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本編
(13)魔族の子
しおりを挟む俺を追いかけて、助けてくれたのはレーヴンとグリムラフだった。
ホルフとエールックは最初に仕掛けた川原で待機していた。
正確にはエールックは戦闘中に昏倒してしまい、ホルフがエールックと助けた子どもを保護しつつ、密輸団を拘束していた。
助け出した袋の中にはやはり子どもが入っていた。
俺が追いかけた袋には、人熊族と呼ばれる熊のような耳が頭上にある少女が押し込められていた。名前はサロ、歳は12歳。服は身ぐるみはがされていたからグリムラフが上着を貸した。
俺と髭面の男たちとのやりとりを袋の中で聞いていたらしい。自分こそ怖かっただろうに、俺のことを心配しており、無事だと知れば安堵して涙ぐむ優しい少女だ。
もう一人は髪が緑とも靑ともつかない不思議な色に反射する少年だった。紫色の瞳がキラキラしていて、精巧につくられた人形のようで、こちらも何も身に着けていなかったので俺の服を与えた。体の大きさはサロと同じ位の年齢に思えたが、サロが言うには妖精族の生まれたばかりの子どもだろうとのこと。
サロは俺たちと同じ言葉を使うので意志の疎通が可能だったが、妖精族の子はホルフを同族だとおもったのかべったりくっつくだけで何も話さなかった。
子ども達だけで自分たちの家に帰れとも言えず、さらに妖精族の子どもについてはなんの手がかりもない。竜の渓谷に行くには回り道になるが、家族の元に届けるためサロの住む村に向かう事にした。
当然エールックは反対したが「俺の決定に従えないなら帰れ」と言ったところ、しぶしぶ後をついてきている。
「人殺しの中にヴェルヘレック様をおひとり残すわけにはいきません!」
俺はあの後、レーヴンに抱えられて川原に戻っただけで、俺を襲った二人の最期を確認していない。
男二人は仕留めた、とのレーヴンの報告を受けただけだ。
人殺し、という単語をわざと強調するようにエールックは口にするが、キルクハルグの法にのっとれば密輸の一団は死罪と同等の刑を下されただろう。人身売買でも重罪だが俺にも手を出したのだ。首の一つや二つ差し出して貰わなければならない。
だからレーヴン達の対応は、俺やサロの救出を考えればひどく妥当だ。もし王宮騎士であっても同じ対応をしただろう。
川原で交戦した三人は全員傷を負わせて無力化の上、拘束していた。本来は彼ら三人も連れてきて、アエテルヌムの者に差し出すべきなのかもしれないが、子どもが二人加わり俺の傷の治りも良くなかったため、密輸団の三人はその場に放置した。
武器や道具を全て取り上げ、縛りあげて放置すべきだと主張したエールックに対して、レーヴンは拘束せず、最低限の武器は与えたうえで放置する事を提案してきた。
エールックは俺たちへ報復してくるかもしれないから安全策をとるべきと主張し、それもそうかと俺は納得しかけたが、レーヴンは拘束し武器もない状態で、ヒトを食う魔族が迫ったら食い殺されるだけだ、そんな処刑の仕方は人道に反すると言った。
食い殺される。
そんな事を俺は想像もしていなかった。
幸いにも俺たちの旅ではヒトを食う人食鬼、と呼ばれる魔族にはほぼ出くわさなかった。
そう、まったく出くわさなかったわけじゃない。出会ってもレーヴン、ホルフの二人で対応できる数だっただけだ。俺は交戦しなかったので印象があまりなかった。
それに、食い殺されると聞いた時、あの髭面の男の死んだ顔が目の前に現れた気がして、俺は息を詰めてしまった。
もちろん、アイツは食い殺されたわけじゃない。そんな事は判っている。
二人の話を聞いて俺は、レーヴンの提案を採用することにした。
「うわー、嫌味な言い方だなー」
「……ま、事実だから仕方ない」
「でもあいつぶっ倒れてたからなんもしてなかっただけじゃん、それをさー」
「グリ、いちいち言い返すな。ヴェル王子、足は平気か?」
グリムラフたちのやり取りをぼんやりと聞いてはいたが、レーヴンに声をかけられて意識を戻す。
「ああ、大丈夫だ。……いや、少し痛むかもしれない」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
罠にはまった右足は、治癒魔法で歩行に問題ないくらいには治した。なのになぜかまだピリピリと痛む。
そんな俺の返事に隣を歩いていたサロが心配げな顔を向ける。
ちょうど妹のダフィネと年齢も髪の色も同じだからか、サロに声をかけて貰えるのは嬉しい。
俺はサロを安心させようと微笑む。
「大丈夫だ。心配をかけてすまない。……サロ?」
俺がサロに答えると、サロの顔がだんだん赤く染まっていく。
「ううん、なんでもない! もうすぐ村だよ! わたし先に行ってみんなに話してくる」
サロはそういうと俺から逃げるように駆けて行ってしまった。
「獣人の分際で、ヴェルヘレック様になんという失礼をするんだ!!」
「エールック、子どものする事にいちいち声を荒げるな」
逃げ去られてしまって少し悲しいが、別に無礼だとは思っていない。
「王子様は罪作りだねー」
「俺は何かサロにしてしまったのか?」
「いえいえ、グリの言う事は気にしないで大丈夫ですよ。それよりも、何事もなく僕たちを迎え入れてくれるといいですけど」
俺の傍に寄って来ればグリムラフが楽しそうに笑い見上げてくる。その様子に苦笑しながらホルフが声をかけてきた。
なんだか、不穏な事を言われた気がするが、サロがきちんと村人に説明してくれると信じるしかなかった。
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