どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連

文字の大きさ
29 / 77

29

しおりを挟む
 アマデウス王太子側近 アリア・ロックス侯爵令嬢 サマンサ・フロレンシア伯爵令嬢
 ルルーシア王太子妃側近 アラン・フェリシア侯爵令息 マリオ・メントール伯爵令息

 王太子には女性の側近がつき、王太子妃には男性の側近が付くというのは異例中の異例だ。
 しかもそれを提案したのが王弟キリウス殿下であり、アランもアリアも了承したということになる。

「マリオはものすごく頭の良い奴だよ。判断力がずば抜けている。アリアに似たタイプだね。ほら、卒業式の時に一緒に壇上に並んだだろ? あいつさ」

「ああ、あの赤い髪の方ですわね? ということは今年の優秀学生は全員側近に?」

「うん、全員が側近試験に合格した。もし執務室を共にするなら、あの日壇上に上がった者たちが全員揃って将来の国政を担うってことだ」

「……」

 ルルーシアとしては複雑な思いだ。
 執務室を一緒にすればアリアとも一緒に居られるが、サマンサとも毎日顔を合わせるということになる。
 しかし、執務室を分ければ我が夫とサマンサが何をしているのかを疑い続けることになるのだ。

「ああ……なるほど」

 そのためにアリアは王太子の側近になることに同意したのだと納得したルルーシアは、アリアの友情に感謝した。

「対外的には、男の僕では気が付かない細やかな部分を側近たちがカバーするってことらしい。君の場合はその逆だね。女性では思いつかない力技やゴリ押しのような政策も、彼らが矢面に立って進めるということだ。もちろんベテランの文官も僕とルルにそれぞれ2名ずつ配置される。こちらは僕が男性文官で、ルルは女性文官だよ」

「一見すれば合理的ですわね」

 ルルーシアは披露宴準備のために控室を出た。
 残されたアマデウスは、ひとり窓辺に立ちふっと溜息をつく。

「叔父上は何をお考えなのだろうか……」

 その声は饗応の間から聞こえる楽し気な音に紛れていった。

 そしてその日の夜、一般的には初夜となるが、この国の慣習として歴代の王族の墓参が済まないと同衾は許されない。

 墓参も大切な行事のひとつで、王太子夫妻とぞれぞれの専属侍女侍従がひとつの馬車に、もうひとつの馬車には新しく側近となった者たちが乗り込む。
 その二台の馬車は、沿道に並ぶ国民達の祝福を受けながら、歴代の王族が眠る「王の谷」へと向かうのだ。

 出発は明日の国内貴族を招待した披露宴が終わった翌日の早朝で、見送るのは国王と王妃、そしてこの国の政治を担う宰相とサミットを形成する貴族たち。
 
 披露宴には国内貴族の全てが招待されるが、登城できるのは各家二名までと決められている。
 もちろん強制ではないし、領地の状況や経済的な理由から参加を見送る貴族家もあってしかるべしなのだが、今回はガーデンパーティーという気楽さもあって、前回(現国王の披露宴)よりも参加者が多かった。

 王宮の中でも一番広い中央広場を会場とし、料理は広場の両脇に準備されている。
 混雑を避けるため、料理と飲み物のテーブルが交互に並び、和やかな雰囲気の中で披露宴は進んでいた。

「素敵なカップルですこと。凛々しい王太子と聡明で美しい王太子妃の誕生ですわ」

「これで我が国も安泰ですな」

 談笑するグループをしれっと冷めた目で見ながら、ワイングラスを片手に話す2人の男がいた。

「なあフェリシア、正直に言え。お前がフロレンシアの馬車を壊したんだろ?」

 ロックス侯爵が表情を変えずに言う。

「バカな事を言うな。俺はお前だとばかり思っていたぞ」

 フェリシア侯爵がロックス侯爵の顔を見ずに返した。

「じゃあメリディアン?」

「いや、あいつじゃないだろ。もし奴が動いたなら、馬車を壊して動けなくするなんて生ぬるいことなどするものか」

「そりゃそうだな。あいつが動いた瞬間、フロレンシアの野郎は息をしてないだろうからな」

 フェリシア侯爵が眉間に皺を寄せた。

「じゃあ誰だ?」

「俺は王弟殿下だと思う。あの人はなんだかんだ言って甥をものすごく可愛がってるから。これ以上立場を悪くするのを避けたのではないかな」

「ああ、あり得るな。それに、側妃は構わんが正妃を蔑ろにする行為は絶対に許さないとあのアホに言い放ったと聞いた。そういえば、お前んとこの娘、えらく優秀なんだな。まさか本当に側近になるとはなぁ」

「ああ、あの子の本気というものを父親の俺でさえ初めて見たよ。お前んとこの息子にも、えらく世話になったようだ。礼を言うよ」

「いやいや、あいつが不甲斐ないばかりにアリアちゃんが働く羽目になったんだ。あの程度で詫びになるとは思ってないよ」

 ふと広場に視線を送ったふたりの目に映ったのは、心から嬉しそうな笑顔でルルーシアを見つめるアマデウスと、王族としての完璧な笑顔を貼り付けたルルーシアが踊る姿だった。
しおりを挟む
感想 972

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...