せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連

文字の大きさ
4 / 43

4 義両親は優しいです

しおりを挟む
いつものように、朝食はサクッと香ばしい焼きたてのロールパンとサラダとフルーツ、紅茶にはミルクをたっぷり入れて全員でいただきます。
リリさんのお話では、以前はサラダだけでフルーツはたまにしかなかったとか・・・
そんな些細なことで、私の存在を喜んでいただけるのですから安いものです。
ほぼ毎日、ゆったりおしゃべりを楽しんでから、それぞれ持ち場に向かいます。

私もリリさんとマリーさんと一緒に洗濯場に向かおうとしていると、庭師長のノベックさんが慌てて走ってこられました。

「アレン!やべえぞ!ご当主様がこちらに向っておられるそうだ。たった今先触れが来た」

「まじで?」

私はついそう叫んでしまいましたが、最近は皆さん慣れたのか、驚いたりなさいません。
というか、私の言葉遣いより衝撃の急襲ですもんね?
つい三か月前に来られたばかりなのに・・・そう言いながらアレンさんはテキパキと指示をなさいます。

「リリはお部屋のご用意を。マリーは掃除できていないところをチェックして!ランディは夕食メニューの変更!ノベックは奥様の大好きなバラ園の状態を確認してくれ!」

みなさんバタバタと動き始めました。

「あの・・・」

少々パニくっておられるのか、アレンさんは気づいてくれません。
私は少し声を大きくしました。

「あ・・・あの!」

「はい?ああ、ルシアお嬢様、すみません。気づきませんでした」

「いえ、大変ですものね。それで・・・私は・・・私はどうすればよろしいでしょうか」

「そうですね・・・私たちは既にお嬢様の素を受け入れておりますが、ご当主様ご夫妻はまだご存じないでしょうから・・・部屋で刺繡でもなさってます?」

「ああ・・・そうですね。刺繡は結構得意なので・・・では、刺繡をやっていたと見えるように部屋を整えて、掃除のヘルプに行きます。シンプルなワンピースなら普段着として問題ないでしょうから、先に着替えておきますね」

「さすがルシアお嬢様。話が早くてとても助かります。お化粧もしておいてくださいね?」

「ああ、そうですね。長いことしてないから手順を覚えているかしら・・・」

アレンさんは私の言葉に驚いた顔をしてましたが、よほど余裕が無いのでしょう。
ひらひらと手を振って去って行かれました。
それにしても私の本性を受け入れたってどういうことなのでしょうか?
まだ猫を四匹ほど被っているはずなのですが?

私は予定通り着替えてから、ここに来た当初から少しずつ進めている刺繡をテーブルに置きました。
実はもう何日も手に取っていないのですが、さも今までやっていましたを演出するために、あえて無造作に置き、裁縫箱の蓋も開けたままにしました。
我ながら細部までこだわった演出です。

とりあえず伯爵夫妻がお使いになるお部屋と目につきやすい場所を重点的に掃除しているマリーさんに合流します。
せっかく着替えたワンピースを汚さないようにと、私は箒担当に任命されました。
手際よく階段を掃き清めておりましたら、アレンさんが執務室から小走りで出てこられました。

「お嬢様!タイムアップです!」

私は大きく頷くと、大急ぎで箒を片づけて、リリさんとマリーさんに合図を送ります。
二人は阿吽の呼吸で『いつも通りのお仕事をしていますわ』を装いました。
さすがです。
感心しているうちに、玄関の前で馬の嘶きが聞こえました。
私も慌てて玄関に向かいます。
アレンさんに立ち位置を指示され、呼吸を整えてお出迎えです。

ノベックさんが恭しく玄関ドアを押し開き、大きな荷物を運び込みました。
目線で私に合図を送ってくださったので、慌てず騒がず優雅な仕草で馬車の前に進みました。

「お帰りなさいませ、お義父様、お義母様」

それはそれは優しい嫁とはこういう顔か~と言わんばかりの微笑みで駆け寄ります。

「まあ~!ルシアちゃん!元気そうで嬉しいわ~!ルイスとは上手くやっているかしら?」

豊かな領地を治める筆頭伯爵家とは思えぬほどの気さくさで、お義母様が私を抱き寄せて下さいました。
そのすぐ後ろには、やっぱり優しい笑顔が良く似合う元スパダリのお義父様が微笑んでおられます。

そのあまりの美しさに、学生時代に何度かお見かけしたルイス様のお顔を思い出したような気がします。
お義母様の熱い抱擁の後、私は研鑽に研鑽を重ねたカーテシーをお二人に披露します。
それを見たお義父様は目を細め、お義母様は小さく拍手をしてくださいました。
何事も見た目が肝心です。

「やあ、未来のお嫁さん。元気そうだね?どうだい?ここでの暮らしは慣れたかな?」

「はい、お義父様。みなさんとても良くしてくださって、何の不自由もなく過ごさせていただいておりますわ」

「それは何よりだ。ところで愚息はきちんと婚約者に尽くしているかい?毎日花を買って帰る?プレゼントは?あいつは学生時代からモテすぎて女性に対して苦労していないから心配なんだ」

「うっ・・・そ・・・それは・・・」

「ん?どうしたのかな?」

義両親はニコニコ顔のままで私の顔を覗き込んできます。
はっきりいってバツが悪いです。
正直に言うと婚約者様の立場がありませんし、噓を吐くのは心苦しいです。
数秒迷いましたが、私は自分に正直になることにしました。

「ル・・・ルイス様とは・・・まだお会いできて・・・いません・・・」

「「!!!!!!!!!!」」

お二人は固まってしまいました。
そりゃそうなりますわな、当然のリアクションでしょう。

「それは・・・どういう意味・・・かな?」

お義父様が物凄く頑張って仰いました。

「いまだに一度もお帰りに・・・ならないのです」

その瞬間カチっという音を私の鼓膜が拾いました。
あっ!大変です!お義父様が腰の短剣の鯉口を切っておられます!
刃傷沙汰はごめん被りたいです!

「お・・・お義父さま・・・どうか・・・どうか・・・」

私は必死でお義父様に縋りついて言いました。

「私は大丈夫ですから。ルイス様はとても頑張っているのです。ですからどうか、短剣を収めてくださいませ!」

お義父様は言った通りにしてくださり、その手で私を抱きしめて下さいました。
背中はお義母様が優しく撫でてくださいます。
こんな温もりは何年ぶりでしょう・・・良い気持ちです。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません

綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」 婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。 だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。 伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。 彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。 婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。 彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。 真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。 事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。 しかし、リラは知らない。 アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。 そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。 彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。 王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。 捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。 宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――? ※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。 物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...