愛すべきマリア

志波 連

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 夕食の後、アラバスがカードゲーム室で飲もうとカーチスを呼び止めた。

「珍しいね、兄上が僕をカードゲームに誘うなんて」

「たまには良いじゃないか。お前も狸狩りの仲間に入れてやる」

「狸狩り?」

 部屋に入るとアレンとトーマスが先に飲み始めていた。

「ああ、メンツが足りなかったのか。四人ということはダウトでもやるの?」

 アラバスがニヤッと笑いながらカーチスにグラスを渡した。

「ダウトかぁ。昔はよくやったな。まあ演技をするのだから同じようなものだ。しかし今回のは少々厳しいぞ」

「え? 嫌な予感しかしないんだけど……」

 テーブルに置かれていたカードをさっさと片づけたアレンが、開けた場所にスコア記入ボードを置いた。

「いいかい? これがアラバスで、これが君だ」

 淡々とビリヤード用のチョークで丸印を書いていく。
 説明を受けながら『今日はお菓子じゃないんだなぁ』などと現実逃避をしていたカーチスが、絶叫のような悲鳴を上げたのは、それから数分後だった。

「わかったか?」

「言葉としては理解したけれど、やると了承したわけではないからね!」

「往生際の悪い奴だ」

 アラバスが悪い顔で弟を見た。

「池に嵌ったお前を助けてやったじゃないか」

 アレンの言葉にむきになるカーチス。

「それは五歳ころの話だろ?」

「初等部の時、読書感想文を代筆してやっただろ?」

 追い打ちをかけたのはトーマスだ。

「ぐぬぅぅぅ……」

「諦めろ」

 バッサリと終わらせたのはアラバスだった。

「それにしてもさぁ……狸を追う役なんて僕じゃなくても良いじゃん」

「何言ってるんだ。猟師が獲物を追わなくてどうする?」

 頭脳でも体力でも話術でも勝てない兄に逆らうのは無理だと悟ったカーチスは、肩をすぼめて溜息を吐いた。

「僕にできると思う? 恋愛経験なんてほぼ皆無だぜ? 無理じゃない?」

「いや、カーチスにしかできないよ。俺たちが学園に乗り込むわけにはいかないだろう?」

「そりゃそうだけど……頑張ったら何か良いことある?」

 カーチスの最後の抵抗をまるっと無視した三人は、具体的なスケジュールを組み始めた。

「明日から始めるの? 僕の心の準備は?」

「こういうことは勢いだ。時間を空けると虚しくなるだけだぞ?」

 今回の作戦のキーマンはカーチスだ。

「必要経費は俺が負担する。無理はするな。でも絶対に成功させろ」

 無茶振りだという言葉を飲み込んで、カーチスは仕方なく頷いた。
 そして翌朝、早めに登校したカーチスは重たい足取りで教室へと入っていく。

「やあ! おはよう王女様。あれ? なんだか少し見ない間に雰囲気が変ったね」

 驚いた顔でカーチスを見上げたラランジェ王女の頬にスッと朱がさした。

「お、おはようございます。カーチス王子殿下。今日は登校なさったのですね」

「うん、少し忙しくてね……僕もいろいろ大変なんだよ。同じ立場のあなたなら、僕の辛さもわかってくれるかもしれないね。どう? ランチでも。ちょっと愚痴を聞いてよ」

「わ、わ、わたくしでよろしければお伺いいたしますわ」

 益々赤くなっていく王女の頬をぷにっと指先で優しく押して、極上の笑みを残して自席に向かうカーチス。
 その様子を見ていたクラスメイト達はざわついていた。
 そしてランチタイムになり、まだ席に座っているラランジェ王女の横に立ったカーチス。

「ランチに行こう。テラス席より個室が良いと思って予約してあるんだ」

 カーチスの手に自分の手を預けたラランジェ王女が、どぎまぎとしながら頷いた。
 個室に入ったカーチスは、メニューを見ながらスマートに注文していく。
 カーチスの護衛とラランジェの侍女と護衛は部屋の隅に置かれたテーブルに落ち着いた。

「僕たちだけというわけではないから問題ないよね? もし僕と噂になるようなら、無理やり誘われたのだと言ってくれて構わないよ」

「そんなこと……でも、お気遣いに感謝いたしますわ」

 学園のランチとは思えない料理が次々に運ばれ、ラランジェ王女は目を輝かせている。

「デザートはレモンチーズケーキにしたけれど良かったかな? 僕の好物なんだ。あなたにもそのおいしさを知って欲しいって思ってね」

「まっ……まあ!」

 うわずった声で応じるラランジェ王女を見ながら、この狸娘があの兄王子と並び立った姿を想像したカーチスは、噴き出しそうになるのを必死でこらえている。

「そろそろ話しても良いかな?」

 熱い紅茶が運ばれてきた頃合いでカーチスが本題に入った。
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