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本編
(7)獣人狩り・1
しおりを挟む驚くことにレーヴンと寝たら物凄くよく眠れた。
起きた時にはテントに誰もおらず、外に出ればたき火の傍でグリムラフとレーヴンが地図を見て話していた。その近くにホルフが眠っており、テントの傍でエールックが寝ている。
俺はエールックを起こさないように通り抜け、レーヴン達の傍に寄る。
「あれ? まだ朝じゃないから王子様寝てて平気だよ」
「俺だけ見張りをしないわけにはいかない。……? レーヴン、顔が腫れていないか?」
「あー……」
「それさぁ聞いてよ! さっきエールックに殴られたんだよ」
言いよどむレーヴンの代わりにグリムラフが答える。
エールックに? 何か気に障ることでもしたのか? いやそれにしても。
「レーヴンなら避けられただろう。なぜ殴られた?」
「そんなの王子様抱きしめて寝てたからに決まってるじゃん。王子様起こさないようにテントからレーヴンを引きずり出してぶん殴ったの、ほんと器用だよね、あの変態」
「おい、グリ」
「なぜそんなことで殴られる? ああ、王子に対しては確かに不敬罪か。だが俺が許可してるのだから問題はない。治癒は必要か?」
エールックには軽率な行動をしないようちゃんと伝えなければならない。
だいたい俺に着いてくるなと言っても、旅路が長くなると言っても、それは想定済みだと、自分は王宮騎士を辞めて来た、と言われてしまえば強く戻れとも言えなくなった。なぜそんな軽率な行動をとるのか。
俺は立ったまま、レーヴンとグリムラフを見下ろす。治癒、だけでは言葉が足りなかったのか二人はぽかんとした顔で俺を見上げるばかりで返事がない。
「治癒魔法は必要か? と聞いている」
「あ? ああ。いや、要らない。この位なら明日には治る」
「それなら良かった。エールックが起きたら軽率なことはしないように話しておく」
「ほんともーちゃんと言っておいてよね!」
「なんでグリがそこで偉そうなんだよ」
王宮騎士たちでも仲の良い者達も多く見た。セダー兄上とマフノリア様もグリムラフとレーヴンのように軽口を叩いていた。きっとこういう何気ない会話にも信頼というのは育っていくんだろう。
エールックと自分の間にはこういった関係は無いように思う。俺の意志も伝わらないのだから信頼などないのだろうな。
「レーヴン、さっきはよく眠れた、礼を言う。また地面が固い時には枕になってもらえると助かる」
足手まといにはなりたくない。信頼関係が俺とレーヴンの間にあるとも思っていないが、頼っていいとは言われたからこの程度お願いしても問題はないだろう。
俺が素直にレーヴンに言えば、グリムラフがさらに口をぽかっと開けて俺を見上げている。
「いや、え? なに? レーヴンこの王子様大丈夫?? 感情に気付かないタイプ?」
「おいグリ、何でもかんでもそういうネタに持っていくな」
「無理にとは言わな……」
「いやいやいや、大丈夫! ヴェル王子のベッドの代わりになってやるから必要なら言ってくれ」
「……? ああ、頼む」
俺はそんなに変な事を言っているんだろうか? 孤児院ではそうやって寝ていたならそれほど変なことでもないのだろう。
最近は親しいものとしか接していなかったせいかグリムラフが何かを危惧しているのは判るが、いまいち内容を把握できない。
ぱちん、とたき火の薪がはじける音。それと一緒になにか、鈴の音が聞こえた気がした。
「!!!! グリ、今の音って…」
「んー、だね。とりあえずオレが偵察してくる」
「頼んだ。ヴェル王子、ホルフとエールックを起こしてくれ」
二人の行動は早かった。グリムラフは腰ベルトのいくつかの武具を確認すると森の中に消えていく。レーヴンはたき火を消し、荷物を片付け始める。
何が起きたのかわからなかったが、俺は言われた通りにエールックとホルフを起こした。
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