことはわかった。……だけど、なら何故レオの申し出を断ったんだ? てっきり邪神討伐が激戦になり、シャルロが死んでレオを独り残す未来でも視たんだと思ってたんだが」
「おい、勝手に人を亡き者にするなよ!」

 エドウィンの言葉にシャルロが思わず突っ込む。こうなるとシャルロは相手の手の上だ。
 王子なのに腹芸が出来ないのは致命的だと周りの人間によく言われるが、それと同時に番犬のレオが居れば安心か、とも言われている。

「だっていつもレオのことが好きだって顔で見ているのに、言い寄られれば辛いですって顔をしながら距離をとっているし、なにかあるんだろうとは勘繰るさ」
「……そこまであからさまなつもりはないんだけど」
「まあそこは今更だからいいとして、で、理由はなんなんだ?」
「ぐっ…」

 思わず押し黙るシャルロに、黒猫が先を促すように前足でてしてしと腹を殴る。それを見たエドウィンは苦笑した。

「レオが好きってのは、認めるんだよな」
「……好きだよ。レオのこと好きだけどさ、おれじゃダメなんだよ」
「なぜ?」

 身を乗り出して来るエドウィンの圧に負けてシャルロはソファーに深く凭れる。その膝の上に黒猫は乗ると見上げてきた。

(とりあえず、メリバになるとかは言わない方向で)

「ええと、レオとおれが【開花の儀式】をすると世界が滅んだり、レオが魔王になる未来が……視えたんだ」
「……は?」
「や、だからなんか魔力が強くなり過ぎるみたいで制御できないって言うか……」

(嘘じゃない、間違ってもいないぞ、たぶん。制御出来ないのは魔力というより感情だけど)

 視線を彷徨わせて言うシャルロはとても儚げに見える。その姿に心配したのか黒猫がニャーニャーと騒がしく鳴き始めた。
 その様子にエドウィンは再び苦笑すると立ち上がる。

「やはり未来視が理由だったのか。それなら後はレオと二人で話せ」
「え?……ばっ!!!!!????」
「判った、ありがとなエド! エミリアにもよろしく伝えてくれ」

 シャルロはあまりの事に絶句して固まる。
 その間に「二人も仲良くしろよ」と言い残してエドウィンは部屋を後にした。

 部屋にはシャルロとエドウィンが連れてきた黒猫だったもの、現在は人間に戻った裸体の男の二人が残された。

「な? は? え? ま? レ? えぇえ?」
「やーっと捕まえたぞシャルロ。もう逃がさないから覚悟しろよ?」

 にーっこりと笑うレオに、シャルロは蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来なかった。

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