泣き鬼の花嫁

志波 連

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48 朝風呂

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 二人がまだ抱き合ったまま布団にくるまっていた時、流星がブルブルッと鼻を鳴らした。

「なんじゃ?」

 素っ裸のまま佐次郎が立ち上がる。
 つられて起きた春乃が慌てて着物に手を伸ばした。

「佐次郎さま、早うにすまんこって。起きておりなさるか?」

 佐次郎が褌だけを締めてガラッと戸を開けた。

「起きとるよ。何事か?」

「おおっ! 早うにすまんこってすのぉ。昨日のお姿が夢じゃないかとじい様が言いだしてのぉ。見に行ってこいと煩いんじゃ。それにしても……本当に良かったです」

 心から嬉しそうな顔をしたのは、戦場からホッタイソウを獲りに行った若い杣人だ。

「なんじゃ? じいさま方は相変わらずの心配性じゃのぉ。ほれ、この通り元気なもんじゃ」

「ははは! それなら安心ですわい。それとこれ、食べてください。今朝がた獲ったもんじゃけ茹でて食えば旨いですよ」

 男が差し出したザルを受け取った佐次郎がニヤッと笑った。

「もうこんな時期か。朝どれとはまた大そうなご馳走じゃ。ありがたく頂戴仕る」

「刺身でも食えるが、灰汁が強いけぇね。御新造さんにはきつかろうて。茹でて山椒の実と和えてもうまいし、そのまま汁の実にしても旨いけぇね」

「ああ、そうしよう」

 まだ土から顔も出していない筍の若芽を受け取った佐次郎に、ふと顔を寄せる男。

「あとでちょいと」

 佐次郎は声には出さず頷いて見せた。

「では、ワシはこれで。起こしてしもうてすまんかったです」

「いやいや。じい様にもよろしく伝えてくれ」

 流星の場体の影で着替えを終えた春乃がおずおずと声を出す。

「何かあったん?」

「いや、俺がまた寝てしもうたんじゃないかと心配したようじゃ。ほれ、これを貰った」

「あれぇ、うぶ竹じゃないかね。こりゃご馳走じゃねぇ。佐次郎さまの好きな木の実和えにしようかねぇ。それともこれで若竹飯でも炊こうかねぇ」

 嬉しそうにザルを抱えた春乃を抱き寄せる佐次郎。

「春乃……ああ春乃。お前はなんと可愛らしいのじゃ。それが俺の嫁とはのぅ」

 春乃がイヤイヤをするように佐次郎の体を押し返した。

「お天道様が見ていなさるよ」

「見せつけてやればよかろう?」

「恥ずかしいけぇ。佐次郎さま、朝風呂に入っておいでなさいや。その間に朝餉の用意をしておくけぇ」

 佐次郎が頬を膨らませた。

「嫌じゃ。お前も一緒に入るなら入る」

 春乃が熟れた山ブドウのように頬を染める。

「さあ、春乃。朝風呂じゃ。一緒に入るぞ」

「……あい」

 板の間にザルをおいて、干していた手拭いを取り込む。
 佐次郎は桶に糸瓜で作ったあかすりを入れて、軽々と春乃を抱き上げた。

「自分で歩けるよぉ」

「いや、昨日は随分無理をさせてしもうた。本当は立っているのも辛かろう? 俺がきれいに清めて揉んでやるからじっとしておれ」

 春乃が佐次郎にしがみついた。
 一方、小屋から駆け戻った若い男が村長の家の戸を叩いている。

「何ごとじゃ?」

「佐次郎さまはお元気じゃったですわい。お幸せそうな顔をしていなさったですよ」

「そうか、それは良かった。できればこのままにして差し上げたいが……」

 二人は黙ったまま視線を下げた。
 振り返ると、土間に寝かされているたたら場衆が起き上がっている。

「あの男は?」

「不思議と生きておりましたよ。罠にかかっておれば上々ですがのぉ」

「後で確認しておいてくれ」

 若い男は頷いて出て行った。
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