19 / 46
19 嬉しい知らせ
しおりを挟む
紅茶を出して、ティアナがクレマンに言う。
「おじさま、見積書って何ですか?」
「見積書ですか……それは何かを買おうとしたときに、売り手の希望販売額を購入契約する前に確認するための書類です。特別高価なものや、納品までに時間がかかるものを購入する時に利用されます」
「ああ、なるほど。お店の家具を入れ替える予定です。とても良いものなのですが、一人でやるには席数が多いですし、高級感が……あの……」
せっかく準備してくれた家具に文句を言うようで、申し訳ない気分になる。
「どうぞ遠慮なく変えちゃってください。ご主人さまは予算だけ提示されて業者に一任されていましたので問題ありません」
「そうなのですか? よかった……なんだか申し訳なくて」
「ぜんぜん大丈夫です。家具職人の当てはあるのですか?」
「ええ、先ほどのルイザさんの幼馴染という方を紹介してもらいました。それよりおじが姪に敬語って変ですよ?」
「それもそうですね。では崩させていただきましょう」
クレマンが屈託のない顔で言った。
二杯目の紅茶に手を伸ばそうとしていた時、各職人のケインが顔を覗かせた。
「おはよう、ティアナちゃん。今はお取込み中かな?」
「いらっしゃい、ケインさん。こちらは私のおじでクレマンさんよ。いろいろ手伝ってもらうことになったの」
二人は自己紹介をし合いながら握手を交わす。
「見積書を持ってきたよ」
ティアナが広げた書類を覗き込むクレマン。
「なるほど、なかなか勉強してくださった価格のようだ。でも安ければ良いというものではないからね。君の実績はどこで見れるかい?」
ケントが少し驚いた顔をする。
「これはなかなか凄い助っ人を連れてきたね。ええ、勿論品質には自信がありますよ。ここから一番近いのは隣の床屋です。あそこの飾り棚は僕が作りました」
すぐに見ようということになり、三人は連れだってルイザの店に行った。
細かいところをチェックしたクレマンは、何度も大きく頷いている。
「素晴らしい腕ですね。これであの価格ならむしろ安い」
ケントが嬉しそうな顔をした。
「そう言っていただけると嬉しいです。それと今ある家具の転売についてご相談したいのですが」
ティアナは商売の話に夢中になっている二人の代わりに、ルイザに礼を言った。
店に戻りお茶を淹れなおしている間も話し込んでいるケントとクレマン。
自分は人に恵まれているとティアナはつくづく感じていた。
今ある家具の販売価格も、クレマンの想定よりかなり高値だったようで、家具入れ替えの契約はその日のうちに締結された。
経験だからといわれ、見積書や契約書の見方も習いながら、ティアナは生まれて初めて売買契約なるものを結んだ。
明日から毎日通ってくるというクレマンを見送り、ティアナはメニュー作りに没頭した。
買ってきていた蕪と鶏肉のトマト煮や、ベーコンとほうれん草のグラタンを次々に作っていく。
通りにも良い香りが漂うのか、ガラス窓から中を覗いて行く人もいた。
できた料理はルイザ夫婦に味見を頼んだ。
できるだけたくさんの意見も聞いた方が良いと言われ、商店街で顔見知りになった店主たちにも声を掛ける。
そんな日々を送るうちに、家具もできあがり店の飾りつけも整った。
「じゃあ明日から毎日、僕が花のお世話にくるからね」
「私はこのおいしい料理に合うパンを焼くわ。配達はトマスにさせるから」
「俺は良い肉を格安で降ろしてやるからな。安心してくれ」
「新鮮な野菜を毎日届けるよ」
みんな力強い言葉をティアナにくれる。
喜ぶティアナの後ろで、クレマンも嬉しそうだ。
いよいよ週明けには開店という日の午後、ティアナに嬉しい知らせが舞い込んだ。
「ティアナちゃん、サマンサ様が解放されることになりましたよ。いよいよ新王態勢が整ったのでしょう。前王の側妃たちで子供を嫁がせた人達は無条件解放だそうです」
「それは素晴らしいです。良かった……これでサマンサ様の苦労も報われますね」
「ええ、サマンサ様はとても不幸な結婚をなさいましたが、ティアナちゃんのお陰で娘のマリアーナ様も愛した人と一緒になれましたし、かなり時間がかかってしまいましたが丸く収まりそうですよ」
「これからサマンサ様はどうされるのですか?」
「一旦はご実家に戻られます。少しの間はゆっくりなさることでしょう」
「安心しました」
「それともう一つ。マリアーナ様がご懐妊です」
ティアナは飛び上がるほど嬉しかった。
思わずクレマンに抱きついて声をあげて泣いてしまった。
そして遂に開店の日。
店の前には祝いの花が所狭しと飾られ、ティアナとクレマンはお揃いのエプロンをして、最終点検をしていた。
「いよいよですね」
「はい、いよいよです」
「頑張ってくださいね」
「はい、よろしくお願いします」
記念すべき開店日のメニューはバジルとトマトのファルシに決めた。
黒コショウを利かせて、薄くスライスしたパンを添える。
スープはオニオンコンソメで、サラダはキャロットラぺだ。
「いらっしゃいませ!」
極上の笑みでお客様を迎え入れる。
席数が少ないのですぐに満席になったが、ゆったりした配置とケントの助言で作った小物と焼き菓子コーナーのお陰で、和やかにすごせているようだ。
「おじさん! 1番テーブルにパンをお願い!」
「はいよ!」
「3番テーブルのサラダ上がったよ!」
「よっしゃ!」
とても元王女と貴族家執事の掛け合いとは思えないほどの活気が飛び交う。
予定数を大幅に超えた来客をさばききった夕方、今度はお世話になった商店街の人達がやってきた。
「上々の滑り出しだねぇ」
口々に祝いの言葉を述べてくれる。
トマスもシェリーも、ウィスもケントも本当に嬉しそうな顔で祝ってくれた。
ティアナは予てより準備していた感謝の品を一人ずつ手渡して礼を言った。
「皆さんのお陰です。これからもよろしくお願いします」
みんなが引き上げた後、サミュエルとサマンサがやってきた。
気を遣ったのだろう、地味なワンピースとスーツを纏っているが、滲みだす気品は隠せていない。
サマンサとティアナは抱き合って再会を喜んだ。
サミュエルが記念だといって、上品な銀の髪飾りをプレゼントしてくれ、サマンサは海と夕焼けを描いた絵画を渡された。
ティアナの新しい人生が、本格的に始まったのだ。
「おじさま、見積書って何ですか?」
「見積書ですか……それは何かを買おうとしたときに、売り手の希望販売額を購入契約する前に確認するための書類です。特別高価なものや、納品までに時間がかかるものを購入する時に利用されます」
「ああ、なるほど。お店の家具を入れ替える予定です。とても良いものなのですが、一人でやるには席数が多いですし、高級感が……あの……」
せっかく準備してくれた家具に文句を言うようで、申し訳ない気分になる。
「どうぞ遠慮なく変えちゃってください。ご主人さまは予算だけ提示されて業者に一任されていましたので問題ありません」
「そうなのですか? よかった……なんだか申し訳なくて」
「ぜんぜん大丈夫です。家具職人の当てはあるのですか?」
「ええ、先ほどのルイザさんの幼馴染という方を紹介してもらいました。それよりおじが姪に敬語って変ですよ?」
「それもそうですね。では崩させていただきましょう」
クレマンが屈託のない顔で言った。
二杯目の紅茶に手を伸ばそうとしていた時、各職人のケインが顔を覗かせた。
「おはよう、ティアナちゃん。今はお取込み中かな?」
「いらっしゃい、ケインさん。こちらは私のおじでクレマンさんよ。いろいろ手伝ってもらうことになったの」
二人は自己紹介をし合いながら握手を交わす。
「見積書を持ってきたよ」
ティアナが広げた書類を覗き込むクレマン。
「なるほど、なかなか勉強してくださった価格のようだ。でも安ければ良いというものではないからね。君の実績はどこで見れるかい?」
ケントが少し驚いた顔をする。
「これはなかなか凄い助っ人を連れてきたね。ええ、勿論品質には自信がありますよ。ここから一番近いのは隣の床屋です。あそこの飾り棚は僕が作りました」
すぐに見ようということになり、三人は連れだってルイザの店に行った。
細かいところをチェックしたクレマンは、何度も大きく頷いている。
「素晴らしい腕ですね。これであの価格ならむしろ安い」
ケントが嬉しそうな顔をした。
「そう言っていただけると嬉しいです。それと今ある家具の転売についてご相談したいのですが」
ティアナは商売の話に夢中になっている二人の代わりに、ルイザに礼を言った。
店に戻りお茶を淹れなおしている間も話し込んでいるケントとクレマン。
自分は人に恵まれているとティアナはつくづく感じていた。
今ある家具の販売価格も、クレマンの想定よりかなり高値だったようで、家具入れ替えの契約はその日のうちに締結された。
経験だからといわれ、見積書や契約書の見方も習いながら、ティアナは生まれて初めて売買契約なるものを結んだ。
明日から毎日通ってくるというクレマンを見送り、ティアナはメニュー作りに没頭した。
買ってきていた蕪と鶏肉のトマト煮や、ベーコンとほうれん草のグラタンを次々に作っていく。
通りにも良い香りが漂うのか、ガラス窓から中を覗いて行く人もいた。
できた料理はルイザ夫婦に味見を頼んだ。
できるだけたくさんの意見も聞いた方が良いと言われ、商店街で顔見知りになった店主たちにも声を掛ける。
そんな日々を送るうちに、家具もできあがり店の飾りつけも整った。
「じゃあ明日から毎日、僕が花のお世話にくるからね」
「私はこのおいしい料理に合うパンを焼くわ。配達はトマスにさせるから」
「俺は良い肉を格安で降ろしてやるからな。安心してくれ」
「新鮮な野菜を毎日届けるよ」
みんな力強い言葉をティアナにくれる。
喜ぶティアナの後ろで、クレマンも嬉しそうだ。
いよいよ週明けには開店という日の午後、ティアナに嬉しい知らせが舞い込んだ。
「ティアナちゃん、サマンサ様が解放されることになりましたよ。いよいよ新王態勢が整ったのでしょう。前王の側妃たちで子供を嫁がせた人達は無条件解放だそうです」
「それは素晴らしいです。良かった……これでサマンサ様の苦労も報われますね」
「ええ、サマンサ様はとても不幸な結婚をなさいましたが、ティアナちゃんのお陰で娘のマリアーナ様も愛した人と一緒になれましたし、かなり時間がかかってしまいましたが丸く収まりそうですよ」
「これからサマンサ様はどうされるのですか?」
「一旦はご実家に戻られます。少しの間はゆっくりなさることでしょう」
「安心しました」
「それともう一つ。マリアーナ様がご懐妊です」
ティアナは飛び上がるほど嬉しかった。
思わずクレマンに抱きついて声をあげて泣いてしまった。
そして遂に開店の日。
店の前には祝いの花が所狭しと飾られ、ティアナとクレマンはお揃いのエプロンをして、最終点検をしていた。
「いよいよですね」
「はい、いよいよです」
「頑張ってくださいね」
「はい、よろしくお願いします」
記念すべき開店日のメニューはバジルとトマトのファルシに決めた。
黒コショウを利かせて、薄くスライスしたパンを添える。
スープはオニオンコンソメで、サラダはキャロットラぺだ。
「いらっしゃいませ!」
極上の笑みでお客様を迎え入れる。
席数が少ないのですぐに満席になったが、ゆったりした配置とケントの助言で作った小物と焼き菓子コーナーのお陰で、和やかにすごせているようだ。
「おじさん! 1番テーブルにパンをお願い!」
「はいよ!」
「3番テーブルのサラダ上がったよ!」
「よっしゃ!」
とても元王女と貴族家執事の掛け合いとは思えないほどの活気が飛び交う。
予定数を大幅に超えた来客をさばききった夕方、今度はお世話になった商店街の人達がやってきた。
「上々の滑り出しだねぇ」
口々に祝いの言葉を述べてくれる。
トマスもシェリーも、ウィスもケントも本当に嬉しそうな顔で祝ってくれた。
ティアナは予てより準備していた感謝の品を一人ずつ手渡して礼を言った。
「皆さんのお陰です。これからもよろしくお願いします」
みんなが引き上げた後、サミュエルとサマンサがやってきた。
気を遣ったのだろう、地味なワンピースとスーツを纏っているが、滲みだす気品は隠せていない。
サマンサとティアナは抱き合って再会を喜んだ。
サミュエルが記念だといって、上品な銀の髪飾りをプレゼントしてくれ、サマンサは海と夕焼けを描いた絵画を渡された。
ティアナの新しい人生が、本格的に始まったのだ。
31
あなたにおすすめの小説
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
あなたより年上ですが、愛してくれますか?
Ruhuna
恋愛
シャーロット・ロックフェラーは今年25歳を迎える
5年前から7歳年下の第3王子の教育係に任命され弟のように大事に大事に接してきた
結婚してほしい、と言われるまでは
7/23 完結予定
6/11 「第3王子の教育係は翻弄される」から題名を変更させて頂きました。
*直接的な表現はなるべく避けておりますが、男女の営みを連想させるような場面があります
*誤字脱字には気をつけておりますが見逃している部分もあるかと思いますが暖かい目で見守ってください
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
恋の締め切りには注意しましょう
石里 唯
恋愛
侯爵令嬢シルヴィアは、ウィンデリア国で2番目に強い魔力の持ち主。
幼馴染の公爵家嫡男セドリックを幼いころから慕っている。成長につれ彼女の魔力が強くなった結果、困った副作用が生じ、魔法学園に入学することになる。
最短で学園を卒業し、再びセドリックと会えるようになったものの、二人の仲に進展は見られない。
そうこうしているうちに、幼い頃にシルヴィアが魔力で命を救った王太子リチャードから、
「あと半年でセドリックを落とせなかったら、自分の婚約者になってもらう」と告げられる。
その後、王太子の暗殺計画が予知されセドリックもシルヴィアも忙殺される中、シルヴィアは半年で想いを成就させられるのか…。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。なろうサイトでは番外編・後日談をシリーズとして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる