私、どのゲームの悪役令嬢なの?

うっちー(羽智 遊紀)

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プロローグ

希は存分に説明をする

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「ちょっ! ちょっと待って! ショタ顔? な、なんで物凄く気合いが入ってる? いやセバスチャン落ち着こうか。じゃない私が落ち着こう。……。ふぅ。よし。まずは軽い質問をするね。その前に深呼吸をしようね。私もするから」

 混乱状態のまま「なに言ってんだこいつ?」との表情を浮かべている希だったが、なんとか落ち着こうとセバスチャンと共にゆっくりと深呼吸をしようとする、腕の中に居るセバスチャンからなにやら良い匂いがしてきた。

「良い匂い。ずっと嗅いでい――じゃない! なんで良い匂いなのかは後で調べるとして、私の名前を言ってくれる?」

 そして抱きしめたままのセバスチャンに軽い感じで問い掛ける。唐突な質問であり、普通の者が聞けば熱で頭がおかしくなったと心配するであろう質問に、セバスチャンは満面の笑みを浮かべて答えた。

「はい! 私が仕える素晴らしきご主人様であるユーファネート様です! この人生を全て捧げるお方になります。まさに――」

「はいストップ。ちょっと待とうか。ちょっとワンテンポ入れさせて。……(なに? なにがあったの? 昨日で何かがあったのよね!?)」

 盲従と言っても良いセバスチャンの台詞に希は頭を抱える。そして昨日の出来事を必死で思い出していた。セバスチャンは執事になって半年の新人。ユーファネート専属とするため、孤児院で借金の肩代わりに購入された。ゲームだと、もう少し未来にユーファネートのわがままが始まり、人格否定までされてしまい性格がゆがんだ状態で『君☆(きみほし)』の主人公と出会う。

「もしかして昨日がセバスチャンの分岐点だったの? 確かに紅茶を淹れるのにありえない失敗をしている。まさかそこからセバスチャンに対する嫌がらせが始まった? ひょっとしなくてもストーリーに影響を与えちゃった? でも『君☆(きみほし)』のどの世界なのかしら? 情報が少なすぎて調べようがない」

 希は昨夜に自分がユーファネートとして目覚めてから、セバスチャンへの態度を思い出していた。紅茶を淹れるのを失敗しても叱責しない。むしろ抱きしめてなぐさめた。そして自分の為にだけに微笑むようにと伝え、さらには寝る前は手を握っているように命じた。

「どのゲームの『君☆(きみほし)』かは分からないけど、間違いなく分かった事がある。寝る時に手を握らせるなんて完全に信頼している証よね」

「どうかされましたかユーファネート様? それと私はショタガオになれていますでしょうか? もし、なれていないのでしたら、どうすればショタガオになれるかを教えて下さい!」

「はい。再びストップ。お落ち着きなさい。いいから落ち着きましょうか。ねえうふふふ」

 お願いもう止めて! と思わず叫びたい気分の希だったが、寸前で思いとどまると微笑みを浮かべつつ若干混乱した状態になる。そして優しくセバスチャンの頭を撫でながら、なんとか体勢を整えると表面上は冷静な口調でショタについての説明を始める。

「いいセバスチャン。ショタは未成年で可愛らしい男の子の事をそう呼ぶの。だから貴方は今のままでいいのよ。むしろショタから卒業しなさい。身体を鍛えるの。剣術も極めなさい。そうすれば私を守る執事になれるわ。鍛え上げた筋肉は裏切ら――なにを言ってるんだ私は」

「そ、そんな『可愛らしい』なんて……」

 抱きしめられたままのセバスチャンは希の言葉に耳を真っ赤にさせると、身体が震えだした。男の子に『可愛い』は駄目だったかと、焦りの表情を浮かべつつ希がフォローをしようとした。

「『ショタになる』なんて言葉は忘れて仕事に精を出してちょうだ――」

「ありがとうございます! ユーファネート様に『可愛らしい』と言って頂けるなんて! これからも可愛らしいショタと言って貰えるように頑張ります!」

「違う。貴方はなにか違うわ。お願いだから話を聞いて」

 鼻息荒く希に宣言するセバスチャンに思わずツッコミを入れたが、腕の中で気合いを入れているのに希の声は耳に届いていないようであった。その後、身体を離して――セバスチャンは残念そうにしていたが、希がショタについての説明をもう一度する。ショタは子供の称号であると。仕事が出来る方が自分は助かると。それは一所懸命に、そう全力で一所懸命に説明を行った。

「……。分かりました。天使のようなユーファネート様に認めて頂く為に、執事としての技術を磨き、またショタから卒業する為に可愛らしさを捨て、力強さとたくましを鍛えてユーファネート様を守れる執事になります!」

「そう。そんな感じよ。ちょっと会話の中に不思議な単語が入ってたけど、まあそれはおいおい修正していきましょう。それで朝早くから起こしに来たのには理由があるのよね?」

 力強く宣言しているセバスチャンに一抹の不安を抱えつつも問い掛けた希に、セバスチャンはなにかを思い出したのか慌てたように服を着替えるように伝える。そしてクローゼットから普段着用のドレスを取り出すとユーファネートの寝間着に手を掛ける。

「な、なに!? 急になにをするの?」

「え? お嬢様の着替えを今日からするようにとメイドのマリーナさんから言われております。それに朝食がもうすぐですので急がせて頂きます」

「ちょっと待って! すぐにそのマリーナって子を呼んできなさい!」

 いくら自分が10歳だといえ、同い年の少年に着替えをしてもらうほど無頓着ではなかった。さらには希は社会人まで経験している女性である。それをショタと言っていた子供に着替えさせてもらうのは、希の羞恥心が勝っており出来なかった。残念そうにしつつ、ユーファネートからの命令を受けたセバスチャンはマリーナを呼びに行く。

「お嬢様? セバスチャンがなにか粗相そそうをしましたか?」

「セバスチャンは外で待っていなさい」

 セバスチャンに笑顔で外に出るように伝え、面倒に巻き込まれたとの顔を隠しているつもりでいる侍女のマリーナに話し掛ける。

「……。一つマリーナに聞くわ。セバスチャンは私の着替えを出来るほど成長しているのかしら?」

「い、いえ。まだ甘いところはありますが……」

「10才のユーファネートなら気付かなかったかもね」と思いながら、外に居るセバスチャンには聞こえないように気遣いつつ、無表情になって冷たい声を出す。

「なら貴方が手伝いなさい。お父様達との朝食に私が遅れてもいいと思っているの? この件はお父様に伝えるわよ」

「も、申し訳ありません。すぐにお着替えをさせて頂きます」

 子供と侮っていたマリーナは、ユーファネートの言葉に真っ青な顔になると、何度も謝罪しながらユーファネートのドレスを手に取った。
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