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 春休みだからと言って、寝坊したりだらだらしたりできない体質になっているようだ。
 今朝もテキパキと朝食を作り、掃除と洗濯を手早く済ませる。
 昼食は昨日の鰤があるので、ばあさんの分は確保できているから安心だ。
 そして私は葛城に電話をかけた。

「ねえ、うちで一緒に勉強しない?」

 今日は土曜なので、葛城の父親がいるかもしれない。
 ダメだと言うだろうか……
 
「嬉しい! 何を持っていけばいい?」

「教科書も参考書もあるからノートだけでいいよ」

 駅まで迎えに行くと言って受話器を置いたが、ものの数分で葛城から電話があった。

「あのね、静香さんが車で送ってくれるって。住所を教えてくれたら大丈夫って言ってるんだけど」

「ああ、カーナビね。だったら昭三清掃って入れたら出るよ。会社の電話番号は****」

 本当に嬉しそうな葛城の声に、私まで心が浮き立つ。
 もうそろそろばあさんが昼食に戻る時間だから、その時に伝えようと思い台所に立った。

「そう、そりゃ良いねぇ。親も来るなら挨拶もできるし」

「挨拶してくれるの?」

「当たり前だろ? ところでお前は食べないのかい?」

「何時に来るかわからなかったから、もしお昼食べてないっていったら付き合おうと思って」

「常識のある親なら昼食は済ませて、二時過ぎてから来るだろうよ」

「そうなの?」

「そうさ。だからお前も食べなさい」

 結局、私も軽めの昼食をお腹に入れて、葛城の到着を待った。
 部屋はすでに温めてあるし、おかきしかないが一応お茶受けにはなる。

「ごめんください」

 葛城の声だ。
 それにしても……ちゃんと挨拶ができるんだな……失礼だがとても驚いた。

「はぁ~い」

「いらっしゃい。ああ、静香さん。ご無沙汰しています」

「こちらこそ。いつも沙也ちゃんを気にしてくれてありがとうね」

 世間一般の会話をしていると、会社からばあさんが出てきた。
 今日もばあさんは濃紺のスーツ姿だ。

「いらっしゃいませ。洋子の祖母でございます」

 おぉ! カッコいい! 立ち姿も話すトーンも全てが社長っぽくてカッコいい!
 ああ……社長だったか。

「初めまして、私は葛城沙也の母で、静香と申します。あの……これは皆さんで。これほど大きな会社だとは存じ上げず、数が足りなかったら申し訳ないのですが」

「これはどうも、お気遣いいただきありがとうございます。機械が多いので大きいように見えますが、従業員は両手で足りるほどなのです。有難く頂戴いたします。さあ洋子、ご案内しなさい」

「はい、どうぞおあがりください」

 私の言葉に静香さんが手を振った。

「私は送ってきただけですので、こちらで失礼いたします。下の子も家におりますし」

 深雪ちゃんはお留守番かぁ、ということはやっぱり父親がいるのかな? あとで聞いてみよう。

「今日はよろしくね、洋子ちゃん。夕方は何時に迎えにくればいい?」

 私と葛城が顔を見合わせると、ばあさんが代わって返事をした。

「ご夕食は何時ころですか? それまでには戻れるようにいたします」

「夕食は……そうですね。では18時までには帰らせてください。沙也ちゃん、それでいいかな?」

 静香さんの声に葛城が頷く。
 私も横で何度も頷いた。
 深々とお辞儀をして車に乗り込んだ静香さんを見送り、ばあさんが会社に戻ろうとすると、いきなり葛城が駆け寄った。

「あの、洋子ちゃんのおばあ様ですよね? いつも洋子ちゃんには本当にお世話になっています。時々遅くなるのも、私に勉強を教えてくれているからなんです」

「そうなの? 洋子がねぇ。フフフ」

 なぜか嬉しそうに笑うばあさん……不気味だ。
 葛城がおずおずと声に出した。

「あの……洋子ちゃんっておばあ様にそっくりなんですね。驚きました」

 薄々似ているとは思っていたが、他人から『そっくり認定』されると、妙に恥ずかしいものだと知った。
 赤面していないことだけを祈る。
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