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66 最終話
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そして一年の月日が流れた。
「どうもありがとうございました」
喪服の夫婦が参列者に礼を言っている。
泣きつかれているのか、二人の目は酷く落ち窪んでいた。
「伊藤さん……この度は……」
「ああ、藤田。忙しいのに悪いな」
「思ったより早かったですね。残念です」
「ああ、残念だ。残念だが苦しまなかっただけ救われたよ。静かに逝ったんだ。眠るように静かに……俺の腕の中で……優しい子だよ」
伊藤の横で妻が泣き崩れ、それを藤田の妻が支えた。
「二人で看取ってやることができた。ずっと毎日一緒にいられたんだ」
「そう……ですか……」
号泣する藤田の後ろから声がした。
「伊藤……言葉が無いよ」
「課長、お忙しいのにありがとうございます」
「いや、お前も辛いだろうが、奥さんのことちゃんとケアしてやれよ」
「ええ、二人ですから……もう二人だけですから……」
「ああ、そうだな。それにしても、どこで知るんだろうな。すごい花じゃないか」
「ええ、驚きましたよ」
泣き止まない藤田の肩を支えながら、課長と伊藤が供花の列を眺めた。
親族や勤務先からの花の横に、五組の供花が並んでいる。
「長谷部千代と市場正平。そして烏丸小夜子か。お? インドネシア大使館からも来てるじゃないか。後はサム・ワン・チェンか。なんともちぐはぐと言うかインターナショナルと言うか……」
「不思議な縁ですよね。うちの息子の顔を知っているわけでは無いのに、元華族や大富豪、果ては大使館とシンガポールからだ。あの宝石が繋いでくれたのかな」
「ああ、消されてしまった過去はもう戻らないよな……戻らないといえば、結局あの宝石ってどうなったんだろうな」
「どうでしょうね。もしかしたらエトワールの首輪にぶら下がっているかもしれませんね。妻の慰めになるなら猫でも飼ってみようかな」
「黒猫?」
「それも良いですね」
「……伊藤、落ち着いたら戻ってこい」
「はい、よろしくお願いします」
もう二度と痛みを感じなくて済む世界に旅立った息子を見送るように見上げた空には、まるで天国へ続く階段のような白い雲が一筋流れていた。
おしまい
「どうもありがとうございました」
喪服の夫婦が参列者に礼を言っている。
泣きつかれているのか、二人の目は酷く落ち窪んでいた。
「伊藤さん……この度は……」
「ああ、藤田。忙しいのに悪いな」
「思ったより早かったですね。残念です」
「ああ、残念だ。残念だが苦しまなかっただけ救われたよ。静かに逝ったんだ。眠るように静かに……俺の腕の中で……優しい子だよ」
伊藤の横で妻が泣き崩れ、それを藤田の妻が支えた。
「二人で看取ってやることができた。ずっと毎日一緒にいられたんだ」
「そう……ですか……」
号泣する藤田の後ろから声がした。
「伊藤……言葉が無いよ」
「課長、お忙しいのにありがとうございます」
「いや、お前も辛いだろうが、奥さんのことちゃんとケアしてやれよ」
「ええ、二人ですから……もう二人だけですから……」
「ああ、そうだな。それにしても、どこで知るんだろうな。すごい花じゃないか」
「ええ、驚きましたよ」
泣き止まない藤田の肩を支えながら、課長と伊藤が供花の列を眺めた。
親族や勤務先からの花の横に、五組の供花が並んでいる。
「長谷部千代と市場正平。そして烏丸小夜子か。お? インドネシア大使館からも来てるじゃないか。後はサム・ワン・チェンか。なんともちぐはぐと言うかインターナショナルと言うか……」
「不思議な縁ですよね。うちの息子の顔を知っているわけでは無いのに、元華族や大富豪、果ては大使館とシンガポールからだ。あの宝石が繋いでくれたのかな」
「ああ、消されてしまった過去はもう戻らないよな……戻らないといえば、結局あの宝石ってどうなったんだろうな」
「どうでしょうね。もしかしたらエトワールの首輪にぶら下がっているかもしれませんね。妻の慰めになるなら猫でも飼ってみようかな」
「黒猫?」
「それも良いですね」
「……伊藤、落ち着いたら戻ってこい」
「はい、よろしくお願いします」
もう二度と痛みを感じなくて済む世界に旅立った息子を見送るように見上げた空には、まるで天国へ続く階段のような白い雲が一筋流れていた。
おしまい
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