せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連

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2 急ぐ理由が不穏です

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むしろ予想通り過ぎてニヤッと笑った私の顔を見た叔母は、肩を竦めて言いました。

「少々お急ぎなのよ。できればすぐにでも婚約式をして、半年後には結婚式をというご希望なの」

「へ?それはまた・・・急なお話ですね」

「なんでもご本人の気持ちが変わらないうちにって・・・逃げる前に決めたいそうよ」

「なるほど・・・もしかしてエルランド伯爵令息は不治の病で余命半年とか?それとも何かの理由で四肢が全部無くなっているとか?本当は男色だけど世間的に結婚させたいとか?至宝のお顔に醜い傷が?あっ!そもそも不能?・・・いやいや、それなら・・・」

「ルシアちゃん、あまり悪い方に考えるのはやめなさい」

「え?でもその程度の条件が無いと不釣り合いだと思いますが」

「・・・まあいいわ。自分の目で確かめなさい。来週伯爵夫妻がこちらに来られるの。領地が国境近くで遠いから、あまり頻繫にはお見えになれないのですって。だからその時に婚約式をしたいそうよ」

「来週婚約式ですか?わたし・・・ドレスが・・・」

「それほど豪華なドレスは必要ないって仰ってるわ。それに体一つで来てくれれば良いってことだし」

「来るって?何処にでしょうか?」

「婚約式が終わったら、ご令息がお住いのタウンハウスで一緒に暮らしてほしいそうよ。領地経営の勉強や、家門のことを学んでほしいって」

「まあそこは、婚約者としては当然かもしれませんが・・・叔母さま?」

「なあに?」

「これって騙されてません?」

「・・・たぶん?」

「・・・」

叔母さまと私は申し訳程度に皿に盛られたクッキーを黙って食べました。
まあ私としては、仮に騙されていたとしても実害がない分心配もないですし、何かのイベント的なドッキリだったとしても楽しめば良いかなぁ~などと吞気に考えておりました。
だって、もしも、もしもですよ?
あのルイス・エルランド伯爵令息をほんの一瞬でもライブ鑑賞できるかもしれないのです。
そりゃ乗るでしょう。
叔母が帰った後、病床の父に話すと、いつものように『任せる』の一言でしたし、学園から帰った弟は(この子は根っからの真面目な性格なので)騙されているに違いないと言いましたが、援助の話をしたら口を閉じました。
思ったより現実的な子です。
自分が付き添うと言いましたが、残念ながらジュリアはまだ未成年です。
何の権限も持っていません。
来年には成人しますので、このお話があと一年遅ければ、間違いなく保護者のような顔をして同行したでしょうね。

ということで、友人に借りたドレスを身に纏い、叔母に連れられてエルランド家のタウンハウスに向かいました。
借り物のドレスを汚さないことだけに集中しておりましたら、出していただいた高級ケーキをうっかり食べ損ねてしまいました。
人生最大の不覚です。

「では、この条件でよろしいですね?」

さすがルイス様のご両親です。
美しすぎます!顔も所作も着ているものも!少しボーっとしてしまいました。
私としたことが・・・見惚れてしまってつい頷いていました。

この小さな頷きが、私を消し去ることになろうとは・・・
あっ、でも後悔はしていませんよ?
援助金をたっぷり下さったので、父の入院も弟の学費も賄えましたし、領地の森林伐採費用も借金も全部払えましたから。
むしろお礼を言いたいくらいですし、このお金は何があっても返しません!

でもやっぱりというか、簡単に予想できたというか、むしろ想像通りで安心したというか・・・ルイス様は婚約式に現れませんでした。

何度も何度も私なんかのためにぺこぺこと詫びてくださったエルランド伯爵夫妻は、本当に良い方たちです。
義理とはいえ、あの方たちの義娘になれるのですから、私は果報者です。

「ではルシアさん。あの子をよろしくね。今日のことは手紙でよく言い聞かせますから。お詫びの品を用意させるわ。ドレスがいいかしら?それとも宝石?」

いえいえ、そんなものは不要です。
いただいても猫に小判どころかネズミに王冠ですから。

このまますぐに領地に戻られるご夫妻の乗った馬車が、小さくなるまで見送った私は、エルランド家タウンハウス執事のアレンさんに連れられて、お屋敷に入りました。

「オースティン様、こちらがお部屋でございます」

「どうぞルシアとお呼びください・・・素晴らしいお部屋ですわ」

「ご不足がございましたら、何なりと私にお申し付けくださいませ、ルシア様」

「ありがとうございます」

「このタウンハウスのご主人様はルイス様ですが、なにぶんにもご多忙を極めておられまして・・・あまりお帰りにはならないのです。ですので使用人の人数も必要最低限でございます。お嬢様の専属メイドなどを新規雇用致しますまで、何かとご不便をおかけするかもしれませんが、何卒ご容赦のほどを」

「分かりましたわ。でも私のために使用人を増やすのでしたらご遠慮申し上げますわ。ご存じの通り私の実家は伯爵家と申しましても、お恥ずかしいほどに困窮しております。ですから私は自分のことは自分でできますの。無駄な出費は必要ございませんわ」

「ああルシア様のような素晴らしい方がルイス様の奥方になられるとは・・・ルイス様が幼少の頃よりお世話して参りました私といたしましても、心から嬉しく存じます」

「ご期待に添えるよう努めますので、よろしくお願い申し上げますわ」

私たちは優雅に礼を交わしました。
というのも、今朝いつも通りふかしたお芋の朝食を頬張りながら、弟のジュリアが真剣な顔で言ったのです。

「ねえさん。悪いことは言わないから、できるだけ猫をかぶるんだよ?早いうちからボロを出したら婚約破棄されちゃうかもしれないからね?」

婚約破棄!
そうなるといただいた支援金を返さなくてはなりません!
それだけは絶対に避けなければ!
父は入院させましたし、弟の学費も卒業までの分を全額先払いしましたし、借金も返しましたから、もうほとんど残っていないのです。
ですから、返しようがございません!
屋敷も領地も売ったとしても半分にもなりませんから、どう足搔いても無理なのです!

ですから私は心に決めました。
あくまでも優雅に上品に、ルイス様の横に並ぶ時には気配を消して影のごとく。
何があっても慌てず騒がず顔に出さず、儚げなご令嬢という仮面を被り続けるのです。
いずれは剝がれる化けの皮ですが、たくさんかぶっていれば正体がバレるまでの時間は稼げるというものです。

今、無駄な足搔きという言葉が浮かんでしまったそこのあなた!
心から反省してくださいませね?
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