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プロローグ

第2話 部長に呼び出しを受けたけどなに?

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健亮が異変に気付く1か月前
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「今から1か月、有給休暇を取れ。激務が続いている用だからゆっくり休んでいいぞ。午前中には引継ぎを終えるように」

 部長から呼び出しを受けた健亮が何事かと首を傾げなら会議室にやってくると、部長から無表情で席に座るように促され、そして唐突に有給休暇を取るように告げられた。

 あまりにも急な話に目を白黒ながら健亮が慌てて確認する。

「ちょっと待って下さい部長。急にそんな事を言われても……。それに引継ぎを午前中で終えるなんて出来ません」

「そうか。なら確認だが有給を取った最後の日を教えてくれ。あと、数か月の残業時間はどれくらいだ? 噂では業務を肩代わりしているそうだが、それを上司か俺に報告相談をしたか? 取引先からの無茶振りにも応えているそうだな。それは何社から受けている?」

 畳みかけるように質問された健亮は思わず口ごもってしまう。従来のお人好しが災いして社内だけでなく取引先からも仕事を押し付けられており、それを上司に全く報告していなかったのだ。

「残業時間になる前にタイムカードを押しただろう。なぜ、その状況になっているのに報告をしないんだ」

 健亮の業務量が異常であると、匿名電話を受けた部長が確認すると目を覆いたくなる状態でであった。

 誰彼構わず押し付けられた仕事を請け負っており、休日出勤は当り前。定時でタイムカードを押して見かけ上は帰ったように装い、終電ギリギリまで業務をしていたのである。もちろん、上司にも部長にも報告していなかった。

 部長から呼び出しを受け、健亮は自分の行動が大問題になっている事を理解する。絞り出すように言い訳をした健亮に、部長が長いため息を吐いた。

「い、いえ。部長に迷惑を掛けないようにと思いまして……」

「はぁ……。今回の件はお前個人ではなくなっているんだ。俺も含めて会社として対応をする必要がある。そして一番大問題なのは取引先の仕事をお前がしていた事だ。相手から給料でももらっているのか? そうじゃないだろう。こっちから発注している意味を考え……まあ、もう言っても仕方がないな。あとは俺と人事部や法務部で対処するから、お前は引継ぎの資料を作って俺に送ってくれ。ああそうだ。午後から人事部ヒアリングをがある。連絡があるまでは席に戻って引き継ぎ資料を作っておいてくれ。今の話は誰にもを言うなよ。誰かに聞かれたら『部長から有給を取るように言われた』とだけ伝えろ。いいな? 話は以上だ」

「はい、分かりました。ご迷惑をお掛けしました。失礼します」

 反論は許さないと言わんばかりの部長の態度と声に、健亮は頭を下げると会議室から出ていく。

 その後ろ姿を眺めていた部長は、再度大きなため息を吐くと内線電話を取り人事部に連絡を入れる。

「仕事は出来る奴なんだがな。お人よしにも限度がある。管理しきれなかった俺の責任だ。あとの尻拭いを始めるとするか。……ああ、もしもし。加藤健亮の件についてだが、担当者に代わってくれ」

 電話口に出た担当者に部長は話し始めるのだった。
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