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「ねえいくら貯まったの?」

 明日から夏休みという日、ロッカーの中を掃除していた私に葛城が話しかけてきた。
 巾着袋に入れて奥の方に隠していた瓶を取り出してみる。
 かなり重たいが、元々が厚いガラスの瓶だから重たいという可能性もある。

「どうだろう。結構あるね」

 私と葛城はロッカーの前にしゃがみこんで、その瓶を振ってみた。

「3000円位あるかな」

「もっとあるんじゃない?」

 夏休みの間はここに置いておくのも拙いだろうということになって、私たちは瓶を抱えていつもの桜の下に行った。

「わぁ! 6200円もある! ってことはグレートブラザー弁当を62回も食べたってことだね」

 この弁当を作ってもらえるようになった経緯を話してから、葛城はこれを『グレートブラザー弁当』と呼んでいる。
 私のは相変わらずのスノーホワイト……

「一学期のほとんどだもんね」

 いきなり葛城が私の手を握ってきた。

「私が今日も元気なのは洋子ちゃんとお兄ちゃんのお陰だよ」

「大げさだが、その謝意は素直に受け取っておこう。そこで、葛城よ。その感謝の気持ちを行動で示してみないか?」

 私がビシッと指を向けると、葛城はケラケラと笑いながら頷いた。

「ははは~ なんでもするよ~」

 私はかねてから考えていたプランを口にした。

「夏休みの間、私と一緒に勉強すること。1日4時間で良いからさ」

 一瞬で葛城のテンションがダダ下がったが、私は構わずに続けた。

「図書館に行こう。10時に行ってお昼まで勉強したら、お昼ごはんを一緒に食べようよ。それから3時まで頑張って解散だ」

「4時間……ながっ!」

「でもね、やって損は無いよ。親にも良い成績表見せたいでしょ?」

「う……うん……わかった。10時だね? お昼ご飯は買っていった方がいい?」

「とりあえず明日はいらない。あっちで決めよう」

 頷いた葛城が立ち上がる。
 大きな伸びをしてから、ベンチに座る私を見た。

「勉強って楽しい?」

「楽しい? うん、楽しいかも。知らないことを知るのはワクワクするし、できないことができるようになるのも嬉しいからね」

「そうかぁ……私も勉強してみようかな」

「今更かよっ!」

「だってさ『フルーツガールズ』の新曲を完コピしたらワクワクするし、振りつけも覚えたら嬉しいもん。それと同じでしょ?」

「……まあそうだね」

「じゃあ私も頑張る! 何を持っていけばいいの?」

「参考書とか問題集って持ってる?」

「無いよ」

 あっけらかんと言う葛城の目は一点の曇りもなかった。

「そうだな……本とか買うときはどうしてるの?」

「写真集のこと? お金貯めるんだよ」

「いや、その本では無いが……っていうか、あんた姉の写真集を買うの?」

「うん、売り上げに貢献しなきゃ」

「そうか……そうだね。まあ、ガンバレとしか言いようがない」

 私は貯めた6300円の使い道を決めた。
 すまん、兄よ。板チョコで勘弁してくれ!
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