泣き鬼の花嫁

志波 連

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46 狙い

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 怯える男たちの前にしゃがみ、杣人がゆっくりと声を出した。

「あんたが昨日話しとったんは本当の事か?」

 聞かれた男がポカンとした顔をする。

「ほ……本当ですよぉ」

 杣人がニヤッと笑う。

「ワシとこいつは政久様に矢を射た者の気配を知っとる。夜目が利くけぇ姿かたちも分かっとるんじゃ。お前の村で大口を叩いとる男はどんな男なんじゃ? 言うてみぃや」

 男がコクコクと顔を縦に振り、閊えながらもなんとか説明し始めた。

「背格好はワシと同じくらいじゃ。瘦せてはおるが腕は太い。特に右腕が異常なほど太いんじゃ。目が獣のように光っておってのぉ。夜に出会うと恐ろしいくらいなんじゃ」

「ふぅん。それから?」

「こ……言葉がちいとわしらとは違うとります。なんと言うか……すこぉし違うんですわい」

「ほう?」

「それと連れはおらんようで、毛利の雑兵を何人か従えとります。でもあまり好かれてないような感じで、時々一人だけでおらんようになることがあるんです」

「一人でじゃと?」

 村長が眉間に皺を寄せた。

「へぇ、月のうちの何日かはおらんようになりますが、特に決まった日というわけでは無いです。恐ろしいけぇどこに行くんかは確かめたことは無いですよ」

 中年の杣人が立ちあがり、その男の胸倉を掴んで立たせた。
 その腕は太く、一度掴まれたら用意に逃げ出すことなどできるものではない。
 その間にも他の杣人数人が、転がっているたたら場衆の顔を覗き込んで、何やら小声で話している。
 そちらの方をチラッと見た中年の杣人が、何かを確認するように視線を向けた。
 目が合った男が首を横に振る。

「おらん(いない)ねぇ。そいつだけじゃ」

 胸倉を掴まれた男の肩がビクッと揺れた。
 宥めるように村長が声を出す。

「そいつは縛り上げて木にでも括りつけておこうわい。お前はどうやら噓つきのようじゃで、他の者に聞くしかあるまいの」

 男が顔を伏せて唇を嚙みしめた。
 中年の男がそのまま外へと連れ出し、村長の家の前にある大きな樫の木に括りつける。
 逃亡防止のためだろう、右肩と左股関節を外す念の入れようだ。

「さあ、まだおるんか? おるなら教えてくれ。ワシらが必ず排除しちゃるけぇ安心して喋りんさい」

 右目の上に大きなたんこぶを作っている男が痛みに顔を顰めながら、なんとか起き上がって声を出した。

「あと二人おりますよ。あいつらは森の中で隠れとるのじゃと思います。それに、この村に来たのは偶然じゃありませんけぇ」

 村長が聞く。

「偶然じゃない? この村を狙って来たいうことか? 理由は?」

「馬ですよ。あの大きな馬を狙っとるんです。尼子の城で見かけて欲しくなったのだと言うとりました。いざ盗りに行ったらもうおらんで、探してみたらここにおったのだそうです」

「流星か……しかしそいつは尼子の城にも入ったということか?」

 男たちが顔を見合わせた。

「ワシらはようわからんです。ワシらの村がたたら場じゃいうのは本当です。年寄りやら女房やら子供を質にとられて……従うしかなかったのです」

 中年の男が頷いた。

「お前らの動きはあまりにも素人じゃったけぇ、何か理由があるんじゃろうとは思うとったがそういうことか。あと 二人と言うたか?」

「へい」

 村長の後ろに座っていた老人が杖を掲げた。

「場所はわかっとる。源泉池の上にある祠じゃ。さっき森に逃げた時出くわしてのぉ。あそこなら見つからんけぇそこへ隠れろいうて教えたんじゃ」

 杣人たちが声を出して笑い始めた。
 たたら場衆は何が何やらさっぱりわからないという顔で戸惑っている。

「さすがじゃのぉ。涼しい顔してやりなさるわい」

 若い杣人がそう言うと、村人たちがどっと笑った。
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