8 / 55
本編
(8)獣人狩り・2
しおりを挟む
「何が起きている?」
「わからないけどグリの罠に何かかかった」
「魔族ですか?」
「判らないとはなんだ。ヴェルヘレック様にもしもがあったらどうす」
「エールック黙れ」
俺たちも荷物をまとめ、武器をいつでも使えるように身に着け、グリムラフの帰りを待つ。
数分もしない間にグリムラフは俺たちの元に戻って来た。
グリムラフの仕掛けた罠はそのそばを通ると、手元にある鈴が鳴るというものらしい。遺跡で発見した魔道具なんだそうだ。
「魔族じゃなかったよ。ていうかあれは密輸商品の運搬屋じゃないかな」
「密輸商品? 毒草とかか?」
確かいくつか魔族の国から持ち出しが禁止されている植物などがあったはずだ。魔族の王の支配地では無力だが国外に出てしまうと繁殖し、あまつさえ人を食べるほどに成長するモノなどもあるという。
「うーん、植物とかじゃなくて人身売買だと思うけど」
「獣人狩りか」
「たぶんね、王子様もその位は知ってるんだ、もっと世間知らずかと思ってたよ。で、どうするレーヴン?」
グリムラフは俺の問いかけに答えると、レーヴンに判断を委ねる。
雇い主は俺のはずだが、この場合は仕方ない。経験の多い者が判断した方がいいに決まっている。
「人数は?」
「見えるところだと四人。布袋は二つ動いてたよ」
「こちらのことは?」
「気付いてないと思う、オレの仕掛けは完璧だしね。こっちにも向かってきてないから、明日の進行方向さえ気をつければ出くわすこともなさそう」
「それなら出会わないように進行すればいいだろう。何もわざわざヴェルヘレック様を危険な目に会わせることはない」
グリムラフとレーヴンの会話にエールックが不機嫌そうに参加する。
「……そうだな。ここは気付かれないように」
「まってくれ。その者達はキルクハルグの者達なのか?」
「どこの国のヒトかは判らないけど、この位置ならキルクハルグに運ぶんだと思うよ」
「なら、止めに行こう」
俺の言葉に全員が俺を見る。
「獣人狩り」とは魔族の、特に動物的な特徴を容姿に持つ子どもを商品としてやりとりする人身売買だ。
キルクハルグは奴隷制度がないので人身売買自体も重罪だが、悲しいことに大金を動かせる立場の者達は嗜好品として獣人を囲っているという。そしてそれを商売として大金を得ている者もいる。
魔族というだけで何をしてもいいと思っているヒトも多いのが現実だ。だが俺はキルクハルグの王族として、魔族である竜は俺たちに寄り添ってくださる種族であり、魔族とひとくくりにしてしまう事自体が愚かであると思っている。
子どもが誘拐されて、異国へ売られる。それを助けないで逃げるなんてことはしたくない。
「な、なにを言っているんですかヴェルヘレック様!」
「当たり前のことを言っている。止めに行くぞ」
「お待ちください、ヴェルヘレック王子。エールックさんも言ってますけど、回避できる危険に突っ込む必要ないんですよ」
「自分の保身のために、国民の過ちを見逃すなんて俺は出来ない。それにグリムラフは荷物が動いているといった。ならば生きているのだろう。助けたい」
「うえー、どんだけ無謀なのこの王子様」
「お前が余計な事をヴェルヘレック様の前で言うからっ!」
ホルフ達も反対のようだが、無謀、なんだろうか。
「俺の言っていることは無謀な事なのか?」
魔族の国に侵入しているような者たちだ。手練れではあるのだろうけど人数はこちらの方が多い。グリムラフの方が偵察スキルも上手のようだし、そう考えれば冒険者ギルドのランク的には相手はブロンズより低いんじゃないだろうか。
俺はレーヴンに振り返り問いかける。
瞳を伏せて何事か思案していたが、ゆっくり瞼を開くと俺を見る。
森の中の薄暗い闇の中でもレーヴンの緑の瞳は綺麗に輝き、にっと自信満々に笑った。
「いーや、無謀じゃない。グリ、ホルフ。やるぞ」
「えー、本気なのレーヴン」
「わかりました。もちろん僕たち三人では心もとないですから、ヴェルヘレック王子とエールックさんもお力を貸してくださいね」
「当たり前だ。貸すと言うか、俺がやると言った事だ。お前達だけには任せない」
「ヴェルヘレック様……どうか考え直しを」
エールックが俺の腕をつかみかけては手を引き、オロオロする様子にため息をつく。
「エールック。すまないがお前の力も借りたい。どうか力を貸してほしい」
「っ!!! はい! 勿論です!!!」
まっすぐエールックを見て言えば、あっさりと承諾してくれた。最初から力を貸してくれればいいのに、と思ってしまうのは余りにも俺の勝手が過ぎるな。
俺はこの行動が、どの程度の危険性があるのか判りもせずに皆を巻き込んでいる。
王宮騎士であれば王子である俺の言葉を却下する事は難しいだろう。だがレーヴン達冒険者ならそういうしがらみはない。
無理なら、無謀ならそう言ってくれるはずだ。
冒険者とは自分たちの命を大事にすると聞いている。主君の為に命を投げ出す騎士とは信念が違う。
冒険者であるレーヴンが俺の言葉を無謀ではないと言ってくれた。だから俺はその判断を信じることができる。
その後、グリムラフが偵察に行った場所へ向かったが、そこにはもう誰も居なかった。続けて周囲の偵察を行い、そこから少し離れた川沿いを歩く一団に追いつく。
俺たちは打ち合わせ通り、陣形を組んで彼らに気付かれないよう近寄ることにした。
「わからないけどグリの罠に何かかかった」
「魔族ですか?」
「判らないとはなんだ。ヴェルヘレック様にもしもがあったらどうす」
「エールック黙れ」
俺たちも荷物をまとめ、武器をいつでも使えるように身に着け、グリムラフの帰りを待つ。
数分もしない間にグリムラフは俺たちの元に戻って来た。
グリムラフの仕掛けた罠はそのそばを通ると、手元にある鈴が鳴るというものらしい。遺跡で発見した魔道具なんだそうだ。
「魔族じゃなかったよ。ていうかあれは密輸商品の運搬屋じゃないかな」
「密輸商品? 毒草とかか?」
確かいくつか魔族の国から持ち出しが禁止されている植物などがあったはずだ。魔族の王の支配地では無力だが国外に出てしまうと繁殖し、あまつさえ人を食べるほどに成長するモノなどもあるという。
「うーん、植物とかじゃなくて人身売買だと思うけど」
「獣人狩りか」
「たぶんね、王子様もその位は知ってるんだ、もっと世間知らずかと思ってたよ。で、どうするレーヴン?」
グリムラフは俺の問いかけに答えると、レーヴンに判断を委ねる。
雇い主は俺のはずだが、この場合は仕方ない。経験の多い者が判断した方がいいに決まっている。
「人数は?」
「見えるところだと四人。布袋は二つ動いてたよ」
「こちらのことは?」
「気付いてないと思う、オレの仕掛けは完璧だしね。こっちにも向かってきてないから、明日の進行方向さえ気をつければ出くわすこともなさそう」
「それなら出会わないように進行すればいいだろう。何もわざわざヴェルヘレック様を危険な目に会わせることはない」
グリムラフとレーヴンの会話にエールックが不機嫌そうに参加する。
「……そうだな。ここは気付かれないように」
「まってくれ。その者達はキルクハルグの者達なのか?」
「どこの国のヒトかは判らないけど、この位置ならキルクハルグに運ぶんだと思うよ」
「なら、止めに行こう」
俺の言葉に全員が俺を見る。
「獣人狩り」とは魔族の、特に動物的な特徴を容姿に持つ子どもを商品としてやりとりする人身売買だ。
キルクハルグは奴隷制度がないので人身売買自体も重罪だが、悲しいことに大金を動かせる立場の者達は嗜好品として獣人を囲っているという。そしてそれを商売として大金を得ている者もいる。
魔族というだけで何をしてもいいと思っているヒトも多いのが現実だ。だが俺はキルクハルグの王族として、魔族である竜は俺たちに寄り添ってくださる種族であり、魔族とひとくくりにしてしまう事自体が愚かであると思っている。
子どもが誘拐されて、異国へ売られる。それを助けないで逃げるなんてことはしたくない。
「な、なにを言っているんですかヴェルヘレック様!」
「当たり前のことを言っている。止めに行くぞ」
「お待ちください、ヴェルヘレック王子。エールックさんも言ってますけど、回避できる危険に突っ込む必要ないんですよ」
「自分の保身のために、国民の過ちを見逃すなんて俺は出来ない。それにグリムラフは荷物が動いているといった。ならば生きているのだろう。助けたい」
「うえー、どんだけ無謀なのこの王子様」
「お前が余計な事をヴェルヘレック様の前で言うからっ!」
ホルフ達も反対のようだが、無謀、なんだろうか。
「俺の言っていることは無謀な事なのか?」
魔族の国に侵入しているような者たちだ。手練れではあるのだろうけど人数はこちらの方が多い。グリムラフの方が偵察スキルも上手のようだし、そう考えれば冒険者ギルドのランク的には相手はブロンズより低いんじゃないだろうか。
俺はレーヴンに振り返り問いかける。
瞳を伏せて何事か思案していたが、ゆっくり瞼を開くと俺を見る。
森の中の薄暗い闇の中でもレーヴンの緑の瞳は綺麗に輝き、にっと自信満々に笑った。
「いーや、無謀じゃない。グリ、ホルフ。やるぞ」
「えー、本気なのレーヴン」
「わかりました。もちろん僕たち三人では心もとないですから、ヴェルヘレック王子とエールックさんもお力を貸してくださいね」
「当たり前だ。貸すと言うか、俺がやると言った事だ。お前達だけには任せない」
「ヴェルヘレック様……どうか考え直しを」
エールックが俺の腕をつかみかけては手を引き、オロオロする様子にため息をつく。
「エールック。すまないがお前の力も借りたい。どうか力を貸してほしい」
「っ!!! はい! 勿論です!!!」
まっすぐエールックを見て言えば、あっさりと承諾してくれた。最初から力を貸してくれればいいのに、と思ってしまうのは余りにも俺の勝手が過ぎるな。
俺はこの行動が、どの程度の危険性があるのか判りもせずに皆を巻き込んでいる。
王宮騎士であれば王子である俺の言葉を却下する事は難しいだろう。だがレーヴン達冒険者ならそういうしがらみはない。
無理なら、無謀ならそう言ってくれるはずだ。
冒険者とは自分たちの命を大事にすると聞いている。主君の為に命を投げ出す騎士とは信念が違う。
冒険者であるレーヴンが俺の言葉を無謀ではないと言ってくれた。だから俺はその判断を信じることができる。
その後、グリムラフが偵察に行った場所へ向かったが、そこにはもう誰も居なかった。続けて周囲の偵察を行い、そこから少し離れた川沿いを歩く一団に追いつく。
俺たちは打ち合わせ通り、陣形を組んで彼らに気付かれないよう近寄ることにした。
11
あなたにおすすめの小説
クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました
岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。
そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……?
「僕、犬を飼うのが夢だったんです」
『俺はおまえのペットではないからな?』
「だから今すごく嬉しいです」
『話聞いてるか? ペットではないからな?』
果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。
※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。
異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった
カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。
ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。
俺、いつ死んだの?!
死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。
男なのに悪役令嬢ってどういうこと?
乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。
ゆっくり更新していく予定です。
設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?
キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。
目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。
そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。
どうして僕はこんな所に居るんだろう。
それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか……
コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。
【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】
反応いただけるととても喜びます!
匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(^^)
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる