泣き鬼の花嫁

志波 連

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65 決戦準備2

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「ここにはわしとよねこと息子が残りましょう」

 老婆を支えていた男がフッと大きく息を吐いた。

「分かりました。どうせ無くなっとった命ですけぇ。恩人のためなら何でもしますわい。ここでやらにゃあ、たたら場の名折れじゃけね」

 佐助が後ろから声を出した。

「一刻を争いますけぇ。後は任せて下され」

「わかった。後は頼むぞ。必ず迎えに来る」

 伊十郎たちが小屋を出た。
 流星が荒い鼻息で佐次郎の髪を揺らした。
 たたら場の男が老婆に頷いて見せてから佐助に言う。

「若いもんで山の宮に移しましょう。あそこなら大丈夫じゃ。なんせ鬼の棲み家じゃし、よねこの生まれた場所ですけぇ」

「そうか、ではそのように頼む」

 頷いた男が走り去った。
 佐助が残った老婆に声を掛ける。

「食いもんはあるか? それと佐次郎さまには水を頼む」

「分かりましたけぇ、心配せんで寝とってください」

 老婆が背負っていた風呂敷をおろすと、中から川魚の干物を取り出した。

「握り飯もありますけぇ」

「すまんのぉ」

 老婆が佐助と曾我衆の前に干物と握り飯を置いた。

「そいつは手を失くしたけぇ、悪いが食わしてやってくれろ」

「へえ、分かりました」

 老婆が握り飯を差し出すと、曾我衆の目からぽろぽろと涙がこぼれた。

「ばあ様……すまんこってす」

 老婆は何も言わず、淡々と握り飯を口の前に差し出した。
 佐助がよねこに聞く。

「怖くはないか?」

 首を振るよねこ。

「そうか、お前はかわいいのぉ」

 静かな時間が流れる。
 どこからかケンケンと雉の鳴き声が聞こえた。
 
「連れてきましたけぇ」

 たたら場の男が小屋に戻ってきた。
 数人の若い男と、数人の老爺が後に続く。
 佐助がそれらの顔を見回した。

「先に言うておく。わしは杣人の村からお前たちを助けに来た佐助という者じゃ。そこに寝ておられるのは佐次郎さまというお武家様じゃ」

 男たちは神妙な顔で並んで座った。

「佐次郎さまはお前たちを助けるために怪我をなされた。そのことは理解しておるか?」

「もちろんですじゃ。心から感謝しておりますけぇ」

 頷く佐助。

「わしはええけぇ(いいから)、佐次郎さまだけでも匿ってくれぇ」

 よねこの叔父が口を開いた。

「肺の怪我にもけばけば草は効きますけぇ。燃やして煙を吸うんですわい。任せてください」

 佐助は眉を下げた。

「いや、わしはもうええけぇ。その分を佐次郎さまに回してくれろ」

 男たちが顔を見合わせた。
 一人の老爺がぼそぼそとした声を出す。

「けばけば草ならたんとありますけぇ、心配は要らんですよ。それよりあなた様が死んだら、その佐次郎さまというお武家様が悲しまれましょう。お二人とも助からにゃダメですけぇ」

「そうか、そう言うてくれるか。ありがたいことじゃ。それならこいつも助けてやってくれ」

 そう言って佐助は曾我衆の方へ顎をしゃくってみせた。

「こんお人は……敵でしょうに」

「敵でも味方でも同じ人間じゃけ。それぞれ事情があって当たり前じゃろ? 戦が終わったら争うんも終わりじゃけ。佐次郎さまならそう言いなさるよ」

 たたら場衆が不思議そうな顔をした。

「そういうもんですかいのぉ」

「ああ、佐次郎さまはそういうお人じゃけ」

 納得したのかしていないのか、たたら場衆達は互いの顔を見て頷いた。

「そういうことなら分かりやした。腹ごしらえをしたら宮に行きましょうわい。戸板にのせて運びますけぇ心配は要らんですよ」

「すまんのぉ」

 若いたたら場衆が声を出す。

「わしらは一緒に残りますけぇ。何なりと言うてくださいねぇ。後の者はあなた様の村にご厄介になりますけぇ。よろしく頼んます」

 男たちが立ち上がって準備を始めた。
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