転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連

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「サリー!」

 サム隊長は邪神から目を離さず、サリーの名を叫ぶ。
 ほぼ同時にウサキチが邪神のマントを切り裂いた。

「うおりゃぁぁぁぁぁ」

 腹の底から湧きだしたような声に、サリーはハッと我に返った。

「ガラスケース出てこい! えいっ!」

 人が一人すっぽりと入りそうなガラスケースがベッドサイドに現れる。
 その横では、邪神がウサキチの剣を受け止めていた。
 サムが剣を鞘に収め、ガラスケースを持ちあげた。

「っく……重いぞ……サリー」

「あ……ごめん」

 ガラスじゃなくて強化プラスチックにするべきだったとサリーは思ったが、後の祭りだ。
 後はサムの火事場のバカ力に期待するしかない。

「とわぁぁぁぁぁぁ!」

 ベッドの上でウサキチの剣を受け止めている邪神に、サムが渾身の力でガラスケースを被せた。

「少し出たぞ、シューン」

 ウサキチが咄嗟に避けながら叫んだ。

「任せてくれ」

 シューンが駆け寄り、集合体から分離され逃げ惑う黒い粒を吸い込んだ。

「ぐふっ」

 シューンの顔色が一瞬で黒くなる。

「シューン!」

 サリーが駆け寄ろうとすると、マーカスが止めた。

「邪魔をしてやるな」

 サリーがギュッと唇を嚙みしめた。
 脳の中では、相変わらず王宮で待機しているメンバーの声援が響いている。
 叫び過ぎたのだろうか、イースの声は聞こえなくなっていた。

「大丈夫だ。全て拾ったぞ」

 しかし、ガラスケースの下はベッドだ。
 絶え間なく逃れようとする黒い粒子が流れ出ている。
 せめてタイルの上ならとサリーは悔やんだが、二度目は無いのだ。

「シューン、横から出たわ」

 代わって私が吸い込んでやりたい。
 サリーはマーカスの手を振り解こうと藻搔いた。

「ダメだ。サリー、シューン殿下の邪魔をするな」

 サリーの体から力が抜ける。

「ありがとう、マーカス。そこでママを止めておいてね」

 シューンがさっきより黒んずんだ顔を向けて、ニコッと笑った。
 
「瞬ちゃん! ママがいるからね! ママはここにいるからね!」

 サリーは叫ぶ以外に手が無かった。
 ふと見るとサムが床に膝をついている。
 サルーン伯爵たちを連行していこうとしていた近衛兵士が駆け寄った。

「来るな! 早く連れていけ!」

 サムが怒鳴る。

「はい!」

 訓練の賜物なのか、条件命令は絶対とばかりに、兵士たちは部屋を出て行く。
 サリーは真っ黒に変色しているサムの肩口から目が離せなかった。

「漏れたやつらにやられたようだ」

 サムの腕を喰いつくしたのか、黒い粒子たちがサリーとマーカスの方に近寄ってきた。

「下がれ!」

 ウサキチがサリーたちの前に飛び出した。
 上着を脱ぎ捨て大きく息を吸うウサキチ。
 すると、先ほどまでサムの腕に纏わりついていた黒い粒子が、どんどんと吸い込まれていく。
 それを見たシューンは、ガラスケースの方に近づいた。

「これで終わりだ。一粒たりとも見逃さないぞ」

 シューンがベッドの上に上がり、漏れ出してくる粒子を吸い込み始めた。
 さっきまで空中に漂っていた粒子を、全て肺の中に収めたウサキチは、シューンの横に並ぶ。

「今回は小さいし、半分ずついけるから余裕だぞ」

「ああ、それにしても相変わらず不味いな。さっきのサンドイッチを戻してしまいそうだ」

「拙い。でも俺は意地でも戻さんぞ。さっきの旨いサンドイッチは全体に消化してやる」

「うん、僕も」

 二人は競うように黒い粒子を飲み込んでいく。
 シューンの腹がどんどん膨れ、ウサキチのそれも同様だ。

「もう少しだ」

 ウサキチがシューンを励ます。
 しかし、返事がない。
 シューンはすでに意識を無くしているようだ。
 勇者としての使命感だけで吸い続けているのか、シューンは真っ黒な顔で白目をむきながらも、吸い込むことをやめていなかった。

「シューン、もういいよ。もう止めなよ」

 サリーの言葉にウサキチが応える。

「今止めたら、また勇者が誕生する事態になるぞ。止めるな。励ましてやれ」

 サリーは小さく頷いた。
 マーカスはサリーの肩をしっかりとホールドしたまま、号泣している。

「耐えろ! 頼む……耐えてくれ」

 サリーは我が子が死に向かおうとしていることが理解できずにいた。

「瞬? ねえ、瞬……もう止めようよ。もう十分だよ」

 サリーの声は嗚咽に紛れ届かない。

「瞬……」

 ふとマーカスの力が抜けた。
 振り返るとサムがマーカスをホールドしている。

「いかせてやれ……見ているだけなど惨すぎる」

 マーカスはその場に跪いてボロボロと泣いていた。
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