急に異世界に飛ばされても困ります……あれ？ 困りませんね - 持っててよかった収縮拡張魔法 -

スキルの活用に気付く

第24話 早速依頼を始める

「ほらほらほらー。そんなところで遊んでいると巻き込んじゃうぞー」

「わー逃げろー」

　モップを持ったユーフェが子供達に向かって突撃する。そんなユーフェの攻撃に子供達は歓声を上げながら逃げ回っていた。最初は掃除をしていたユーフェを恐る恐る遠巻きに眺めていた子供達だったが、アンが真っ先に近付いて飛び掛かると女子達が我先にと群がる。

　そんなアンにユーフェはモップを渡して一緒に掃除する。頑張って掃除をするアンにアイテムボックスからお菓子を取り出し、ご褒美として与えると、他の女の子達も我先にと掃除を始めた。そんな様子に近づく事を躊躇っていた男子達も目を輝かせて掃除を始める。

　お菓子が欲しいと揉みくちゃにされていたユーフェだったが、子供達の心は掴んだようで一瞬で仲良くなっていた。

「注目！　このお部屋を綺麗にしたいと思います。頑張ってお手伝いをしてくれた子にはクッキー1枚プレゼント！」

「「「　わー。頑張るー　」」」

「えー。クッキー1枚だったら手伝わないぞ。5枚はくれよ。それか他のお菓子でもいいぞ」

「何言っているのよダン！お手伝いをしたらクッキーがもらえるだよ！」

「だからお前はダメなんだよ」

　ユーフェの提案に歓声を上げながらモップや雑巾、箒などを持って掃除を始める子供達の中、1人の男の子がニヤニヤと笑いながら手伝いを拒否してきた。

　周囲の子供達に注意されても気にする事なく、ユーフェにもっと寄越すように手を出しているダンの様子に、近くに居た女の子が注意するが、鼻で笑うとどこかに行こうとする。

「ふっふっふ。ダメなのはダン君だね。クッキーの大きさを確認しないなんて甘い！　甘すぎるね！」

「なんだよ。クッキーの大きさなんて、どれも一緒……。なっ！」

　ユーフェの言葉をつまらなそうに流そうとしたダンだったが、アイテムボックスから取り出されたクッキーの大きさに絶句する。ユーフェの顔ほどもあるクッキーである。あまりの大きさに騒々しかった子供達が一瞬で沈黙するほどであった。

「あれ？　なんでみんな黙っているの？」

　顔が隠れるほどのクッキーが目の前にあるため、子供達の反応を見れずに不思議に思ったユーフェがクッキーをアイテムボックスにシュウのして確認すると、驚愕を浮かべている子供達の顔があった。

「あれ？　クッキーの大きさにビックリした？　ひょっとしてやりすぎちゃった？」

　ユーフェが恐る恐る確認すると、固まったままでいた子供達は一斉に何度も頷くのだった。

◇□ ◇□ ◇□

　台所で大きなクッキーを砕いては子供達に渡しながらユーフェは反省をしていた。

「まさか、あんなにビックリされるなんて思わなかったなー。マグナアルカナでネタアイテムの消費が出来ると思っていたんだけど。まだ1000個はあるけど、アイテムボックスに封印決定かな。はいはい。順番に渡すからちゃんと並ぶんだよー」

　驚愕から再起動を果たした子供達は巨大クッキーがもらえると分かると、ダンを含めて全員が超やる気を出し部屋は見違えるほど綺麗になる。

　だが、施設が古いのか、装飾品が少ないのか、殺風景な状態にユーフェが色々と考え出す。

「うーん。なんか寂しいよねー。花瓶とか用意して花を飾ったら華やかになるかなー」

「そんなお金があるわけないじゃん」

　ユーフェの呟きが聞こえたのか、ダンが小馬鹿にしたような反応をする。それを聞いたユーフェはマリアを探しだした。

「マリアさーん。お部屋に色々と飾りたいんですけど、やってもいいですか？」

「え？　それは構いませんが、お金がなくて……」

「それだったら大丈夫ですよ！　私が勝手にしますから。許可だけ欲しいです」

　ユーフェの言葉にマリアは悩む。部屋が殺風景なのは分かっているが、そんな費用があるなら子供達にご飯をたくさん食べさせたいし、そもそもシスターが寄付集めに奔走しなくてもいい。

　そういった趣旨を伝えるとユーフェはアイテムボックスから銀貨を取り出した。

「じゃあ、これを寄付します。これでいいですかね？」

「え？　ちょっ！　こんなたくさん寄付したら大損しますよ。ユーフェさんはギルドに依頼した報酬を確認されていますか？」

　ジャラジャラと銀貨が入っている皮袋を受け取ったマリアが慌てる。それほど皮袋には銀貨が詰まっており、マリアの指摘はもっともであった。

「いいんですよ。私としては依頼を達成したとの実績が欲しいんですから。だから気にせずに子供達にはお腹いっぱい食べさせてあげてください。ね！」

　ユーフェの言葉にマリアはうっすら涙を浮かべながら何度も感謝を伝えるのだった。