45 / 97
45
しおりを挟む
すみません 予約投稿の設定ミスをしていました。申し訳ありませんでした。
シェリーは周りの気配を伺いながら静かに目を開けた。
しかし、本当に自分が目を開けたのかどうかわからないほどの暗闇に慄く。
ここで騒いでは悪手だと腹を決め、じっと耳を澄ませると少し離れている場所で人の息遣いがした。
見張りの者かそれともレモンか……
判断に迷ったシェリーはまだ覚醒していないふりを決め込んだ。
身じろぎもせず全神経を耳に集中する。
先ほど感じた人の気配からコソコソと衣擦れの音がした。
ドレスのレースが擦れ合う音だ。
「レモン?」
「妃殿下! ご無事ですか」
「ええ、私は無事よ。あなたは? 酷く殴られていたから心配だわ」
「あの程度のことは何でもありません。ただ武器を奪われてしまいました。申し訳ございません」
「命があればそれでいいわ。私はなぜだか結婚指輪を奪われたの。動ける? 私は縛られているみたいで動けないのよ」
「私もです。後ろ手に拘束され、足首も縛られています」
「言うとおりにしたのに酷いわね」
「殺されなかっただけ良かったかと」
「そうね……ここはどこかしら。心当たりがある?」
「かなり長時間移動したのは確かですが、ここはどこなんでしょう……急なことだったので何も手掛かりを残すことができませんでした」
「仕方がないわ。今は夜中なのかしら。あなたの顔が見たいわ」
コソコソと会話をしていた時、コツコツという足音が耳に届いた。
「妃殿下……」
レモンが注意を促す。
シェリーは緊張した。
静かにドアが開き、廊下の灯りが部屋に伸びた。
入ってきた人間は男のようだが顔は見えない。
迷うことなくまっすぐにシェリーに向かって歩いてくる。
伸ばされた手に怯えたシェリーがひゅっと息を吞んだ。
「気付いたのかシェリー……ああ、良かった。怪我はないね?」
「その声は……イーサン? イーサンなの?」
「ああ、僕だよシェリー。会いたかった」
「なぜあなたがここに?」
「うん、いろいろあってね。ここはヌベール辺境伯の屋敷だ」
「私たちを攫った覆面の男はあなたなの?」
「そうだ。正確には三人いたけど、僕もその中にいたよ。攫った……そうだね。攫ったことは確かだけれど、僕たちは君の命を守ろうとしたんだ。あのまま王宮に居たら、それこそ国王の魔手に掛かっていたからね」
「意味が分からないわ。それよりこの拘束を解いて! 痛くて仕方がないの。彼女の拘束もよ」
「ああ、そうしてやりたいのは山々だけれど、今は難しい。もう少し待っていてくれ。必ず悪いようにはしないから」
「イーサン……あなた、怪我をしたって聞いたわ」
「うん、右目と右手を負傷して記憶喪失になったって話だろ? それは間違いない。でもそれは僕じゃない」
「えっ?」
「まあ後でゆっくり話すよ。食事を用意させよう」
イーサンはレモンには目もくれず、ゆっくりと部屋を出た。
シェリーは何が何やらわからないまま、呆然としている。
「皇太子妃殿下? 大丈夫ですか?」
レモンの声にやっと息を吸うことができたシェリーは、先ほど来た男についてレモンに説明を始めた。
シェリーは周りの気配を伺いながら静かに目を開けた。
しかし、本当に自分が目を開けたのかどうかわからないほどの暗闇に慄く。
ここで騒いでは悪手だと腹を決め、じっと耳を澄ませると少し離れている場所で人の息遣いがした。
見張りの者かそれともレモンか……
判断に迷ったシェリーはまだ覚醒していないふりを決め込んだ。
身じろぎもせず全神経を耳に集中する。
先ほど感じた人の気配からコソコソと衣擦れの音がした。
ドレスのレースが擦れ合う音だ。
「レモン?」
「妃殿下! ご無事ですか」
「ええ、私は無事よ。あなたは? 酷く殴られていたから心配だわ」
「あの程度のことは何でもありません。ただ武器を奪われてしまいました。申し訳ございません」
「命があればそれでいいわ。私はなぜだか結婚指輪を奪われたの。動ける? 私は縛られているみたいで動けないのよ」
「私もです。後ろ手に拘束され、足首も縛られています」
「言うとおりにしたのに酷いわね」
「殺されなかっただけ良かったかと」
「そうね……ここはどこかしら。心当たりがある?」
「かなり長時間移動したのは確かですが、ここはどこなんでしょう……急なことだったので何も手掛かりを残すことができませんでした」
「仕方がないわ。今は夜中なのかしら。あなたの顔が見たいわ」
コソコソと会話をしていた時、コツコツという足音が耳に届いた。
「妃殿下……」
レモンが注意を促す。
シェリーは緊張した。
静かにドアが開き、廊下の灯りが部屋に伸びた。
入ってきた人間は男のようだが顔は見えない。
迷うことなくまっすぐにシェリーに向かって歩いてくる。
伸ばされた手に怯えたシェリーがひゅっと息を吞んだ。
「気付いたのかシェリー……ああ、良かった。怪我はないね?」
「その声は……イーサン? イーサンなの?」
「ああ、僕だよシェリー。会いたかった」
「なぜあなたがここに?」
「うん、いろいろあってね。ここはヌベール辺境伯の屋敷だ」
「私たちを攫った覆面の男はあなたなの?」
「そうだ。正確には三人いたけど、僕もその中にいたよ。攫った……そうだね。攫ったことは確かだけれど、僕たちは君の命を守ろうとしたんだ。あのまま王宮に居たら、それこそ国王の魔手に掛かっていたからね」
「意味が分からないわ。それよりこの拘束を解いて! 痛くて仕方がないの。彼女の拘束もよ」
「ああ、そうしてやりたいのは山々だけれど、今は難しい。もう少し待っていてくれ。必ず悪いようにはしないから」
「イーサン……あなた、怪我をしたって聞いたわ」
「うん、右目と右手を負傷して記憶喪失になったって話だろ? それは間違いない。でもそれは僕じゃない」
「えっ?」
「まあ後でゆっくり話すよ。食事を用意させよう」
イーサンはレモンには目もくれず、ゆっくりと部屋を出た。
シェリーは何が何やらわからないまま、呆然としている。
「皇太子妃殿下? 大丈夫ですか?」
レモンの声にやっと息を吸うことができたシェリーは、先ほど来た男についてレモンに説明を始めた。
15
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる