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33話 一難去ってまた騒動
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「全員無事かい?」
「大丈夫だよ。マテウスさんも急いで駆けつけてくれてありがとうございます!」
森の安らぎ亭に入ったマテウスが食堂にいた三名に声を掛ける。その声に反応した三名だったが、三者三様の反応を見せた。笑顔で元気よく返事をしてきたディモ。苦笑を浮かべながら困った顔でマテウスを見ているリカルダ。そして、アメーリエは睨み付ける勢いで、無表情のままこちらを見ているのだった。
「そうか、全員無事なようでよかったよ。だが、机やテーブルが壊されているようだね。それについては補てんを……」
「要らない! そんな事をして欲しくない! 無事なのが分かったのなら早く帰って!」
「ど、どうしたというんだい? アンダース一家に襲われて怖かったのかい?」
「信じられない! 私達はマテウスさんが森の安らぎ亭をアンダース一家に襲わせたのを知ってるんだから!」
「な、なにを?」
会話を続けようと店の惨状を確認した上で、修復の話をするしようとするマテウスの言葉をアメーリエが勢い良くぶった切る。今まで見た事のないアメーリエの反応を悪漢に襲われたせいだと思い、戸惑いながらも心配そうに再び話しかけたマテウスだったが、それを断罪するような表情でアメーリエが吐き捨てた。
「アメーリエ! まずは話を聞くとディモ君と約束したでしょ! すいません。マテウスさん。ここに押し入ってきたアンダース一家が、アメーリエが森の安らぎ亭を継がないと思わせたら報酬を支払うと言ってきたもので。それを聞いた上での娘の表情だと思ってください。私はマテウスさんの事を信じていますが、本当の事をあなたの口からアメーリエに話してもらえませんか?」
「な、なんと……。そんな事をアンダース一家の者が言ったのか。なるほど。それなら彼女の態度も理解で来ますね。分かりました。全てを話して、どこまで信じてもらえるか分かりませんが話をしましょう」
リカルダの言葉にマテウスは納得すると大きなため息を吐いて頭を振り、疲れた表情になって椅子に座るとポツポツと話し始めた。
「私の兄である前領主が流行り病で死んだのが事の始まりだった。子がいなかった兄の代わりに私が後を継ぐ話になったが、私は街の経済を大きく動かしている商人。そんな簡単に領主の後を継ぐわけにはいかない。なので緊急処置として、二か月ほど時間をもらい仕事の引き継ぎを始めたのだよ」
「それが今回の話と何の関係があるのよ!」
語り始めたマテウスにアメーリエが吐き捨てるように言い放つ。その表情を見て、アメーリエの不信感が根深いと感じ、さらに話を続けた。
「まあ。最後まで聞いて欲しい。その引き継ぎの中で一番大変なのがよろず屋の譲渡だ。これは魔術師様との約束なのだ。『お前が使わなくなったら、我が血族に返却するように』と。それを守っているからこそ、よろず屋は反映していると思っている。話が逸れたね。他人には引き継げない。私は領主の仕事があるので無理だ。リカルダは結婚して森の安らぎ亭を切り盛りしている。そうなったらアメーリエに譲るしかない」
「だからアンダース一家に頼んだの?」
「するわけないだろう。リカルダから宿屋の経営が上手くいっていないと聞いて、援助しようとしたくらいだよ? ん? ああ! ひょっとして定期会合の時に『あとは、よろず屋の譲渡が残っているが、ギリギリまで交渉するつもりだよ。誰か代わりに交渉してくれないかね』と冗談混じりに言ったのを誰かから聞いたのか? なんたる事だ。私の軽々しい発言で皆に迷惑を掛けていたとは……」
「さっきから話を聞いてるけど、アメーリエさんがよろず屋のお店を継いだら解決でしょ? なんで継がないの?」
項垂れているマテウスを見ながらディモが気楽に話し掛ける。アメーリエにすれば今までかたくなに拒否をしてきた事を軽く言われ、思わずカチンとして言い返す。
「簡単に言わないで! 私は森の安らぎ亭を継ぎたいの!」
「だから、両方継げば良いじゃないの? それに今はお父さんがいるし、お母さんも元気じゃないか。宿を継げるのは随分と後になるよ? それなら、よろず屋で経営の勉強をしてからでも遅くないと思うけど?」
「そ、それはそうだけど……。でも、私はやっぱり宿屋を継ぎたいの」
「おい。アメーリエ。お前に宿屋を譲る気は無いぞ?」
「お父さん!」
ディモの話を聞いて悩み出したアメーリエだったが、やはりこだわりがあるのか首を振っていると玄関から野太い声が聞こえてきた。全員の視線が集中する中、アメーリエから『お父さん』と呼ばれた森の安らぎ亭の亭主である筋肉隆々な男性、ヘニングが入ってきた。
「このおっさんがアメーリエの父親って言うから、連れてきてやったよ」
「嘘吐けよ。『飽きた』と言ってただろ。あのアンダース一家に同情するとは思わなかったぞ」
「姉ちゃん! 悪い奴がやって来たんだろ! 俺がやっつけてやる!」
「ハンス!」
ヘニングの背後からディモと同じくらいの大きさの男の子が飛び出してきてアメーリエに飛びついた。抱きしめ返したアメーリエの顔はユルユルになっており、ハンスに頬ずりしながら話し掛ける。
「ありがとう! ハンス! 姉ちゃんは大丈夫だよ! それよりも身体は大丈夫なの? 風邪引いたばかりでしょ?」
「大丈夫だよ! もう調子は良いよ。だからお父さんにお願いして連れてきて貰ったんだ。もう治ったと思うからお店手伝うよ!」
腕まくりをして張り切っているハンスを大事そうに抱きしめながら、愛しの弟の話を聞くアメーリエだった。
「大丈夫だよ。マテウスさんも急いで駆けつけてくれてありがとうございます!」
森の安らぎ亭に入ったマテウスが食堂にいた三名に声を掛ける。その声に反応した三名だったが、三者三様の反応を見せた。笑顔で元気よく返事をしてきたディモ。苦笑を浮かべながら困った顔でマテウスを見ているリカルダ。そして、アメーリエは睨み付ける勢いで、無表情のままこちらを見ているのだった。
「そうか、全員無事なようでよかったよ。だが、机やテーブルが壊されているようだね。それについては補てんを……」
「要らない! そんな事をして欲しくない! 無事なのが分かったのなら早く帰って!」
「ど、どうしたというんだい? アンダース一家に襲われて怖かったのかい?」
「信じられない! 私達はマテウスさんが森の安らぎ亭をアンダース一家に襲わせたのを知ってるんだから!」
「な、なにを?」
会話を続けようと店の惨状を確認した上で、修復の話をするしようとするマテウスの言葉をアメーリエが勢い良くぶった切る。今まで見た事のないアメーリエの反応を悪漢に襲われたせいだと思い、戸惑いながらも心配そうに再び話しかけたマテウスだったが、それを断罪するような表情でアメーリエが吐き捨てた。
「アメーリエ! まずは話を聞くとディモ君と約束したでしょ! すいません。マテウスさん。ここに押し入ってきたアンダース一家が、アメーリエが森の安らぎ亭を継がないと思わせたら報酬を支払うと言ってきたもので。それを聞いた上での娘の表情だと思ってください。私はマテウスさんの事を信じていますが、本当の事をあなたの口からアメーリエに話してもらえませんか?」
「な、なんと……。そんな事をアンダース一家の者が言ったのか。なるほど。それなら彼女の態度も理解で来ますね。分かりました。全てを話して、どこまで信じてもらえるか分かりませんが話をしましょう」
リカルダの言葉にマテウスは納得すると大きなため息を吐いて頭を振り、疲れた表情になって椅子に座るとポツポツと話し始めた。
「私の兄である前領主が流行り病で死んだのが事の始まりだった。子がいなかった兄の代わりに私が後を継ぐ話になったが、私は街の経済を大きく動かしている商人。そんな簡単に領主の後を継ぐわけにはいかない。なので緊急処置として、二か月ほど時間をもらい仕事の引き継ぎを始めたのだよ」
「それが今回の話と何の関係があるのよ!」
語り始めたマテウスにアメーリエが吐き捨てるように言い放つ。その表情を見て、アメーリエの不信感が根深いと感じ、さらに話を続けた。
「まあ。最後まで聞いて欲しい。その引き継ぎの中で一番大変なのがよろず屋の譲渡だ。これは魔術師様との約束なのだ。『お前が使わなくなったら、我が血族に返却するように』と。それを守っているからこそ、よろず屋は反映していると思っている。話が逸れたね。他人には引き継げない。私は領主の仕事があるので無理だ。リカルダは結婚して森の安らぎ亭を切り盛りしている。そうなったらアメーリエに譲るしかない」
「だからアンダース一家に頼んだの?」
「するわけないだろう。リカルダから宿屋の経営が上手くいっていないと聞いて、援助しようとしたくらいだよ? ん? ああ! ひょっとして定期会合の時に『あとは、よろず屋の譲渡が残っているが、ギリギリまで交渉するつもりだよ。誰か代わりに交渉してくれないかね』と冗談混じりに言ったのを誰かから聞いたのか? なんたる事だ。私の軽々しい発言で皆に迷惑を掛けていたとは……」
「さっきから話を聞いてるけど、アメーリエさんがよろず屋のお店を継いだら解決でしょ? なんで継がないの?」
項垂れているマテウスを見ながらディモが気楽に話し掛ける。アメーリエにすれば今までかたくなに拒否をしてきた事を軽く言われ、思わずカチンとして言い返す。
「簡単に言わないで! 私は森の安らぎ亭を継ぎたいの!」
「だから、両方継げば良いじゃないの? それに今はお父さんがいるし、お母さんも元気じゃないか。宿を継げるのは随分と後になるよ? それなら、よろず屋で経営の勉強をしてからでも遅くないと思うけど?」
「そ、それはそうだけど……。でも、私はやっぱり宿屋を継ぎたいの」
「おい。アメーリエ。お前に宿屋を譲る気は無いぞ?」
「お父さん!」
ディモの話を聞いて悩み出したアメーリエだったが、やはりこだわりがあるのか首を振っていると玄関から野太い声が聞こえてきた。全員の視線が集中する中、アメーリエから『お父さん』と呼ばれた森の安らぎ亭の亭主である筋肉隆々な男性、ヘニングが入ってきた。
「このおっさんがアメーリエの父親って言うから、連れてきてやったよ」
「嘘吐けよ。『飽きた』と言ってただろ。あのアンダース一家に同情するとは思わなかったぞ」
「姉ちゃん! 悪い奴がやって来たんだろ! 俺がやっつけてやる!」
「ハンス!」
ヘニングの背後からディモと同じくらいの大きさの男の子が飛び出してきてアメーリエに飛びついた。抱きしめ返したアメーリエの顔はユルユルになっており、ハンスに頬ずりしながら話し掛ける。
「ありがとう! ハンス! 姉ちゃんは大丈夫だよ! それよりも身体は大丈夫なの? 風邪引いたばかりでしょ?」
「大丈夫だよ! もう調子は良いよ。だからお父さんにお願いして連れてきて貰ったんだ。もう治ったと思うからお店手伝うよ!」
腕まくりをして張り切っているハンスを大事そうに抱きしめながら、愛しの弟の話を聞くアメーリエだった。
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