3 / 3
後編
しおりを挟む
千本鳥居から奥社奉拝所を抜けて、ドンドンと進んでいきます。そして気になる「根上がりの松」と書かれている看板がありましたが通り過ぎてから、奥さんが何気に確認してきます。
「見に行かなくて良かったの?」
根上がりの松とは、松の根を祀った神蹟です。ひざ松さんとも呼ばれ親しまれており、腰痛やひざ痛が治ると信仰されています。他にも根上がりの松の根上がりを「値上り」として金融関係の人も来るそうです。金融機関の人はギャグが好きなのかな?
ちょっと通り過ぎたので戻ろうかと思いましたが、相も変わらぬ交通渋滞です。ここで戻れるほど私の神経は太くありません。私を知っている人は「うっちーの神経はピアノ線」と言われますが、どういった意味なのでしょうね?
話しがそれました。そんな事を思っているとネタが閃きました。
-----------------
根上がりの松を通り過ぎた事に気付いて戻ろうとしたけど、人が多くて戻れないじゃない。腰と膝が痛いからちょうど良いと思ったのに!
「なんじゃ? その若さで腰痛かの? まあ、神頼みしている時点で治らんじゃろうな」
「ちょっと酷くない!? 伏見稲荷大社の眷属なのだから、そこは大丈夫だと言ってよ」
-----------------
ネタになったので「根上がりの松」はいい仕事をしてくれました。そんな事を思いながら歩いていると奥さんが袖を引っ張ります。おっ! 今度こそ恋人イベントの発生? ふっふっふ。やったね。俺って勝ち組だよね。そんな事を思っていると、奥さんが若干興奮した表情で指さします。
「あそこにキノコが生えているよ!」
はい違ったー。再び違ったー! 確かに台風で倒れた木の近くにキノコが生えています。見た目は松茸っぽいですが、遠目なのでエリンギ茸にも見えます。あれ? 松茸に見えるエリンギ茸? これもネタになるんじゃ。
-----------------
「あのキノコ美味しそうだね」
「まさか喰うたりはせんよな? 最近、キノコを食べて緊急搬送……。とニュースでやっておろうが」
「なんで、伏見稲荷大社の妖狐ちゃんがテレビを見てるのかな?」
-----------------
こんな感じもいいですね。そして歩いていると、またキノコ発見です! 今度はヒラタケみたいです。こっちも見た目は美味しそうですね。いや、食べませんが。
そんな感じの話をしながら奥さんと歩いていると、お手洗いを発見です。休憩には丁度良い感じですね。上手い具合にトイレが配置されています。ちょっと休憩を提案して出来る男を演出するかと、奥さんの方を見るとなにやら話し掛けられています。
「excuse me. ふんにゃらはんにゃら」
「あ、はい。いきますよー。はいどうぞ」
「Thanks you!」
「いえいえー」
凄ぇ! 全部日本語で対応した。うちの奥さんは何者? でも、物凄く恥ずかしそうな顔してる。本当に可愛い。
「せめて『スマイルー』くらい言ったら良いのに」
私だったら話し掛けられた時点でキョドリますけどね。それがなにか?
「恥ずかしかったー。全部日本語で対応したけどなんとかなるもんやなー。それと『スマイルー』なんて言えへんからな! 自分やって出来ひんやろー」
プリプリと怒っている可愛い奥さんに笑いながら謝罪すると、お手洗いに行く事を提案します。
「私は大丈夫やで。それよりも行ってきたら?」
むしろ私が気遣われています。奥さんの方が出来る男です。スッキリした私は奥さんと再び先を進みます。そして石段を上がると再び大渋滞です。どうやら、この先の熊鷹社で人がたむろっているようで、少しずつしか進みません。そして後ろを歩いている(狭いので恋人歩き(2列)が出来ない)奥さんにかかとを踏まれまくります。
「ごめん! 歩幅が合わなくて。急に止まったりするから」
「いいんだよ。君に踏まれるなら本望さ!」
「それはちょっと嫌や」
あれ? 出来る男を演出するチャンスとばかりに頑張りましたがダメなようです。なかなか難しいですね。出来る男になるために頑張らないと。あれ? なんの話しでしたっけ?
そうそう。大渋滞なのですよ。それを耐え忍んでやっと熊鷹社に到着です。ここでも売店があります。ろうそく(その近くの看板には『火の付いたろうそくをそのままにしないで下さい。カラスが運んで火事になります』と書かれていました)や、鳥居に食べ物なども販売しています。熊鷹社は変わった参拝方法で有名な場所(池に向かって柏手を打って、反響の速度で願いがいつ叶うか分かる)ですが、今回の目的とは違いますのでスルーします。
あ、もちろんお茶は補充しますよ。なにも飲み物を持ってませんからね。水分不足はダメ! ゼッタイ! そんな事を感じながら自販機でお茶を買います。やっぱり山価格の通常よりはお高い設定ですが、ここまで運ぶ事を考えると納得のお値段です。
普段は水分をあまり採らない奥さんもクピクピと飲みます。おお、間接キス。……。なんて事でときめくほど思春期ではありませんので、なにも感じずに進んでいきます。そして、やって来ました三ツ辻です。もう疲労困憊です。ですが、まだ1/3くらいです(個人的な感覚です)。まだ先はあります。だが! 休憩所が欲しい! もうやだー。疲れたよー。おうちかえるー。
三ツ辻を左に曲がり進んでいくと、右手にお店がちらほらある事に気付きます。おぅぅぅ。閉まってるじゃん。2件目、お汁粉と書いてあるのに中の店に入ろうにもバリケードがされており、店の奥から店員さんっぽい人が登山客(ん? 登山で良いのかな? 参拝?)を眺めています。
「なんか入りにくいね」
ですね。これはコミュニケーション能力が若干高い私でも問い掛けをためらうレベルです。さらに疲労困憊している状態ではベストパフォーマンスはひねり出せません。その先にまだお店がある事を期待して、寄らずに先に進みます。
そして3件目! 発見です。よく喫茶店の前に置いてあるスタンド看板に「抹茶最中アイス1個300円」と書かれており、物凄く美味しそうです。そして何より冷たい物! これは譲れません。私は奥さんの手を引くと、支払場所に並びます。前の男性はうちわと飲み物を購入しています。
そのチョイスもありだったか? うちわも伏見稲荷大社の文字が書かれており、現地っぽいです。しかし、疲れ果てた私の灰色にくすんだ脳細胞と、ドライアイになってシバシバしていて目薬をさしたい状態の思考能力では抹茶最中アイスしか目に入りません。
「抹茶最中アイス2個下さい! それと奥の席で休憩をしても良いですか?」
「いいですよー」
やった! やったね! ついに座る事が出来ますよ! 抹茶最中アイスを受け取って奥さんと席に座ると、一気に疲れが押し寄せてきます。奥さんもホッとした様子でタオルを取り出して拭いています。そして嬉しそうに私から手渡された抹茶最中アイスの封を開けてかじりつきます。
「固い……」
ま、まあ。山の上で保存をしようと思うと固めに冷凍した方がいいですからねー。味は美味しかったですよ。そして、ほどよく休憩し身体も回復。さらには抹茶最中アイスの力で気力もチャージされます。15分ほど休憩し、店の人にお礼を伝え、再び参拝に向かいます。思ったよりも身体が軽い。やっぱり休憩偉大。たまに眼下に京都市内が広がります。
「わぁぁ。曇っててこれやから、晴れてる時に来たら物凄く綺麗やろなー」
奥さんも回復したのか足取りも軽く笑顔になっています。うん。これはネタに使える。
-----------------
「わぁぁ。景色が綺麗だー。京都市内が一望できるなんて頑張った甲斐があったよ!」
「お主、目的を忘れておらんよな? 妾の住処を案内すると言うたのに、無視してこんな場所まで登ってきおって」
「え? この辺りじゃないの?」
「そんなわけがあるか! 妾は妖狐の中で最年少じゃ! このような高所に住処を授けられる訳がなかろうが!」
-----------------
こんな感じかな? うんうん。良い感じでストーリーが思いつくな。順調順調。奥さんと一緒に来たからデート感が半分以上あるけど、ちゃんと取材になっているから大丈夫! そして四つ辻に到着です。ベンチが置いてあったり、食事処があったりします。ちょっとした広場になっているので渋滞も起りません。そして案内図を確認です。
あ、あれ?
「なあ? 頂上までやけど、さっき登った分と同じくらいの距離があるんとちゃう?」
あ、やっぱり奥さんもそう思います? ちなみにこの時点で11時半です。「頂上まで30分」と書かれています。じゃあ、頂上まで疲労困憊で登って、また30分掛けて戻ってくる。そして口から魂が抜けている状態で、やっとここまで来たのに頂上までいって、また今の道を戻るの?
……。いやいや無理むり!
疲労困憊なのですよ。ここで30分くらい休憩してから頂上へのアタックをするなら話は分かる。でも、ノンストップで登頂するのは無理です。そして疲労困憊と雨が降りそうなのを言い訳に四つ辻で撤退する事を決めました。その事を伝えると奥さんも同意してくれます。
「そうやねー。今度は天気が良くて、人が少ない朝一番に来よう? 自分のペースで歩きたいわー」
2人して疲れた表情で四つ辻を後にして。来た道を戻っていきます。そして疲れている体が悲鳴を上げ始めます。
「……。なんか遠い気がするけど、三ツ辻ってまだやっけ?」
「うん、まだやで。結構登ったからなー」
奥さんとそんな話しをしながら三ツ辻まで到着した私達は、少し思案に暮れます。この道を左に曲がると、行きと同じ道になるが大渋滞。そして直進すると間違いなく人が少ないように見える。
「まっすぐに行こうか」
「そやね。人が少ない方がええわ」
意見が一致した私達は人の少ない道を歩く。しばらく歩いていると様々な神社が現れだしました。どうやら色々な神社が祀られているようで、腰痛や膝痛の神社や、頭痛や芸事の神社。その中に徳丸大明神と書かれ、その前にご神柱が置かれています。
そこには三宝おもかる石と書かれており、説明文もありました。
「わが思う吉凶をこの三宝のお石に真心で三度ご祈念し もち上げて下さい 軽くあがれば吉です。(原文ママ)」
奥さんと二人で顔を見合わせて、私が先にチャレンジする事になります。
「これからも書籍化出来ますように! これからも書籍化出来ますように! これからも書籍化出来ますように!」
三度、祈念して三宝おもかる石を持ち上げます。軽っ! めっちゃ軽い! これは確定ですよ! 完璧ですよ! 後は出版社からの連絡を待つばかりですよ! (全国にある出版社の方向を見ながら)
「終わった? じゃあ、私もしようかな。ふふん。えい! ふっ!」
奥さんがなぜか自信満々で石に向かっていき、祈念すると持ち上げます。おお、持ち上がってる。願い事は叶いそうやね。などと、私が思っていると半笑いの奥さんがフラフラしながら私の元にやって来ました。
「重いやん! 軽そうに持つから『ひょっとしたらいけるかなー』と思ったやん! 滅茶苦茶重いし!」
え? なに私が悪いの? でも怒っている奥さんの顔も可愛い。
とりあえずごめんなさいと謝って先に進みます。その後は野良猫がいて、近くの売店には野良猫の写真が1枚100円で売ってあったり、竹で作られた鳥居があったり、蛙が祀られている場所があったり、境内を塞ぐように大木が生えている神社もありました。
他にも中国の神様(~老師みたいな銅像があった)が祀られていたり、カゴにお金を入れて洗うと浄財される場所や、人形が大量に祀られている場所もあり、かなり混沌としているイメージがありましたが、ちょっと不思議な空間は楽しかったです。
そしてやっと本殿に戻ってきました。
近くのお土産屋さんでは懐かしの通行手形が販売されています。思わず買いそうになりました。これもネタになりそうですね。
-----
「わあ、通行手形がある。買って帰ろうかな?」
「最近の修学旅行生は買わんぞ? 外国人観光客も買っているのを見たことないわ」
-----
こんなやり取りも主人公と妖狐ちゃんはしそうですね。お土産を見ていたらあっという間にお昼です。出来る男を目指している私は奥さんなにが食べたいか尋ねます。「なに食べたい?」などのダメな聞き方はしません。なんてったて私は出来る男ですからね。
「お昼食べるなら和食か洋食かどっちがいい? それか他のところでもいいよ」
「なに食べたい?」と変わらない気がする。そんな事を考えているとと、奥さんが笑いながら回答をくれました。
「今日は取材で来たんやろ? 主人公が寄りそうなとこでいいよ」
男前か! なんなの、うちの奥さん。もう本当に天使。そして可愛い。
私をこれ以上惚れさせてどうする気なの? ニコニコと笑っている奥さんにメロメロになっていると、ウナギを焼いている店を見つけました。よし、ここにしよう。超高級店でも構わない。え? 主人公の食べる昼食にするじゃないのかですって? いいんです! 奥さんが可愛いから、彼女が好きなうなぎにするの!
奥さんとお店に入るとバイトさんが外国の方で、意思疎通が上手くいかない安定のイベントもありましたが、無事にウナギ定食を食べられました。実に柔らかくて美味しかったです。
その後、丸もちの場所が台風で半壊して、別店舗を探すのに苦労したり、2店並んでいる喫茶店で選んで入った店で頼もうと思ったスイーツが品切れだったり、トッピングで頼んだアイスが付いてなかったりと、相変わらず食運のなさを発揮しつつ、子供たちへのお土産も大量に購入して帰りの駅に向かいます。
こうして、私と奥さんの取材を主目的とした伏見稲荷大社散策は終了しました。後は、家に帰るまでが遠足です。帰りの電車代も私が出して綺麗に終幕を迎えましょう。なぜなら出来る男だからです。
「ここは俺が出す――あれ?」
なんてこったい! 財布の中に小銭もお札も入っていない! はっはっは、まさに文無しとはこの事だね! さっきの喫茶店代とお土産代で使い果たしたようです。両手両膝をついて項垂れようとした私に、奥さんが財布と取り出して満面の笑みを浮かべました。
「ここまで出してくれたから、切符代くらいは払うよ? お金使いすぎやで。無理したんとちゃう?」
真の出来る男はここに居た! もう誰にも渡さない。本当に可愛い。
いや私の奥さんですけどね。相変わらず素敵な奥さんに惚れ直しながら、私達は帰路についたのでした。
「見に行かなくて良かったの?」
根上がりの松とは、松の根を祀った神蹟です。ひざ松さんとも呼ばれ親しまれており、腰痛やひざ痛が治ると信仰されています。他にも根上がりの松の根上がりを「値上り」として金融関係の人も来るそうです。金融機関の人はギャグが好きなのかな?
ちょっと通り過ぎたので戻ろうかと思いましたが、相も変わらぬ交通渋滞です。ここで戻れるほど私の神経は太くありません。私を知っている人は「うっちーの神経はピアノ線」と言われますが、どういった意味なのでしょうね?
話しがそれました。そんな事を思っているとネタが閃きました。
-----------------
根上がりの松を通り過ぎた事に気付いて戻ろうとしたけど、人が多くて戻れないじゃない。腰と膝が痛いからちょうど良いと思ったのに!
「なんじゃ? その若さで腰痛かの? まあ、神頼みしている時点で治らんじゃろうな」
「ちょっと酷くない!? 伏見稲荷大社の眷属なのだから、そこは大丈夫だと言ってよ」
-----------------
ネタになったので「根上がりの松」はいい仕事をしてくれました。そんな事を思いながら歩いていると奥さんが袖を引っ張ります。おっ! 今度こそ恋人イベントの発生? ふっふっふ。やったね。俺って勝ち組だよね。そんな事を思っていると、奥さんが若干興奮した表情で指さします。
「あそこにキノコが生えているよ!」
はい違ったー。再び違ったー! 確かに台風で倒れた木の近くにキノコが生えています。見た目は松茸っぽいですが、遠目なのでエリンギ茸にも見えます。あれ? 松茸に見えるエリンギ茸? これもネタになるんじゃ。
-----------------
「あのキノコ美味しそうだね」
「まさか喰うたりはせんよな? 最近、キノコを食べて緊急搬送……。とニュースでやっておろうが」
「なんで、伏見稲荷大社の妖狐ちゃんがテレビを見てるのかな?」
-----------------
こんな感じもいいですね。そして歩いていると、またキノコ発見です! 今度はヒラタケみたいです。こっちも見た目は美味しそうですね。いや、食べませんが。
そんな感じの話をしながら奥さんと歩いていると、お手洗いを発見です。休憩には丁度良い感じですね。上手い具合にトイレが配置されています。ちょっと休憩を提案して出来る男を演出するかと、奥さんの方を見るとなにやら話し掛けられています。
「excuse me. ふんにゃらはんにゃら」
「あ、はい。いきますよー。はいどうぞ」
「Thanks you!」
「いえいえー」
凄ぇ! 全部日本語で対応した。うちの奥さんは何者? でも、物凄く恥ずかしそうな顔してる。本当に可愛い。
「せめて『スマイルー』くらい言ったら良いのに」
私だったら話し掛けられた時点でキョドリますけどね。それがなにか?
「恥ずかしかったー。全部日本語で対応したけどなんとかなるもんやなー。それと『スマイルー』なんて言えへんからな! 自分やって出来ひんやろー」
プリプリと怒っている可愛い奥さんに笑いながら謝罪すると、お手洗いに行く事を提案します。
「私は大丈夫やで。それよりも行ってきたら?」
むしろ私が気遣われています。奥さんの方が出来る男です。スッキリした私は奥さんと再び先を進みます。そして石段を上がると再び大渋滞です。どうやら、この先の熊鷹社で人がたむろっているようで、少しずつしか進みません。そして後ろを歩いている(狭いので恋人歩き(2列)が出来ない)奥さんにかかとを踏まれまくります。
「ごめん! 歩幅が合わなくて。急に止まったりするから」
「いいんだよ。君に踏まれるなら本望さ!」
「それはちょっと嫌や」
あれ? 出来る男を演出するチャンスとばかりに頑張りましたがダメなようです。なかなか難しいですね。出来る男になるために頑張らないと。あれ? なんの話しでしたっけ?
そうそう。大渋滞なのですよ。それを耐え忍んでやっと熊鷹社に到着です。ここでも売店があります。ろうそく(その近くの看板には『火の付いたろうそくをそのままにしないで下さい。カラスが運んで火事になります』と書かれていました)や、鳥居に食べ物なども販売しています。熊鷹社は変わった参拝方法で有名な場所(池に向かって柏手を打って、反響の速度で願いがいつ叶うか分かる)ですが、今回の目的とは違いますのでスルーします。
あ、もちろんお茶は補充しますよ。なにも飲み物を持ってませんからね。水分不足はダメ! ゼッタイ! そんな事を感じながら自販機でお茶を買います。やっぱり山価格の通常よりはお高い設定ですが、ここまで運ぶ事を考えると納得のお値段です。
普段は水分をあまり採らない奥さんもクピクピと飲みます。おお、間接キス。……。なんて事でときめくほど思春期ではありませんので、なにも感じずに進んでいきます。そして、やって来ました三ツ辻です。もう疲労困憊です。ですが、まだ1/3くらいです(個人的な感覚です)。まだ先はあります。だが! 休憩所が欲しい! もうやだー。疲れたよー。おうちかえるー。
三ツ辻を左に曲がり進んでいくと、右手にお店がちらほらある事に気付きます。おぅぅぅ。閉まってるじゃん。2件目、お汁粉と書いてあるのに中の店に入ろうにもバリケードがされており、店の奥から店員さんっぽい人が登山客(ん? 登山で良いのかな? 参拝?)を眺めています。
「なんか入りにくいね」
ですね。これはコミュニケーション能力が若干高い私でも問い掛けをためらうレベルです。さらに疲労困憊している状態ではベストパフォーマンスはひねり出せません。その先にまだお店がある事を期待して、寄らずに先に進みます。
そして3件目! 発見です。よく喫茶店の前に置いてあるスタンド看板に「抹茶最中アイス1個300円」と書かれており、物凄く美味しそうです。そして何より冷たい物! これは譲れません。私は奥さんの手を引くと、支払場所に並びます。前の男性はうちわと飲み物を購入しています。
そのチョイスもありだったか? うちわも伏見稲荷大社の文字が書かれており、現地っぽいです。しかし、疲れ果てた私の灰色にくすんだ脳細胞と、ドライアイになってシバシバしていて目薬をさしたい状態の思考能力では抹茶最中アイスしか目に入りません。
「抹茶最中アイス2個下さい! それと奥の席で休憩をしても良いですか?」
「いいですよー」
やった! やったね! ついに座る事が出来ますよ! 抹茶最中アイスを受け取って奥さんと席に座ると、一気に疲れが押し寄せてきます。奥さんもホッとした様子でタオルを取り出して拭いています。そして嬉しそうに私から手渡された抹茶最中アイスの封を開けてかじりつきます。
「固い……」
ま、まあ。山の上で保存をしようと思うと固めに冷凍した方がいいですからねー。味は美味しかったですよ。そして、ほどよく休憩し身体も回復。さらには抹茶最中アイスの力で気力もチャージされます。15分ほど休憩し、店の人にお礼を伝え、再び参拝に向かいます。思ったよりも身体が軽い。やっぱり休憩偉大。たまに眼下に京都市内が広がります。
「わぁぁ。曇っててこれやから、晴れてる時に来たら物凄く綺麗やろなー」
奥さんも回復したのか足取りも軽く笑顔になっています。うん。これはネタに使える。
-----------------
「わぁぁ。景色が綺麗だー。京都市内が一望できるなんて頑張った甲斐があったよ!」
「お主、目的を忘れておらんよな? 妾の住処を案内すると言うたのに、無視してこんな場所まで登ってきおって」
「え? この辺りじゃないの?」
「そんなわけがあるか! 妾は妖狐の中で最年少じゃ! このような高所に住処を授けられる訳がなかろうが!」
-----------------
こんな感じかな? うんうん。良い感じでストーリーが思いつくな。順調順調。奥さんと一緒に来たからデート感が半分以上あるけど、ちゃんと取材になっているから大丈夫! そして四つ辻に到着です。ベンチが置いてあったり、食事処があったりします。ちょっとした広場になっているので渋滞も起りません。そして案内図を確認です。
あ、あれ?
「なあ? 頂上までやけど、さっき登った分と同じくらいの距離があるんとちゃう?」
あ、やっぱり奥さんもそう思います? ちなみにこの時点で11時半です。「頂上まで30分」と書かれています。じゃあ、頂上まで疲労困憊で登って、また30分掛けて戻ってくる。そして口から魂が抜けている状態で、やっとここまで来たのに頂上までいって、また今の道を戻るの?
……。いやいや無理むり!
疲労困憊なのですよ。ここで30分くらい休憩してから頂上へのアタックをするなら話は分かる。でも、ノンストップで登頂するのは無理です。そして疲労困憊と雨が降りそうなのを言い訳に四つ辻で撤退する事を決めました。その事を伝えると奥さんも同意してくれます。
「そうやねー。今度は天気が良くて、人が少ない朝一番に来よう? 自分のペースで歩きたいわー」
2人して疲れた表情で四つ辻を後にして。来た道を戻っていきます。そして疲れている体が悲鳴を上げ始めます。
「……。なんか遠い気がするけど、三ツ辻ってまだやっけ?」
「うん、まだやで。結構登ったからなー」
奥さんとそんな話しをしながら三ツ辻まで到着した私達は、少し思案に暮れます。この道を左に曲がると、行きと同じ道になるが大渋滞。そして直進すると間違いなく人が少ないように見える。
「まっすぐに行こうか」
「そやね。人が少ない方がええわ」
意見が一致した私達は人の少ない道を歩く。しばらく歩いていると様々な神社が現れだしました。どうやら色々な神社が祀られているようで、腰痛や膝痛の神社や、頭痛や芸事の神社。その中に徳丸大明神と書かれ、その前にご神柱が置かれています。
そこには三宝おもかる石と書かれており、説明文もありました。
「わが思う吉凶をこの三宝のお石に真心で三度ご祈念し もち上げて下さい 軽くあがれば吉です。(原文ママ)」
奥さんと二人で顔を見合わせて、私が先にチャレンジする事になります。
「これからも書籍化出来ますように! これからも書籍化出来ますように! これからも書籍化出来ますように!」
三度、祈念して三宝おもかる石を持ち上げます。軽っ! めっちゃ軽い! これは確定ですよ! 完璧ですよ! 後は出版社からの連絡を待つばかりですよ! (全国にある出版社の方向を見ながら)
「終わった? じゃあ、私もしようかな。ふふん。えい! ふっ!」
奥さんがなぜか自信満々で石に向かっていき、祈念すると持ち上げます。おお、持ち上がってる。願い事は叶いそうやね。などと、私が思っていると半笑いの奥さんがフラフラしながら私の元にやって来ました。
「重いやん! 軽そうに持つから『ひょっとしたらいけるかなー』と思ったやん! 滅茶苦茶重いし!」
え? なに私が悪いの? でも怒っている奥さんの顔も可愛い。
とりあえずごめんなさいと謝って先に進みます。その後は野良猫がいて、近くの売店には野良猫の写真が1枚100円で売ってあったり、竹で作られた鳥居があったり、蛙が祀られている場所があったり、境内を塞ぐように大木が生えている神社もありました。
他にも中国の神様(~老師みたいな銅像があった)が祀られていたり、カゴにお金を入れて洗うと浄財される場所や、人形が大量に祀られている場所もあり、かなり混沌としているイメージがありましたが、ちょっと不思議な空間は楽しかったです。
そしてやっと本殿に戻ってきました。
近くのお土産屋さんでは懐かしの通行手形が販売されています。思わず買いそうになりました。これもネタになりそうですね。
-----
「わあ、通行手形がある。買って帰ろうかな?」
「最近の修学旅行生は買わんぞ? 外国人観光客も買っているのを見たことないわ」
-----
こんなやり取りも主人公と妖狐ちゃんはしそうですね。お土産を見ていたらあっという間にお昼です。出来る男を目指している私は奥さんなにが食べたいか尋ねます。「なに食べたい?」などのダメな聞き方はしません。なんてったて私は出来る男ですからね。
「お昼食べるなら和食か洋食かどっちがいい? それか他のところでもいいよ」
「なに食べたい?」と変わらない気がする。そんな事を考えているとと、奥さんが笑いながら回答をくれました。
「今日は取材で来たんやろ? 主人公が寄りそうなとこでいいよ」
男前か! なんなの、うちの奥さん。もう本当に天使。そして可愛い。
私をこれ以上惚れさせてどうする気なの? ニコニコと笑っている奥さんにメロメロになっていると、ウナギを焼いている店を見つけました。よし、ここにしよう。超高級店でも構わない。え? 主人公の食べる昼食にするじゃないのかですって? いいんです! 奥さんが可愛いから、彼女が好きなうなぎにするの!
奥さんとお店に入るとバイトさんが外国の方で、意思疎通が上手くいかない安定のイベントもありましたが、無事にウナギ定食を食べられました。実に柔らかくて美味しかったです。
その後、丸もちの場所が台風で半壊して、別店舗を探すのに苦労したり、2店並んでいる喫茶店で選んで入った店で頼もうと思ったスイーツが品切れだったり、トッピングで頼んだアイスが付いてなかったりと、相変わらず食運のなさを発揮しつつ、子供たちへのお土産も大量に購入して帰りの駅に向かいます。
こうして、私と奥さんの取材を主目的とした伏見稲荷大社散策は終了しました。後は、家に帰るまでが遠足です。帰りの電車代も私が出して綺麗に終幕を迎えましょう。なぜなら出来る男だからです。
「ここは俺が出す――あれ?」
なんてこったい! 財布の中に小銭もお札も入っていない! はっはっは、まさに文無しとはこの事だね! さっきの喫茶店代とお土産代で使い果たしたようです。両手両膝をついて項垂れようとした私に、奥さんが財布と取り出して満面の笑みを浮かべました。
「ここまで出してくれたから、切符代くらいは払うよ? お金使いすぎやで。無理したんとちゃう?」
真の出来る男はここに居た! もう誰にも渡さない。本当に可愛い。
いや私の奥さんですけどね。相変わらず素敵な奥さんに惚れ直しながら、私達は帰路についたのでした。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
かわいいお話しをありがとうございます。ホッコリしました。奥様愛されてますね🎵私もたま~に旦那さんの袖を掴んでみようかなと思いました。御狐様のお話しを楽しみにしてます。
ご感想有り難うございます!
ホッコリとしたとのお言葉嬉しい限りです!
私のワガママに付き合ってくれる奥さんは本当に優しいです。
ぜひぜひ旦那様の袖をギュッと掴んでください。夫婦円満が人生の輝きをさらに増してくれますからね。
お狐様の話は途中で止めちゃっているので、早く書き直しが出来るように頑張ります!