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 葛城の家でやるより、サクサクと進む。
 深雪ちゃんは可愛いが、やはり気が散るからだろう。

「そろそろ休憩しようか」

 時間を見ると午後四時を回っていた。

「私ね、おやつ持ってきたんだよ」

 葛城が大きなトートバックから紙袋を取り出した。
 
「すごいね~。これってさっきのお菓子のお店のやつじゃん」

「うん、あれは会社の皆さんにって言ってたでしょ? だから私と洋子ちゃん用のは別に買って貰ったの。それとこれも」

 お前のバッグは未来型ロボットの腹のポケットか?

「なぜバナナ……」

「お土産なの。静香さんが仕事で沖縄に行っててね。沖縄産バナナなんだって~」

 バナナはおやつに入る派なんだな?

「そりゃ珍しいね。さっそくいただきま~す」

 ねっとりとした甘い果肉が口の中に広がり、後味に微かな酸味が残る。

「すごいね。これが国産の味か……初めて食べたよ」

「うん、私も初めて食べたんだけど美味しいよね。深雪ちゃんなんか二本を続けて食べて、夕食を残したんだよ」

「気持ちは分かるね。そう言えば静香さんの出張って、沖縄なら泊りでしょ? ご飯とかどうしてたの?」

「お昼はマックに深雪ちゃんと一緒に行ったよ。静香さんがお金を置いてくれていたから。夕食はお父さんが……買って帰ってた。あんなこともできる人だったんだって驚いたよ」

「そうだよね。そんなことができるなら、なぜ私にはって思っちゃうよね。ああ……ごめん」

「ぜんぜん大丈夫。だってほんとのことだし」

「父親はあんたが1日千円で何年も暮らしていたことは知ってるの?」

「どうなんだろ。私は言ってないけど……まあ、もう今更だし?」

「良いの? 謝ってもないんでしょ? この前のこと」

「殴られたこと? そうだね。直接は謝っては来ないね。でも静香さんには後悔してるって言ってたらしいよ?」

「私は納得できんな……土下座でもさせたい気分だよ」

「ははは! たぶん土下座は絶対にしないと思うよ。この前さぁ、階段降りてたら丁度お父さんが帰ってきてね、上から見下ろす感じになったんだけど、頭頂部がかなり拙いことになってた。相当気にしてるみたいだから、それを晒すような土下座は絶対無いよ」

 そういう問題なのだろうか……なんと言うかリアクションし難いので話題を変えた。

「そう言えば受験すること伝えたの?」

「誰に?」

 普通に不思議そうに聞く葛城に戸惑う。

「誰って、そりゃ……」

「ああ、親? 静香さんには伝えてるから伝わってるんじゃない?」

「そうか……それなら良いけど。葛城は静香さんのこと、ずっとそう呼ぶの?」

「うん。静香さんがそれで良いって言うから、そうすることにしたの。別にこだわりはないんだけれど、本人がそれで良いって言うなら、そうかなぁって」

「ふぅん。まあ二人の合意なら、私が口を出すことじゃないな。お父さんは納得してるの?」

「まさか! 私がそう呼ぶたびに、物凄く怖い顔で睨むよ。面白いからわざとやってる」

 葛城……お前、知らない間に強くなったな。
 お姉ちゃんは嬉しいよ。

「葛城って何月生まれ?」

「私4は月だよ? 洋子ちゃんは?」

「私は10月」

 まさかの半年ほど姉!
 今まで生意気な口をきいてスミマセンでした。

「さあ、そろそろ続きやろうか」

「うん。次は世界史だね」

 私たちは急いで机を片づけた。
 鼻歌を歌いながら教科書を広げる葛城の髪から、春のような匂いがした。

 そのまま集中して頑張っていると、ばあさんがドアの外から声を掛けた。

「洋子、そろそろ6時だよ? いいのかい?」

「ゲッ! 葛城、今日のところは終わろう。急いで帰らないと約束の時間だ」

「え~ もうそんな時間? きゃぁぁ! 大変だぁ」

 ごそごそとノートと筆記用具をトートバックに放り込み、二人で階段を降りた。
 ばあさんが呆れたような顔で立っている。

「ごめんなさい。時間を気にしてなかったです」

「勉強とはいえ、約束は約束だ。柏原が送るから、洋子も一緒に行ってきなさい」

 葛城が嬉しそうな顔でいう。

「おばあ様、ありがとうございました。また来ても良いですか?」

 葛城の声に、ばあさんが頷いた。

「いつでもおいで。今度は昼ごはんもここで食べたらいい」

 私と葛城を急かすように手招く柏原さんは、ニコニコと笑っていた。
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