5 / 16
第五幕
しおりを挟む黒い熊の様な物体が鳥を咥えたままこちらをみる。赤い眼と目があってしまった。
ああこれはやばい。特務隊の討伐対象の魔物だ。特殊能力や訓練をしていない一般人は手も足も出ない。
闇から出てくる魔物は神出鬼没だ。一応湧き出るスポットみたいなところはあって、そこの浄化とかを第一特務隊は行う。こういった街中に出てくる魔物に対処するのが第三特務隊である。劇場内の警備にも数名いる。
俺はバン!と力いっぱい控室の扉を閉めればカイの手をとって警備のいる方へ走り出した。そこまで行けばどうにかなる。幼い頃、そうカイくらいの年齢の頃、魔物からは逃げるしかないのだということも学んだ。
だが衣装の長衣は走りにくくてスピードが出せない。魔物は俺が閉めた扉を破壊して廊下に飛び出してきた。
「カイ、いけ!」
これでも俺はむかし特務隊を目指していた、魔物の基本対応とかには多少自信もある。追いつかれると悟った俺はカイの背を押し、魔物に向き直った。芝居でさっき使った模擬剣でも多少の時間稼ぎにはなるだろう。
カイはごねることなく「必ず助けに来ます!」といって走り去った。
戻ってくることは正直期待していない。だけど二人で死ぬより一人は生き残る方がいいのは確かなはずだ。
黒い熊みたいな魔物からいくつも鞭みたいなものが飛んでくる。
それを模擬剣で叩き落としたが五本目で剣が折れた。そして両手足と首に黒い鞭が巻き付くと、あっという間に熊に引き寄せられて目の前に赤い瞳があった。
さっきまで鳥を食べていた口から鳥の羽根や血や肉が覗いている。ああ俺もこうやって食われるのか、髪の毛が歯にでも引っかかるのかな。
今度こそ終わったな。
折角助けてもらった命なので無くすのは正直惜しいが、世の中には絶体絶命という場面も存在する。まさに今がその時だろう。
俺が目を閉じ力を抜いてだらんとした瞬間、体に巻き付いた鞭みたいなひもがウネウネと動き出した。蔦植物みたいに身体中に巻きついてくる。そんなに巻きつけなくても逃げれねぇよ。
「ん? なんで???」
ウネウネした蔦は服の中に入り込んでくる。
するすると服の隙間から入り込んできた蔦? 鞭? 触手? からネトネトした液体が出てきてはっきり言って気持ち悪い。ナメクジが這いずったらこんな感じか?
目を開ければ目の前に魔物の口があって、食べ残しの鳥の頭と視線が合ってしまったので目を閉じた。視界情報は有ってもなくても変わらない。
ヌルヌルした魔物のナニかは下着の中にはいってくると尻の割れ目にそって移動している。これは噂の凌辱か? いやいや魔物がそんなことするとか聞いたことがない。
「うわっ……」
食べるなら早く食ってくれないかな? 体にまとわりついて気持ち悪いし、ついに尻穴にズルズルと入り込まれて悪寒が走った。排泄と逆とか気持ち悪すぎる。あーこれ内臓からちゅるーって吸われて食われるのか? 痛くないといいな、と完全諦めモードでいたら拘束が解けてしこたま床に尻を打ち付けた。
まとわりついていたヌルヌルした蔦は影も形もない。
「いってぇ!」
「すまない。無事か?」
カチンと剣を鞘に納める音と共に頭の上から心地のいい低い声が降ってくる。
俺はこの声を知っている。
「イワン・レイグナー……」
驚いて見上げれば、緑の瞳と目が合った。
見間違えるわけがない、第一特務隊のイワン・レイグナーその人だ。なぜこんなところにいるんだ?!!!! うそだろう? 心の準備が間に合わない…!!!
突然現れた、二度と会うことがないと思っていた好きな人に、俺は驚きのあまり呼吸困難を起こして、そのまま泡を吹いて気を失った。
13
あなたにおすすめの小説
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
孤独な王子は影に恋をする
結衣可
BL
王国の第一王子リオネル・ヴァルハイトは、
「光」と称えられるほど完璧な存在だった。
民からも廷臣からも賞賛され、非の打ち所がない理想の王子。
しかしその仮面の裏には、孤独と重圧に押し潰されそうな本音が隠されていた。
弱音を吐きたい。誰かに甘えたい。
だが、その願いを叶えてくれる相手はいない。
――ただ一人、いつも傍に気配を寄せていた“影”に恋をするまでは。
影、王族直属の密偵として顔も名も隠し、感情を持たぬよう育てられた存在。
常に平等であれと叩き込まれ、ただ「王子を守る影」として仕えてきた。
完璧を求められる王子と、感情を禁じられてきた影。
光と影が惹かれ合い、やがて互いの鎖を断ち切ってゆく。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)
たたら
BL
久々の新作です。
全16話。
すでに書き終えているので、
毎日17時に更新します。
***
騎士をしている公爵家の次男は、顔良し、家柄良しで、令嬢たちからは人気だった。
だが、ある事件をきっかけに、彼は【不能】になってしまう。
醜聞にならないように不能であることは隠されていたが、
その事件から彼は恋愛、結婚に見向きもしなくなり、
無表情で女性を冷たくあしらうばかり。
そんな彼は社交界では堅物、女嫌い、と噂されていた。
本人は公爵家を継ぐ必要が無いので、結婚はしない、と決めてはいたが、
次男を心配した公爵家当主が、騎士団長に相談したことがきっかけで、
彼はあっと言う間に婿入りが決まってしまった!
は?
騎士団長と結婚!?
無理無理。
いくら俺が【不能】と言っても……
え?
違う?
妖精?
妖精と結婚ですか?!
ちょ、可愛すぎて【不能】が治ったんですが。
だめ?
【不能】じゃないと結婚できない?
あれよあれよと婚約が決まり、
慌てる堅物騎士と俺の妖精(天使との噂有)の
可愛い恋物語です。
**
仕事が変わり、環境の変化から全く小説を掛けずにおりました💦
落ち着いてきたので、また少しづつ書き始めて行きたいと思っています。
今回は短編で。
リハビリがてらサクッと書いたものですf^^;
楽しんで頂けたら嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる