偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

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本編

(24)竜の渓谷・3

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 滝の真下ではなかったし落ちた場所も水深があり、川遊びで飛び込める程度の高さだ。
 水面に落ちた時は多少痛かったが、俺もグリムラフも岸に無事にたどり着いた。咳き込みつつ、どうにか水から這い上がる。
 滝を見上げれば100メートル……それ以上の高さがあるだろうか。あそこから何の手立てもなく、水に叩きつけられたかもしれないと思うと寒気がした。
 
 岸で待っていたロアが近寄ってくると、まずグリムラフに抱き付いた。その光景が珍しく、思わず見守る。ロアは俺かホルフの傍に居るので、他の人に抱き付く姿を俺は見たことがなかった。

「どう?」
「へいき」
「そっか、ありがと」

 短い会話をすれば、グリムラフがロアの頭をなでる。ロアはそれが終わると立ち上がり俺の傍にくればぎゅっと抱き付いてきた。

「ありがとね王子様。さっきの羽根とーっても似合ってたからちゃんと使えるようになるといいねー。しっかし、あー! もう! ほんと最悪!」

 グリムラフは俺に礼を言うと軽く頭をさげてから立ち上り、上着を脱ぎ水を絞ったり、ブーツの水を捨てたりしながら悪態をついた。

「ほら王子様も風邪ひくから、出来る限り服の水絞って!」
「ああ。……そのグリムラフ、ロアと喧嘩とか、してたのか?」

 俺も立ち上がりグリムラフに言われた通りに上着を脱げば水を絞る。そんな俺たちを真似てロアも自分の濡れている服を絞りはじめた。

「え? してないよ? あー、ああ、そうだね、ロアがオレを川に突き落としたもんね」
「やっぱり、そうなのか……?」

 ロアに視線をむければ、きょとんとした顔で俺を見返してくる。

「王子様、ちがうちがう! ロアはオレを助けてくれたの。あのあとすぐにキモチワルイ虫出てこなかった?」
「……出て来た」
「でしょ、あれの幼虫をオレが踏みつぶしたんだよね。あいつら死んだ仲間の匂いに集まるんだ。だからロアがオレを川に突き落としたの。水で匂いが洗い流れるようにね。水ん中だとヒト族は息できないって気付いてなかったみたいで途中やばかったけど」

 グリムラフは明るく言っているが、それ結構危険だったのではないか。ロアには魔法のこと以外も教えないといけない事が多いのかもしれない。

「そうか、ロアはグリムラフを助けたのか。偉いな」

 俺が言えば、ロアは嬉しそうに微笑んで俺の腰にぎゅっと抱き付いてきた。その頭を撫でるとさらにぎゅうぎゅうと抱き付いてくる。子どもが好きだと言うホルフの気持ちが判った気がした。
 こんな可愛いロアに剣を向ける可能性も考えていたので、そうでないと判ってほっと息を吐く。

 安心すれば今度はレーヴン達の様子が気になった。俺にグリムラフ達の方へ行くよう指示したからには、あちらは三人で対処できるんだろうと思うが。

「グリムラフ、その……あのヌメッとした虫は強いのか? 凄く大きかったが」
「んー、そこまでじゃないかな。ブロンズのランク昇級試験で討伐対象になる程度だから」
「つまりブロンズだと倒せる、と?」
「そだね。規定だと五人以下で討伐だから一人でって事じゃないけど、ホルフだけでもなんとかはなるよ。誰かを守って戦うとか制約がなければ」

 その言葉に先ほどの状況を思い出し、思わず膝をついてしまった。

「え? 王子様大丈夫??」
「大丈夫だ……ちょっと自分の足の引っ張り具合を思い出して反省しているだけだ」

 さっきレーヴンに抱きかかえられ、ホルフに守護魔法を使ってもらって、俺は今無傷なのだ。当たり前だが訓練ではない以上、開始の号令があるわけがない。
 敵が目の前に出現した時、俺はただそれをぼう然と見上げていただけだった。

「王子様、戦闘向いて無さそうだもんね。でもオレを助けてくれたし、さすがに今回は勝手に追いかけてきてない、よね?」

 膝をついている俺を見下ろすように、グリムラフが意地悪い笑顔を浮かべている。

「レーヴンに追うように頼まれた」
「なら問題ないって。体力のないホルフじゃ川を泳げないし、魔法つかわないレーヴンじゃ空飛べないし、エールックはオレ見捨てるだろうし、王子様きてくれて大正解だよ」

 そういうとグリムラフもしゃがんで俺よりも視線が下になる。

「エールックはそんな薄情な男じゃない。魔法はあまり得意じゃなかったはずだから……空は飛べないけど」
「エールックの事信じてるんだね」
「? ああ。そうでなければ同行させない」
「そっかそっかー。うん。じゃあこれ、助けてくれたお礼にあげるね」

 俺は思わずグリムラフに言い返す。俺の様子にグリムラフは意地悪い笑顔を浮かべたまま頷いたかと思うと、自分のベルトポーチから何か出し俺に差し出した。

「? 指輪?」

 差し出された手から受け取ったのは銀細工だろうか、緑の小さな石がついたシンプルな指輪だった。

「そ、仕込み指輪。この石から毒針が出るから」
「……は?」
「何かあった時はこの石が内側に来るようにして、相手のちんこ力いっぱい握れば大丈夫だよ!」

 毒針? 相手の、なにを? 力いっぱい握れ……と??

 色々言われていることが理解できずに思わずグリムラフと指輪を交互に見る。
 そんな俺が面白かったのか、グリムラフは耐え切れなくなったのだろう吹きだして笑い出した。

 俺達の様子が気になったのか、ロアも近寄ってきて俺の持つ指輪に触ろうとした。それに気づいたグリムラフがロアの手をさっきのお返しとばかりにぺちんと軽く叩く。

「子どもは危ないから触っちゃダメ」
「むー」

 そんな二人の可愛らしい様子に俺は思わず微笑んだ。
 それを見たグリムラフが大袈裟にため息をつく。

「はー、もうほんと王子様、その指輪ずっとつけてて。ほんと、危ない。まじやばい。レーヴンが音を上げた理由も判る」

 レーヴンが?
 聞き捨てならない事を言われた気がして、聞き返そうとしたその時。

「りゅー!」

 ロアが大きく叫ぶと空を指さした。
 そこは青空が広がっていたが、すぐに影が出来、太陽の光が何かに遮られる。

 何かではない。あれは。

「竜だ! わああ! 本物初めて見た!」

 俺も竜を初めて見た。

 天空から滝壺に降り立ってきた竜は翼を羽ばたかせる。風圧で水が舞い上がり、キラキラと光を反射した。
 体長30メートルくらいはあるだろうか.翼を広げたら倍以上のサイズだろう。
 白ともクリーム色ともつかない色の鱗に覆われ、瞳の色は淡い緑色。
 慈愛深そうな大きな瞳が俺達を見つめている。

「ルハルグ……様?」

 父上から聞いていた、キルクハルグの竜であるルハルグ様と特徴が一致する。
 俺は思わずお名前をつぶやいた。

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