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本編
(38)決意
しおりを挟むルハルグ様にお借りしている家の中に入れば、一階のテーブル席にセダー兄上、マフノリア様が座り、その正面に俺とレーヴンが座った。
「まず、ヴェルヘレックが無事でよかった。レーヴン、務めご苦労だった」
「ありがとうございます。でも、ヴェルを無傷で守り切ることはできませんでしたので、報酬は半分で結構です」
席に着けば会話を切り出したセダー兄上の言葉に俺は瞬く、がそれに対するレーヴンの回答に首を傾げた。
この二人は知り合いだったのか? そういえばレーヴンが兄上を知っているのは判るとして、兄上が自然にレーヴンと彼の名前を呼ぶのは、知り合いでなければありえない。
「なんだ、自分が王子になったら急に値引いてくれるのか、太っ腹だな」
「そういう事じゃないですよ。嫌味な言い方しないでください」
「あ……の?」
二人の会話に入るのはどうかと思ったが、俺の口から知らず言葉がこぼれていた。
「……黙っていて悪い。ヴェルからの依頼も受けてはいるが、俺の本来の雇い主はセダー王子なんだ。ヴェルの旅に同行して、その身を守るよう依頼を受けていた」
「可愛いヴェルに何かあったら困るからな。信頼できる者をお前につけた。当たり前だろう」
「え、いや、お待ちください。だってレーヴンは冒険者で……」
孤児で、赤毛で、俺は結構条件を絞ったはずだ。
兄上が審査できるような、王宮管轄の者ではない。
「ラヴァインからヴェルが条件をつけて冒険者を探しているのは聞いていた。いま思えばレーヴンを……ユアーナ様の御子を探してたんだな」
「残念だったね、セダー」
「うん、本当に残念だ。てっきり俺に似た男を探してくれてるんだと思ったのに」
最近俺は、人の話を理解できない様になってしまったんだろうか。
「あの、兄……セダー様に似た男を? 探す、とは?」
「ふふ、ヴェルがオロオロしちゃってる、可愛い。今はヴェルが変わってしまったのは出生を知ったからだろうって判るけど、ヴェルが無表情になって人を寄せ付けなくなったのは、セダーに失恋したからだって噂があったんだよ」
「セダー…様に失恋? 俺が、ですか?」
どうしてそんな事に? と思ったが、そういえば母上に告白された時期は、お二人の結婚の時期と同じだった。だからそんな噂になってしまったのか。
「やっぱり、違うのか」
セダー兄上が真顔で聞いてくる。確かに兄上のことは尊敬しているが。
「恋愛感情はありません。違います」
俺がきっぱり言い切ると、セダー兄上の肩を慰めるようにマフノリア様が叩いている。笑いながらだけど。
俺はこのお二人の仲睦まじい姿を見るのが大好きだ。だからその間に入ろうとなど、一度も思ったことがない。
「よし、話を戻そう。で、ヴェルが探していた条件に、たまたま信頼できる冒険者がいた、それがレーヴンだ。もともとラヴァインが他国で一緒に組んでいた仲間だ」
「ラヴァインあに……様と? レーヴンが?」
「故郷が同じだと意思疎通がしやすいこともあるから、なんとなく同国民が集まるんだ。だからラヴァイン王子とも自然と組むようになって知り合った。まさか王子だとは思ってなかったけどな」
「ラヴァインがレーヴンとは妙に気が合うと言ってたぞ。本当の兄弟だと知ったら驚くだろうな」
「そうなんですね。ふふ、ラヴァイン様もレーヴンが弟と知って喜んでくれるなら嬉しいです」
きっと気が合うだろうと思ったけど、既に合っていたのか。よかった。
「本当だ! ヴェルが笑っている……!」
「え、あ、すみません」
「だから謝らなくていいんだって、可愛いから昔みたいにニコニコしていて」
セダー兄上に言われて自分が微笑んでいることに気付いた。それにマフノリア様こそ絶世の微笑みを浮かべて笑うように言ってくださる。
ああそうか、そういえば最近は無表情を心がけていたから、俺は冷血王子とか呼ばれていたんだった。自然と頬が緩むのは久しぶりすぎて、表情を上手く制御できない。
だけど俺は表情を引き締めて、兄上達に向き直った。
「セダー様。あの、レーヴンが本当の第四王子だということはルハルグ様からお伝えいただいているかと思います。加護については俺を助けるために、受けました。父上にご相談もなく申し訳ありません。すべての罪は俺にあります」
俺は楽し気に笑うお二人から、視線を外して告げれば頭を下げた。
「ああ、その辺も父上から伺っている。レーヴンが竜の加護を受けたことは問題ない。父上から頼まれたのはレーヴンとヴェルヘレックをどのようにキルクハルグへ迎え入れるかってことと、エールックの処遇についてだ」
「レーヴンを王子として迎え入れてくださらないのですか?」
「父上は本人の希望を優先するとは言っていたが、レーヴンが王子になるとヴェル、お前の身分がなくなってしまう」
この後に及んで、俺のことを考えてくださっているんだろうか。俺は顔を上げてセダー兄上を見る。
やはり兄上達の中でレーヴンはセダー兄上に一番似ている気がする。あと10年もすればレーヴンから子どもっぽさも抜けて、セダー兄上のようになるのだろうか。そうしたら今よりももっとかっこよくなるはずだ。
大事な話し合い中だと言うのに、そんなことを考えてしまう自分に苦笑したくなる。
叶うなら10年後のレーヴンも見たかった。
「俺は父上達を欺き、16年もの間、王宮で王子として生きていました。エールックのことも裏切り、ルハルグ様の手を煩わせ、本来の王子であるレーヴンのことも危険に晒したのです。俺の立場などお気にかけていただく必要はありません」
「ヴェルへレック、嫌な言い方をするが、我々の決定に意見する事は認めない。今のお前には拒否権も決定権もないんだ」
今までどこか和やかな雰囲気だったが、兄上のその一言で俺の心が冷たくなる。
当たり前だ。俺はもう王族ではない。俺の意見を兄上達が聞く必要はないのだ。
「セダー王子。俺は……第四王子として王宮に行こうと思います。俺が何かを頼める立場かどうか判らないんですけど、少なくともキルクハルグ王は俺の意志を尊重してくださるようなので、ここぞとばかりに我儘を言ってもいいですか?」
静まった場の空気を破るように、レーヴンがセダー兄上をしっかりと見つめ、言った。
その横顔は決意が見て取れて、かっこいい。それに何より王子として王宮に行ってくれることが俺は嬉しかった。
母上も喜んでくれるだろう。
「我儘? まさか王座が欲しいとか、面白いことは言わないよな?」
兄上はそんなレーヴンを訝し気に見る。
「王の座なんて要りません。俺が欲しいのはヴェルヘレックです」
レーヴンは兄上を見つめたまま、そう、はっきりと言った。
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