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本編
(37)竜の加護者
しおりを挟むそれから三日後、ルハルグ様の仰ったとおり、竜の渓谷にセダー兄上がいらっしゃった。
アエテルヌムの国境までルハルグ様が迎えに行かれたので、到着が早いのだそうだ。確かにそれならキルクハルグ国内の移動日数だけでここまでたどり着けるだろう。
セダー兄上が来るとは聞いていたが、その横には黒髪の美しい方がいて、まさかマフノリア様までいらっしゃるとは思わなくて俺は自分の目を疑う。
「ヴェル!! 無事でよかった」
お二人を全員で出迎えていれば、マフノリア様が俺を見つけて走り寄り、抱きしめてきた。
「ああ、ヴェルが無事でよかった」
そしてセダー兄上……いや、セダー様もやって来れば、マフノリア様ごと俺を抱きしめる。
「マフノリア様、あの、御子は……?」
「もうとっくに産んだよ。可愛い女の子だから帰ったら遊んでやってね。ああ、ほんと良かった」
そういうと俺の髪に頬擦りしてくる。剣の稽古を始める前はよくやられたことだが、さすがに今されると恥ずかしい。
「わー、眼福な光景だね」
「ほ、本物のセダー王子とマフノリア隊長だ……絵姿通り、すごい……」
そんな俺の横でグリムラフとホルフが目を輝かせて見ている。
そうだな、このお二人は人気があるから、そうなってしまうのは凄く判る。ちなみにマフノリア様は王宮騎士第二部隊の隊長でもある。
「セダー王子、そろそろヴェルを解放してください」
「おい、レーヴン、なんで俺だけに言うんだよ」
「なんとなくです」
グリムラフ達の態度と全く違ったのがレーヴンだ。レーヴンは気圧されもせず、セダー兄上に言っている。
そういえば俺と初めて会った時もレーヴンは平気だったな、と懐かしくなり小さく声をこぼして笑ってしまった。
「!! セダー! ヴェルが、ヴェルが笑ったよ!!」
「なんだって??」
「え、あ……すみません、失礼を……」
笑ったことを指摘されて、慌てる。お二人の前で失礼だった。
「そんなことないよ、もっと笑って。ああ、とても久しぶりにヴェルの笑顔を見たよ、可愛い」
そしてマフノリア様にさらに抱きしめられる。なんだろうこれは。
俺は思わずレーヴンに視線を送る。
「お二人とも、とにかくヴェルから離れてください。ヴェルが窒息する!」
お二人に触れるのはさすがに憚られるのか、レーヴンは俺の肩を掴んでマフノリア様から引きはがしてくれた。
礼を述べようとレーヴンに視線を移せば、いつだかおかずをグリムラフに取られた時のような、むすっとした子どもっぽい顔があった。
兄上達への態度も、一緒に育ったグリムラフ達と変わらない。その豪胆さを頼もしいとも思ったが、目上の方への対応は学んでもらわないといけないな。
「あはは、さすがにそこまでヴェルはか弱くないぞレーヴン。さて、と。とりあえずヴェルヘレック、レーヴン、話を聞かせてもらおうか。他の者は席をはずしてくれ、ああ、マフノリアは同席してほしい。エールックの話もしたいからな」
「はい、セダー様」
俺が返事をすると、セダー兄上……はどこか寂しそうに微笑まれた。
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