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76 隠し子
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その男が国久と春乃の前に跪いた。
「わしらは確かに鬼の子孫です。ですが、もう血は薄まってしまって何の力も無いのですよ。でもね、何年かに一度生まれるんですよ。昔の鬼の力を持った娘がね」
二人がよねこの方を見た。
よねこは虚ろな目をしたまま地面を見つめているだけだ。
「わしの姉がそうじゃったです。でもね、宮に籠っとる間に男ができましてね」
国久がニヤッと笑った。
「高橋の隠し子か」
男が頷いた。
「へぇ、高橋の正晴というお方ですわい。よねこはその方と姉の子です」
「あの隠し子はその娘に会いに来とった言うわけか」
「へぇ、その通りです。父親と毛利の殿様には子供がいることは内緒なんだそうですわい。だからなかなか会いにも来れんのでしょう。汚れ仕事ばかりであちこち行かされると愚痴を溢しなさったですけぇ」
「フンッ! なるほどそれで流星か」
国久が鼻を鳴らして皮肉な表情を浮かべた。
「尼子の城に盗みに行ったら、どうやら道庭の家におるいうことで。そこに行ったら今度は山におる言うじゃないですか。そこで村を襲うことになたそうですわい」
あの襲撃のカラクリを知った春乃は、怪我をした杣人の顔を思い出して怒りに震えた。
「眠っとるはずじゃった鬼のような大男が起きていたことで、計画は崩れたのじゃそうです。それでたたら場におびき寄せることになったのじゃと聞いとります」
国久がギロッと睨んだ。
「ここに案内したのはお前か」
「へぇ、わしとここに残った者たちですわい。わしはよねこの叔父じゃけぇ協力しましたが、あとの男たちはみんな人質を取られて仕方なくやったことですけぇ」
「そんなんわしらには何の関係もないわい」
男が困ったような顔で俯いた。
「ええけぇ、全部喋れや。他にも何か仕込んどるのじゃろう?」
「喋ったら村人は許してもらえますか?」
「内容によるのぉ」
男はさらに困った顔になり、助けを求めるように春乃を見た。
「今、西に向こうとる人たちは森の中で迷わせることになっとります。まさかここまでうまくいかんとは思うとりませんでしたけぇ、最後の手段いうやつですよ」
後ろでプッと佐助が噴き出した。
「お前らはホンマにわしらを舐め腐っとるのぉ。杣人が森で道を失うわけが無かろうが」
男が小さく頷いた。
「けばけば草ですよ。あれを燃やして迷わせるんじゃ」
国久が顔を顰めた。
「森ごと焼くのか? お前たちも困るのではないのか?」
「そりゃ困るけんど、毛利の兵に切られて死ぬんはもっと困るけぇ」
「バカかお前らは。ここにはもう砂鉄は無いんじゃ。いずれ捨てねばならん土地じゃろうが。なんで毛利にしがみつくんじゃ」
「しがみ付いとるわけじゃないですが、たたら場の神さんを返してもらわんといけんけぇ」
「たたら場の神? なんじゃそれは」
「勾玉と鏡です。あれが無いと鉄は湧いてこんのです」
国久と春乃が顔を見合わせた。
はぁっと深いため息をついて国久が声を出す。
「そんなもんで鉄が湧いてくるなら、誰も戦などする訳が無かろう?」
「ホンマですけぇ!」
呆れたように眉をあげる国久の後ろから声がした。
「捕まえましたよ」
腕から血を流している伊十郎だ。
「高橋の隠し子か。どんな奴じゃった?」
振り返りもせず国久が聞いた。
「体だけは大きな男ですわい。佐次郎とええ勝負じゃ」
「そんなにか!」
驚いて振り向く国久の足元に、巨体の男が転がった。
「大きなだけで肝はこんまい(小さい)男ですわい。佐次郎のように気を失っとったら運べんかったでしょうが、脅せば自分で歩いてくれましたけぇ楽なもんです」
「しかしお前たちはよく無事じゃったな」
伊十郎がニヤッと笑った。
「杣人衆がみんな来てくれたんですよ。どうやら逃げたたたら場衆が助けを求めたようで、森に入ったらすでにたくさんの杣人たちが待ち構えておりました」
後ろで佐助がクスッと笑っている。
それを聞いたよねこの叔父はがっくりと膝をついた。
「よねこ。もう終わりじゃ。鬼の血はお前で最後じゃ。腕を抜け」
頷いたよねこがゆっくりと佐次郎のわき腹から腕を抜き始めた。
「わしらは確かに鬼の子孫です。ですが、もう血は薄まってしまって何の力も無いのですよ。でもね、何年かに一度生まれるんですよ。昔の鬼の力を持った娘がね」
二人がよねこの方を見た。
よねこは虚ろな目をしたまま地面を見つめているだけだ。
「わしの姉がそうじゃったです。でもね、宮に籠っとる間に男ができましてね」
国久がニヤッと笑った。
「高橋の隠し子か」
男が頷いた。
「へぇ、高橋の正晴というお方ですわい。よねこはその方と姉の子です」
「あの隠し子はその娘に会いに来とった言うわけか」
「へぇ、その通りです。父親と毛利の殿様には子供がいることは内緒なんだそうですわい。だからなかなか会いにも来れんのでしょう。汚れ仕事ばかりであちこち行かされると愚痴を溢しなさったですけぇ」
「フンッ! なるほどそれで流星か」
国久が鼻を鳴らして皮肉な表情を浮かべた。
「尼子の城に盗みに行ったら、どうやら道庭の家におるいうことで。そこに行ったら今度は山におる言うじゃないですか。そこで村を襲うことになたそうですわい」
あの襲撃のカラクリを知った春乃は、怪我をした杣人の顔を思い出して怒りに震えた。
「眠っとるはずじゃった鬼のような大男が起きていたことで、計画は崩れたのじゃそうです。それでたたら場におびき寄せることになったのじゃと聞いとります」
国久がギロッと睨んだ。
「ここに案内したのはお前か」
「へぇ、わしとここに残った者たちですわい。わしはよねこの叔父じゃけぇ協力しましたが、あとの男たちはみんな人質を取られて仕方なくやったことですけぇ」
「そんなんわしらには何の関係もないわい」
男が困ったような顔で俯いた。
「ええけぇ、全部喋れや。他にも何か仕込んどるのじゃろう?」
「喋ったら村人は許してもらえますか?」
「内容によるのぉ」
男はさらに困った顔になり、助けを求めるように春乃を見た。
「今、西に向こうとる人たちは森の中で迷わせることになっとります。まさかここまでうまくいかんとは思うとりませんでしたけぇ、最後の手段いうやつですよ」
後ろでプッと佐助が噴き出した。
「お前らはホンマにわしらを舐め腐っとるのぉ。杣人が森で道を失うわけが無かろうが」
男が小さく頷いた。
「けばけば草ですよ。あれを燃やして迷わせるんじゃ」
国久が顔を顰めた。
「森ごと焼くのか? お前たちも困るのではないのか?」
「そりゃ困るけんど、毛利の兵に切られて死ぬんはもっと困るけぇ」
「バカかお前らは。ここにはもう砂鉄は無いんじゃ。いずれ捨てねばならん土地じゃろうが。なんで毛利にしがみつくんじゃ」
「しがみ付いとるわけじゃないですが、たたら場の神さんを返してもらわんといけんけぇ」
「たたら場の神? なんじゃそれは」
「勾玉と鏡です。あれが無いと鉄は湧いてこんのです」
国久と春乃が顔を見合わせた。
はぁっと深いため息をついて国久が声を出す。
「そんなもんで鉄が湧いてくるなら、誰も戦などする訳が無かろう?」
「ホンマですけぇ!」
呆れたように眉をあげる国久の後ろから声がした。
「捕まえましたよ」
腕から血を流している伊十郎だ。
「高橋の隠し子か。どんな奴じゃった?」
振り返りもせず国久が聞いた。
「体だけは大きな男ですわい。佐次郎とええ勝負じゃ」
「そんなにか!」
驚いて振り向く国久の足元に、巨体の男が転がった。
「大きなだけで肝はこんまい(小さい)男ですわい。佐次郎のように気を失っとったら運べんかったでしょうが、脅せば自分で歩いてくれましたけぇ楽なもんです」
「しかしお前たちはよく無事じゃったな」
伊十郎がニヤッと笑った。
「杣人衆がみんな来てくれたんですよ。どうやら逃げたたたら場衆が助けを求めたようで、森に入ったらすでにたくさんの杣人たちが待ち構えておりました」
後ろで佐助がクスッと笑っている。
それを聞いたよねこの叔父はがっくりと膝をついた。
「よねこ。もう終わりじゃ。鬼の血はお前で最後じゃ。腕を抜け」
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